54 貴族との会見
PV数がね、なんか…もうすごいことに…。(感謝!)
それはそれとして、簡易版応接室配置図どうぞ
○ギルマス
ニーニャ○ ┏━┓
ラスト ○ ┃ ┃ ○ケイン
マリ姉 ○ ┗━┛ ○セハス(直立)
↑テーブル
┌┐出入り口
││←┘
あの後何とか場を落ち着かせ、互いに自己紹介(ニーニャとマリ姉は除外)を済ませた。
ケインと名乗った貴族男は、ドクソン子爵家の子息らしいが、この街近辺を治めているのは伯爵家だった筈だ。
(他領にわざわざ…、ご苦労なこって。)
先ほどケイン(様は付けたくない)は「我が妻」と言っていた。
たかが…と言ってはマリ姉やニーニャに申し訳ないが、実際問題「平民の女一人」のために領を越えて来たとなると、日々の生活を安定させるので精一杯の底辺冒険者としては良い感情が起こらない。
「貴様、…確かラストといったな?」
「…へい。」
「むっ…。」
呼ばれたので返事をしたが、何が気に障ったのか僅かに顔をしかめるケイン。
丁寧な言葉使いを平民に求められても困る。
「…はぁ、まぁいいか。
用件は唯一つだけだ。」
(ようやく本題か…。)
はよ言え。
聞くだけなら聞いてやる。
「お前、我にマリアの所有権を献上せよ。」
「断る。」
ケインの馬鹿な要求を、俺はノータイムで拒否する。
元々ニーニャかマリ姉狙いだと見当をつけていたため、ケインがマリ姉の名前を口にした時点で拒否しても良かった。
しかしフェイントの可能性を考えて最後まで聞いてみたが、ケインの言動は俺が抱いた「直情的な馬鹿」という印象に則したもので、俺はある意味で安心した。
「おいセハス、我の耳がおかしくなったようだ。」
俺がはっきりと断ったにも関わらず、ケインはわざとらしく背後に控える侍従に話しかけた。
「坊っちゃま申し訳ありません。
このセハスも、かの冒険者が坊っちゃまの寛大なる厚意を拒否したように聞こえました。」
どうやら主従揃って難聴を患ってしまっているようだ。
更に侍従に関しては頭の病気の疑いもありそうだ。
でなければ何故「マリ姉を俺から取り上げる」ことが「寛大なる厚意」になるのか…。
俺より遥かに貴族という人種を知るギルマスなら、もしかしたら説明できたりするのだろうか?
「ならもう一度言う。
俺は「こ・と・わ・る・!」と言ったんだ。」
主従漫才に付き合う義理もないので俺は再度、発音の一つ一つを強調しながら「拒否」の意志を伝える。
「馬鹿なっ!?」
(馬鹿はそっちだよ!)
二度目の断りに流石に流せなかったかケインが叫ぶも、あの要求を本気で受け入れられると思っていたのだろうか?
「マリ姉は今の身分こそ奴隷だが、俺達の大事な仲間なんだよ。」
「ぬ…。」
所有物扱いされる奴隷だが、奴隷も人である。
仮にマリ姉が俺の幼馴染みじゃなかったとしても、同じパーティーで活動している以上は同じ人として遇していただろう。
だからこそ貴族の「自分の欲しい物を平民が持っているから取り上げてしまえ」という考えには、二重の意味で「ふざけるな!」と俺は思う。
「「マリ姉」だと…?貴様っ!
貴様のような下賎な輩が、我が妻を“姉”などと親しげに呼ぶなど…赦されると思うなよ!?」
ダンッ!
しかし俺が「一人の人間を献上しろとか、お前馬鹿じゃねーの?」と暗に言ったことには気付かれず(侍従は気付いたっぽいが…)、ケインは俺がマリ姉を「マリ姉」と呼んだことにキレてテーブルを拳で叩いた。
「熱くなり過ぎだ、一旦落ち着け。」
いきり立つケインを、ここまで居るだけだったギルマスが抑えにかかる。
「蛮人共の取り纏め風情がっ!
貴様たる我に指図するなど、不敬だぞっ!」
しかし熱くなったケインは落ち着くことはなく、逆に横から入ってきたギルマスに食って掛かった。
「坊っちゃま、いけませんっ…!
冒険者ギルドのギルドマスターは“Aランク冒険者”ですぞ!?」
やはりギルマスでも貴様は抑えられないのかと身分の壁の高さを実感させられたが、意外なことに侍従のセハスがケインを諌めようと動いた。
「何っ!?くっ…!」
セハスの告げた言葉を聞き、ケインは悔しそうにしながらも浮かせていた腰を下ろした。
「(貴族でもAランク冒険者には遠慮するのな?)」
俺は見事役割を果たしたギルマスに感動し、マリ姉にこっそりと聞いた。
「(ラス君知らないの?
この国だと、この国所属のA ランク冒険者には準男爵位が与えられるのよ。)」
俺の疑問に、マリ姉は「何故そのことを知らないのか?」といった様子で応えた。
「(えっ…、じゃあギルマスは貴族?)」
「(そ、…一代限りだけどね。)」
高ランク冒険者になると社会的地位が上がるのは聞いていたが、まさかそれが身分的に保証されたものだとは思ってもいなかった。
「(…あれ?でもケイン…様は子爵家なんだろ?)」
準男爵という爵位は聞き馴染みが無いが、子爵が男爵より上というのは知っている。
つまり準男爵のギルマスが、子爵家のケインを抑えられるのはおかしいのではないか?
「(確かに準男爵は男爵より下になるんだけど、ケインは子爵家令息でギルマスは準男爵本人だから。)」
俺が聞こえないようにとはいえ一応ケインを様付けで言っているのに、マリ姉は迷うことなく呼び捨て(しかも若干嫌そう)で話す。
それはともかくとして。
マリ姉の話によると、ケインは子爵家の人間であって子爵ではない。
対するギルマスは爵位は下でも爵位を持つ人間。
単なる貴族家の人間と爵位持ちの人間では、後者の方が身分は上。
極端に言うと、ケインが公爵家令息であっても準男爵のギルマスより“身分上は”下になるということだ。(実際のところはそうもいかないらしいが…まぁ当然だろう)
「~~っ、おい貴様!
お前、マリアを賭けて我と決闘しろ!」
マリ姉に身分制度のあれこれを聞いていたら、再び顔を真っ赤にして怒ったケインが俺に決闘を申し込んできた。
(何故に…?)
落ち着いたと思えば、突然また怒りだすとは…。
どうやら、ケインは情緒不安定らしい。
「いや…、目の前でそんな仲良さげに内緒話をされたらキレるだろうよ。」
状況の分かっていない俺達の様子を見て、ギルマスが呆れたように呟いた。
どうやら俺達は、無意識の内にケインを煽ってしまっていたらしい。
ラ「あれ?俺達何かやっちゃいましたw?」
ケ「テメェ、ブッ殺してやる!」
貴族に決闘を申し込まれたラスト。
知っているか?“平民は貴族の申し出を断れない”
貴族を煽ってしまったラストはどうなるの?
次回「決闘」
デュエル、スタンバイッ!
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