56 貴族の繋がり
前回のあらすじ
ケ「本音を言え」
マ「ケインキモッ」
ケ「嘘だっ!」
ケ「…はっ!?もしや洗脳では?」
ケ「許せんっ、決闘だ!!」
ラ「嫌だが?」
決闘を申し込まれたので断ったら周りが石化した。
何を言っているか分からないだろうが、俺もどうしてそうなったのか分からない。
「…お、おいラスト。」
流石元一流冒険者というべきか、ギルマスがいの一番に復活し、何故か俺を咎めるように声をかけてくる。
「ギルマス…俺はギルマスに会うだけでもって言われたから、俺は今日ここに来たんだ。」
俺は暗に「話が違うぞ」とギルマスに指摘する。
確かに貴族の要請を一冒険者が断れないとか、ニーニャの件で助けになるかも知れないとかという理由はあるが、ケインと話をして期待できないことが確定した。
ギルマスへの義理を果たした今、利のない決闘など受ける理由もない。
「貴様っ、一度ならず二度までも我に楯突くとは…!」
顔を赤を通り越して赤黒くして怒るケインは、もしも剣を持っていれば斬り掛かってきたことが確実な程、殺気を込めた目で俺を睨む。
「ドクソン子爵令息、待て。
貴族とて『理由なく民の資産を接収してはいけない』というのは知っている筈だ。」
「ぬ…、貴族法か。
だが理由など、我に対する不敬で十分であろう?」
「ラストは正当な権利に基づいて拒否しただけのようだったが?」
怒っていても身分が上のギルマスを無視することはできないようで、不服ではありそうだが落ち着くケイン。
しかしギルマスとケインは、当事者である俺達を除いて難しい話をし始めた。
「ふんっ、しょせん平民の…しかも野蛮な冒険者の権利など─」
「坊っちゃま、それはいけませんぞ!」
ケインがギルマスに反論しようとしたところで、ケインの侍従であるセハスが主にストップをかける。
「セハスッ、何故止める!?」
止めに入った侍従にケインは怒りの矛先を向けるが、セハスは怒気を受け流し主に言い聞かせる。
「王国法は国王様が制定するものでありますれば…。」
またよく分からない法が出てきたがセハスの説明によれば、王国法というものは国王様が制定するもので、その王国法の内容について否定的なことを言う=国王様への反逆=国家反逆罪に問われる…ということらしい。
「しかしそれではっ…、こんな辺鄙な田舎街に来た意味が無かろう!?」
(あ~あ、遂に言いやがった。)
この街を治めているのは伯爵家だ。
その領地を他領の貴族が馬鹿にすることが良いことでないのは、ケインの発言を聞き天を仰いだギルマスの態度から察せられる。
「坊っちゃま。」
「分かっている!だが…、だがっ!」
侍従に呼ばれるも、思うようにいかないことにケインは地団駄を踏む。
チラッ
主を宥めようとするセハスが一瞬だけ俺…
(いや、この視線は…。)
セハスの視線を追おうとするも、ほんの一瞬であったために、視線の先の特定に失敗する。
しかしこちらを意味ありげに見たことははっきりと分かり、俺は嫌な予感がした。
「坊っちゃま。
─────────。」
「何と!?」
チラッ
セハスに何やら耳打ちされたケインが、先ほどのセハス同様にこちらをチラ見する。
「まさかっ!
────────?」
「はい、おそらく。」
「ならば、───────?」
「ええ。」
先ほどの俺もマリ姉と内輪でやり取りをしたが、この光景のどこにイチャついていると勘違いする要素があるのだろうか?
…いや、男同士ということも加味しても、仲の良さは欠片も感じられず不穏でしかない。(特に目元を腫らしながらも悪どい笑みを浮かべるケインなど)
そして内輪の話を終えたケインはこちらに向き直り、不気味な顔のまま話だす。
「そういえば我が家と敵対する派閥にダイカーン子爵家があってな。」
「「「?」」」
いきなり変わった話に、俺・ギルマス・マリ姉の三人は、不審に思いながらもケインの話に耳を傾ける。
「そこの嫡男のアックがな、しばらく前に専属のメイドが付くと自慢してきてな。
…ああ、あれは鬱陶しかった。」
ケインは鏡を見た方が良いと思う。
「確か…、隣国から取り寄せた亜人種の奴隷だとか。」
「雑談するなら帰ってくれ。
俺もギルドの仕事は暇じゃないんだ。」
亜人種とは人間種以外の獣人種・ドワーフ・エルフ等をひっくるめた、人間主義者が使う蔑称だ。
あらゆる種族が属する冒険者ギルドとして、また個人としてもギルマスは不快をケインに示した。
「まあ待て、ここからが愉快な話でな。
散々我に自慢したその奴隷なんだがな、タウンハウスへの移送中に逃げてしまったんだとか。」
ケインはギルマスが話がつまらなくて不快を示したと思ったらしく、見当外れの言葉で引き留め話を続けた。
…それよりも、ケインの話は何だか聞き覚えがある話だ。
(…いやいや、こんな話はよくある話だ。)
俺は増していく不安を、ありふれた話として頭から振り払おうとする。
「おかげで賠償として移送を担当した商会を手にできたと、むしろダイカーン子爵は喜んだらしいがな…。」
「…そうか。」
肩を竦めて言ったケインに、短く相槌を返したギルマス。
俺は話が逸れたことに一安心…
「ついでに…当のアックは子爵に内緒でその商会に命じて、逃がした亜人奴隷を探させているらしい。
…諦めの悪い奴だよ、本当に。」
と思いきや、ケインは一段落した話を交ぜ返す。
「我が奴から聞かされた特徴は、成人前の雪のように白い毛の猫人族だとか?
…おや、丁度そこの彼女と一致するな?」
わざとらしく言ったケインが指したのは、今まで我関せずと茶菓子を食んでいたニーニャ。
俺の感じた嫌な予感が、最悪の形で当たってしまった瞬間だった。
マリ姉の件?…残念でした両方共だ。
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