53 実績解除:貴族とのファーストコンタクト
ラ「分かった、助かった。」
男「…。」(そのまま立っている)
ラ「…、…?」(退かないので不審に思う)
マ「(ラス君、チップ。)」
ラ「これで良いのか?」(銀貨1枚を差し出す)
男達「「「ヒャッハー!」」」
ラ&マ「っ…」(喜びようにドン引き)
二「…子供?」
ニーニャの言葉が男達のハートにクリティカル!
「貴族の使者ぁ~?」
偽山賊に伝言を受けてやってきた冒険者ギルド。
ギルマスの執務室で用件を聞かされた俺は、ギルマスの口から出たその言葉を心底嫌そうに復唱した。
「そんなに嫌そうな顔をするなよ。
他の奴らなら飛び上がって喜ぶぞ?」
仕方のない奴を見るような目で俺を見ながら、そう言って宥めてくるギルマス。
冒険者は街で定職に就いている者より下に見られがちである。
そうなる理由を一言で言うなら「生活が不安定だから」となる。
冒険者のほとんどが他の仕事にありつけなかった者達であり、自ら好き好んで冒険者になる者など極一部でしかない。
生計を立てるには魔物退治が必須となり、故に現役期間の短い冒険者は、そのほとんどが安定した職に就く機会を探っている。
そんな冒険者達の目標の一つが「貴族家への仕官」だ。
求められていることは荒事には変わりないのだが、貴族の私兵は“必ずしも荒事をする必要がない”だけでも冒険者とは随分と違ってくる。
場合によっては雇い主の貴族の権威を笠に着て、今まで下に見てきた街人らに威張り散らせるというのも荒くれ的には魅力的なのだろう。
つまり「貴族の使者が訪ねて来る」というのは、その背後にいる貴族に自分をアピールできる貴重な機会というわけだ。
もしかしたら俺もソロのままだったら喜んでいたことだろう。
「…悪いが俺は変わり者らしくてな。」
しかしニーニャとマリ姉とパーティーを組み、曲がりなりにも安定した生活ができている今、俺は“自由な”冒険者でいることを楽しんでいる節がある。
…それに俺がソロでいたとして貴族が使者を送って来るとは思えず、消去法でニーニャかマリ姉…もしくは二人共を目的としての接触に違いない。
(ニーニャもマリ姉も大事な仲間だ。)
仕官の強制は当然ながら、二人の引き抜きなど…。
何故それを“俺が”歓迎できるというのか?
「まぁ…とりあえず会うだけ会って欲しい。
会見には俺も立ち会わせて貰う。」
いくら拒否したくとも貴族と平民。
平民の俺が貴族の要求を断れば、最悪不敬を働いたとした斬り捨てられる可能性もある。
ギルマスの言い分はそれを防ぐためでもあり、俺の懸念を和らげるために立ち会いまでしてくれるという。
「………………、……分かった。」
渋りに渋った末、俺はギルマスの苦労も考えて了承の返事をした。
ギルマスに世話になっている恩もあるが、ここで巧く話を纏めてニーニャの件もどうにかできるのではという考えもあった。
(竜の巣に行かなければ竜鱗は手に入らない。)
求める結果を得るためには相応のリスクを冒す必要があるという例えだ。
…まぁ、今回の場合だと(十中八九面倒が起こるだろうが)一度会うだけでOK だという。
更にギルマスという…例えに準えていうと“強固な盾”もある。
こちらが求めるものがなければ、リスクもかなり抑えられる筈だ。
むしろ貴族と会うことでホラフキーのような奴らに絡まれなくなるかも知れない。
(…いや、それはないか。)
「馬鹿は死ぬまで愚か」というように、あのテの奴らは気に入らなければ貴族にも絡んでいくのだろう。
そういえばここ最近ホラフキーを見ていないが…、まぁ…どうでも良い奴だからいいか。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
─ 二日後 ─
本日は空に雲一つない快晴。
ギルマスに伝えられた、ギルマスに貴族の使者が一方的に告げた会見の日だ。
「はぁ~…。」
晴れた空とは対称的に、俺の気持ちには分厚い雲がかかっている。
「…あのなぁ、いい加減シャキッとして欲しいんだが…。」
貴人や重要案件の依頼を承るためのギルドの応接室。
滅多に使用されない一人掛けのソファに座るギルマスが、うんざりした顔で俺に言う。
「元気出して?」
俺の座る三人掛けのソファの右側に座るニーニャが、俺を見上げながら励ましの言葉をかけてくれる。
「…予想はできたけど、やっぱり時間には遅れるのね。」
「仕方ないだろう、…そういうもんなんだから。」
マリ姉の言うように、貴族の使者が指定した時間はとうに過ぎているが、時間を指定した側は未だに先触れすら来ていない。
立場的に貴族と関わることの多そうなギルマスは慣れているのか、マリ姉の言葉に返しているようで俺達全員に我慢するように言う。
(仕方ないで済まされる身にもなってみろってんだ。)
ただでさえ今日会見があるということで、昨日の狩りは中止にさせられたのだ。
更に自分で指定した時間に遅れて来るなど、俺の中での“まだ”見知らぬ貴族への印象は悪くなる一方だった。
前回の狩りでオークを仕留めていなければ、生活が苦しくなるところだった。
コンコンッ
「ギルマス、会見を予定されていた貴族様がやって来ました。」
応接室の扉がノックされ、受付嬢が扉の向こうから貴族の到着を知らせてくる。
「分かった。
湯の用意と、湯が用意できるまで待合室─」
ドヤドヤ
「お待ち下さいっ─様!」
「例の者は既にいるのであろう?
ならば待つ理由は無い!」
「困ります─様っ。
あっ…ちょ、あーっ!」
ギルマスが受付嬢に歓待の指示を出そうとしたが、どうやら向こうは構わず向かって来たらしい。
「…おい。」
この時点で分かる会見相手の貴族の横暴さに、俺はギルマスにしっかり役割を果たすように釘を刺した。
バアァンッ!
壊れることを厭わない勢いで開かれた扉。
止めようとしたギルド職員を腰に纏わりつかせたまま、装飾品過多でギラギラと光る質だけは良い服装の若い男が、応接室に入ってきたと同時に叫んだ。
「我が妻が囚われているのはここかっ!?」
「「「「…はぁ?」」」」
あまりにもそぐわない(推定)貴族男のセリフに、応接室にいた一同は不敬というものを忘れ、異口同音でその反応を示したのだった。
※ラストに限って言えば、貴族とのファーストコンタクトはスマト村で終えています。
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