48 ダンディズム
また余計なエピソード入れて予定外。
ギルマスが所有する家を借りて一ヶ月。
当初一週間かそこらの緊急避難的なものとして借りた一軒家だったが、現在は半ば〈白の大樹〉のパーティーハウスと化していた。
というのもスマト村の依頼の一件から、俺達は素直に常設依頼をこなし、金銭的余裕ができ建物に見合った家賃を払えるようになったのだ。
そうなると、わざわざ部屋を分け他の客に気を遣う宿に移る理由が無いのだ。
具体的には…
「…んっ、ラス君…。」
朝起きた俺の隣には、マリ姉が眠っている。
そして俺もマリ姉も一糸纏わぬ全裸だ。
毎晩ではないが、この一ヶ月は週三くらいのペースでこうしている。
カチャ
「ご主人、起きてる?」
寝言を言うマリ姉を眺めていると、静かに開いたドアの隙間からニーニャが顔を出す。
「ああ…ニーニャ、おはよう。」
「おはよご主人、…今日はどうする?」
現在の俺達は大体、隔日でギルドの常設依頼をこなしている。
昨日はオークを仕留めたので2・3日は休みにしても問題は無いだろう。
「ん~…、違う。」
そのことを伝えた俺に対するニーニャの反応だ。
(…分かってはいるんだけどなぁ。)
俺は内心でどうするべきか、いつものように悩む。
というのも…
─ 約一ヶ月前 ─
「はぁ…。」
ギルマスの好意により借りた家に、宿を移して数日。
俺は狩りの疲れとは別の、溜め息をついていた。
「ご主人、疲れた?」
マリ姉“に”ウルフの解体を教えていたニーニャが、俺の溜め息を聞きつけ訊ねてくる。
「いや、ちょっと…な。
…それより解体はどうだ?」
周辺警戒中に別のことに気を向けるのは愚行だった。
ばつの悪さを感じた俺は溜め息の理由を濁し、話題を変えることで誤魔化した。
「…ん、ばっちり。」
実はマリ姉、ダンジョンでばかり狩りを行っていた弊害で、狩った魔物の解体のやり方を知らなかったのだ。
ダンジョンの魔物は幻影のようなものらしく、倒すと一部の素材といくらかのゴールドを残して消えるらしい。
俺は村でガキの頃に親父に解体のやり方を教わったが、魔女の生まれ変わりとして疎まれていたマリ姉は、村では貴重な狩りの獲物に触ることは出来なかったらしい。
だからこうしてニーニャの復習がてら、マリ姉にも獲物の解体のやり方を覚えてもらっているということだ。
「ラス君、片付け終わったよ?」
解体した素材を持ち運びしやすいように纏め、不要部分を埋め終わったマリ姉が声をかけてきた。
「よし、じゃあ帰ろう。」
「「うん(ん)!」」
俺の号令に元気良く返事をするマリ姉とニーニャ。
体力的にはまだまだ狩りを続行できそうだが、やり過ぎは良く無い。
因みに本日はウルフ2体に角兎3体、ついでに遭遇したゴブリン5体と、中々の大成果であった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
ガヤガヤ…ガヤガヤ…
「はぁ…。」
ところ変わってギルドの酒場、ニーニャの元職場だ。
それぞれの討伐報酬約9,000G(ウルフ×2→3,000G 角兎×3→900G ゴブリン×5→5,000G)に加え、素材(毛皮・肉・魔石等)の売却で合わせて2万ゴールド程の稼ぎとなった。
前回の狩りが俺のリハビリがてらで1万ゴールド程だったことから、今回程の稼ぎにならずとも1万5,000ゴールド程は稼げると考えられる。
「辛気臭い顔しやがってどうしたんだ?」
隣のテーブルで酒を飲んでいた冒険者に絡まれた。
「何でもない。」
何でもなくはないが、かといって赤の他人の酔っぱらいに話せる程軽い話でもない。
「何でもないって顔じゃねぇって。
そうだなぁ…、依頼にでも失敗したか?」
あしらわれたことに構わず、隣の酔っぱらいは理由の推測を始める。
「バカかお前、依頼に失敗したらこんなトコにいるワケ無いだろ。
お前あれだろ?女に逃げられたんだ!」
ギルドの酒場の食事は良心的な価格ではあるが安くはない。(材料が売り捌けなかった魔物肉だったりするため)
…安くはないのだが、ほとんどの冒険者はここでその日の稼ぎをほぼ全て消費する。
(実質只働きみたいなもんだな…。)
ギルドは素材を卸した利益を得、報酬に払った金は余り物を調理して回収…中々に悪どい(褒め言葉)商売をする。
それはともかく、現在俺は一人で4人掛けのテーブルを占拠しているのだが、残念ながら酔っぱらいその2の予想も外れだ。
「お待たせ~、って先に食べててって言ったのに。」
「ん、気持ちよかった。」
公衆浴場に行っていたニーニャとマリ姉が合流する。
「見てのとおり料理がまだなんだ。」
俺がちびちび飲んでいたエールのジョッキが一つだけ載るテーブルを示す。
「…お待ち。」
そこに丁度注文していた品々を、曲芸の域にバランス良く積み上げたマスターが持ってやって来た。
(丁度良くというより、見計らっていやがったな。)
おそらくニーニャとマリ姉が公衆浴場に行くという話を聞いていたのだろう。
女を差し置いて料理は食わせないという、マスターの謎美学が光る。
「あら、ナイスタイミング。」
「美味しそう。」
しかし出された料理は作りたてで、俺はマスターの謎美学に対する真摯さを垣間見たのであった。
マ「…一人ならカウンターを使いな。」
ラ「二人、後から来る。」
マ「…注文は?」
ラ「エール2つに果実水一つ。
後は…、摘まめるものを適当にいくつか。」
マ「エール2つに果実水一つ。
お任せ数皿、…少し待て。」
…的なやり取りがあったとかなかったとか。
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