46 両親の行方は?
依頼のウリボアの討伐は特に語ることも無く、あっさりと方が付いた。
…不意の出来事とはいえゴブリンにびびった頃より、遥かに狩りに手慣れたことを実感する。
(しかし村中の畑を荒らしていただけはある…。)
依頼のウリボアは〈初心者の森〉で狩るウリボアに比べ優に倍ほどのサイズがあり、ズッシリと死体を担ぐ肩にかかる重さは冬に備え丸々と肥えていることを主張していた。
「お、おおっ!」
ウリボアを倒した畑から元実家に戻ると、厠にでも行っていたのであろう兄貴と遭遇し、クソ兄貴は俺が肩に担ぐウリボアを見て目をギラつかせた。
「良くやってくれた!
早速だが親父とお袋について話そう…あ、それは裏に置いてくれ。」
デカいウリボアの死体を担いだまま話をするつもりは元よりなかった俺は、いやに上機嫌なクソ兄貴の言葉に従い、ウリボアの死体を自家消費用の野菜を育てる小さな畑と井戸のある裏庭に向かうのだった。
…………………。
…………。
…。
クソ兄貴に聞いた話は、なんというか…クソ兄貴夫婦に非常に都合の良いものだった。
何でも…俺が出ていった後すぐ、クソ兄貴はキャサリンを呼び寄せ「親父とお袋」「クソ兄貴とキャサリン」の二世帯夫婦の同居が始まった。
元々家族5人が暮らしていたこともあり、急な同居の開始にも関わらず、住む部屋が不足する等の大きな問題はなかった。
しかし同居を開始してから一月程が経った頃、キャサリンが“自分たちだけの家”を求めたらしい。
その時はさすがのクソ兄貴も「家を建てる金が無い」と嫁を諌めたが、それ以降家庭内の雰囲気が(主にキャサリンのせいで)悪くなってしまう。
そしてさらに一月が経つ頃のとある日、クソ兄貴が目を覚ますと親父とお袋の姿がなくなっていた…とのことであった。
(一番怪しいのはキャサリンだが…。)
キャサリンが自分たちだけの家を求め、叶わずに家の空気を悪くしているなかでの両親の失踪。
また嫁姑問題と言われるように、同居する以上小さな問題はいくらでもあったことだろう。
(しかしキャサリンだけで大人二人をどうこうできるのか?)
仮に親父かお袋かのどちらかしかいなかったとして、人一人をどうにかすることは不可能では無いだろう。(キャサリンの場合、不意を突かねば親父は難しいだろうが…)
上手く一人ずついけたとしても、誰一人として気付かれずに“失踪”させることが出来るものなのだろうか?(話を信じるのであれば、クソ兄貴はその頃夢の中だ)
(本当に親父たちの意志でいなくなったのか?)
仮にクソ兄貴が関与していても、凶行の目撃者がいない(いたらクソ兄貴夫婦は村に住んでいない)という事態の不可解さに、俺は親父とお袋が自ら家…ひいては村を出ていったというクソ兄貴の主張を認めざるを得なかった。
「あなたぁ~、手伝ってぇ~。」
「話せることは話した、帰ってくれ。」
考え込む俺に、嫁に呼ばれたクソ兄貴が退去を求めてきた。
「…ああ、そうだな。」
これ以上居座る理由も無いため、俺は獲物を取りに裏に向かう。
「おいっ、何してやがる!」
裏庭に出た俺は、見えた非常識な光景に怒鳴り声を上げた。
「えっ、何?…何なの!?」
俺に怒鳴られ戸惑う兄嫁。
「おいおい、何で俺の嫁に怒鳴るんだよ?」
後ろからきたクソ兄貴がその光景を見ても尚、俺が悪いというように睨んでくる。
「何でって…、何勝手に俺の獲物を解体してやがる!」
纏めて縛られた後ろ脚に、そこからつながる縄は裏庭に生える木の枝に掛かる。
恐らくキャサリンがクソ兄貴を呼んだのは、ウリボアの死体を吊るすためだったのだろう。
「お前の獲物?馬鹿言え。
そのウリボアは俺の依頼で倒したんだろ?
なら俺のものじゃないか。」
それこそ「馬鹿言え」である。
確かに依頼には討伐した魔物の納品があるが、その場合の依頼料は素材の代金込みで非常に高くなっている。
それにクソ兄貴の言い分でも正式な依頼人はファムさんになり、間違ってもクソ兄貴には権利が無い。
「依頼には討伐としかなかった。
その場合倒した魔物は冒険者のものなんだよ。」
俺はクソ兄貴を睨み返してそう言うと、これ以上の問答は無用とばかりに、ウリボアの死体を担ぎ上げその場を後にする。
「泥棒!…いや、強盗だっ!
誰か憲兵に連絡してくれ、誰かぁ~っ!」
後ろでクソ兄貴が喚いていたが、村の住民は誰一人として動く気配は無かった。
…………………。
…………。
…。
場所は変わってファム邸。
こういった特定の魔物の討伐依頼は、倒した魔物が依頼の魔物かどうかを依頼人に確認して貰い、認証のサインを貰う必要があった。
「このサイズは…。
依頼のウリボアに間違い無い、感謝する。」
俺が玄関前に置いたウリボアの死体を見て少し戦慄した後、ファムさんは依頼の受領書にサインをする。
「…ところで、このウリボアを譲ってくれないか?」
サインした受領書を返しつつ、ファムさんは俺に買い取りの相談をしてくる。
「そうだなぁ…。」
俺としてもこのサイズのウリボアは予想外だ。
ギルドに持ち帰って売るにしても、今回収納袋は借りていなかったので、苦労に見合う金は得られ無いだろう。
それならばランクポイントにはならないが、ここで売ってしまった方が良いだろう。
村では食肉はご馳走だ。
多少安くなってしまうだろうが、それはファムさんに世話になった分としよう。
「…うん、別に構わない」
ウリボアのギルド買い取り価格は、毛皮を含めて大体10万ゴールドに足るかといったところ。
このウリボアはサイズからして、多少安く売っても10万~15万ゴールドにはなるだろう。
「おお、ありがと」
俺が言い切る前にファムさんが食い気味に礼を言ってきて、俺とファムさんの言葉が重なる。
「いくらになる?」
「えっ!」
「…え?」
ひとまずファムさんがいくら出すつもりなのか聞いたところ、何故か驚愕するファムさんに俺も驚く。
どうにも話の認識が違っていたようだ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




