47 絶縁
フ、ファム…さん…?
10,000pv突破しました!
本作をお読み下さりありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
本章最終話です。
本日12:00に登場人物纏め上がります。
「…ラスト君はこのウリボアを譲ってくれると言ったね?」
改めて聞いてくるファムさんに、俺は答える。
「あ、ああ…。
ただ俺達の生活もかかっているから10万ゴールドは欲しい。」
このウリボアに推定される最低買い取り額を伝えてしまったが、ウリボアとして見るのであれば8万ゴールドを下回らなければ、俺としては売っても良いと思っている。
「ラスト君は譲るという言葉の意味を勘違いしていないかい?」
しかしある意味最大限に譲歩した俺の要求を、ファムさんは俺を嘲るような言葉で拒否したのだ。
「ただで獲物を寄越せってことか?」
ファムさんが言っているのは、つまりそういうことだった。
「そのウリボアはこの村の作物を荒らした。
不本意とはいえ、それはつまりこの村が育てたことにならないかい?」
ファムさんの主張は「村の作物を食べたから、そのウリボアは村の家畜となる」という、何とも都合の良い暴論であった。
「冒険者が狩った魔物は、狩った冒険者に権利があるのは説明されている筈だが?」
単なる討伐か納品を含むのか?
それは依頼の段階で問われ、今回の場合は前者なのはファムさんは分かっている筈だ。
「うん、だからラスト君が依頼を受けてくれて感謝しているんだ。
おかげで村にも獲物の権利ができた。」
「はぁ?何を言って…って!?」
ウリボアは俺がソロで狩ったので、村に獲物の権利が発生することはない。
そう思っていた俺だが、とある理由に思いあたった。
(ファムさんは自分ではなく“村”と言った。
そして依頼を受けたのが俺で好都合だとも…。)
俺は馬鹿だ。
ウリボア程度の魔物であれば、罠と村人総出で狩れないことも無い。
むしろ貴重な食肉なので外部に依頼することはあまり無いことだった。
依頼を出すのはウルフ等の危険に見合った見返りが期待出来ない場合だ。
恐らくこのウリボアはサイズがサイズなだけに、村にある罠では捕らえられないと判断されたのだろう。
この時点で依頼内容が、意図的に難易度が低くなるように細工されている。
それだけでも冒険者ギルドに喧嘩を売る行為だが、ファムさんは更に依頼の優先紹介も悪用している。
ベビーリーフタウンはスマト村最寄りの街なだけあり、スマト村出身の冒険者もそこそこ多い。
そしてスマト村出身の冒険者が依頼を受けウリボアを討伐した場合、村出身者を無理やり村人と見なすことで「村出身の冒険者が好意でウリボアを討伐し、村のルールに従い討伐されたウリボアは村で山分け」という状況にされた。
「ふざけるな、俺はもうこの村の人間じゃない!」
クソ兄貴といい、ファムさんといい、いつからスマト村は盗賊村になった!?
「ラスト君、我が儘を言わないでくれ。
作物を荒らされて“彼ら”も補填が必要なんだよ。」
ガチャガチャ…ザッ
ファムさんがそう言うや否や、俺は鋤や鍬、鎌を持った村人に囲まれる。
「まさか、最初からっ…!」
「済まないなラスト君、分かってくれ。」
こうなってしまえば本格的に盗賊として“討伐”しても良いのだが、いかんせん多勢に無勢過ぎた。
「…っ、後悔するぞ。」
「恩返だよ、ラスト君。
今を生きられるなら後悔などいくらでもしようじゃないか。」
確かに村の年寄り達には世話になったし、ファムさんのおかげで実家の作物も適正価格で売れた。
しかしそれは俺を囲んでいる奴らも同様だ。
「…牙は討伐証明に必要だ、だから牙だけは貰えるか?」
「……まぁ、それくらいは君の分け前にしよう。」
村では食えない牙は無用のものだ。
それを長考した挙句「分け前」と言われるのは、以前の俺であれば納得することはなかっただろう。
ズボッ…ズボッ
「二度とこの村の依頼は受けてたまるかっ…!」
街ではナイフに加工される、ウリボアの素材で一番価値のある牙を2本とも引き抜いた俺はそう捨て台詞を吐き、夕暮れの近いスマト村から足早に去るのだった。
「この恩知らず!」
「代わりの冒険者なんかいくらでもいるんだよ!」
「分け前があるだけ感謝しろよ強突張りが!」
「ちょっと、オークに乞食の真似なんてどういうことよっ!?」
「今は黙っててくれ。」
「二度と来るな~っ!」
…という罵詈雑言を背に受けて。
街に“帰った”俺は早速ギルドにて、リタに事の次第を話した。
「依頼の詐称…。
…分かりました、すぐに調査員派遣の上奏をします。」
俺の話を聞いたリタは、素早く俺の話を紙に纏めて奥(おそらくギルマスの執務室)に向かった。
…………………。
…………。
…。
「残念だが、この依頼でラストが被った損害の補填は出来ない。」
ギルマスが呼んでいるとのことで、リタに案内されたギルマスの執務室。
俺と向き合って座るギルマスが、開口一番にそう言った。
「だろうな。」
冒険者は自由だが、その分自己の責任が重い。
依頼で受けた損害を、ギルドが補填する理由はないのだ。(人死がしょっちゅうの冒険者では、その度に補填していてはギルドが立ち行かない)
今思えば俺の他にもスマト村出身の冒険者はいたわけで、比較的新参の俺に依頼が回ってきた時点で、俺は依頼内容に警戒するべきだったのだ。
「済みませんラストさん、私のせいで…。」
しかし依頼を紹介したリタが責任を感じてしまい、俺に頭を下げてくる。
「いや、リタは悪く無ぇよ。」
狩り方によっては素材の売却代金は無しになる。
提示された報酬はしっかりと受け取ったため、リタ…ひいてはギルドに責任は存在しない。
「だが父親として、娘が紹介した依頼でお前が迷惑を被ったのは心苦しい。」
何度も言うが、この依頼に関してギルド側に責は無い。
しかしリタやギルマスは気にしてしまう。
そこでギルマスはギルマスとしてではなく、個人としての提案をしてきた。
「俺がギルマスになる前まで住んでいた家があるんだがな。
そこを〈白の大樹〉に格安で貸すのはどうだ?」
ソロから人数が増えて苦労しているのは宿代だ。
その融通がきくだけでも大分助かる。
「ありがたい!
ニーニャとマリ姉に野宿をさせずに済む。」
一週間も狩りを頑張れば、ある程度の蓄えもできるだろう。
その間の宿の心配の必要がなくなった俺は、ギルマスに平伏する勢いで礼を言った。
「おう、なんなら金が貯まったら売ってやる。」
「良いのか!?」
街は壁で囲まれているだけあり、常に空き家は争奪戦だ。
しかし古くなれば価値が下がるのは常で、それを家を買える程稼げるかも定かでない木っ端冒険者に取っておくというのは、中々に太っ腹な行為だ。
「ああ、…その方がリタも訪ね易いだろう?」
「っ!?
…あ、あはは…。」
ニヤニヤとするギルマスに、顔を真っ赤にして逸らすリタ。
リタの好意を自覚した今となっては、ギルマスの言葉を否定出来ずに愛想笑いをするしかなかった。
…とはいえ、とりあえず生活の目処が立ったことで、俺は幾分か軽くなった足取りでギルドを後にしたのだった。
捨てる神あれば拾う神あり
遠くの親戚より近くの他人
村との決別とニーニャ・マリ姉を仲間にしてフィニッシュ!
次章もお楽しみに!
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