42 ギルドに顔出し
今回も長めです。
後半は設定説明のようなものです。
救護院を出た俺達は、駄目元で寄った古着屋で俺の身体に合うサイズのシャツとズボンを入手して、久々となる冒険者ギルドへと向かう。
こういう時はやはり街は物が豊富だと実感する。
(まぁ、全体的に村より割高だがな…。)
古着屋で購入した俺の服は、シャツとズボン合わせて3万ゴールドの出費。
村で作業ズボンを新しく仕立てた時が1万ゴールドであったことから考えると、古着でさえ一枚当たり5割増しの値段になっている。
しかし割高なだけあり、村の針子の仕立てよりも良いもののように感じる。
ギィ…
入口の扉を開けてギルド内に入る。
ザワザワ…
昼近い時間だというのに、今日はそこそこの人数の冒険者がギルドに屯っていた。
「あっ、ラストさん!!」
ガタンッ!
俺が冒険者に登録時からほぼ専属のようになっている馴染みの受付嬢…リタが俺がギルドに入ってきたことに気付き、椅子が立った時の勢いで倒れたことに構わずカウンターの向こうから出て来た。
「ラスト…、誰だ?」
「ん~と…、ほら…あれだ。」
「『火球』食らって死んだんじゃなかったのか?」
リタの過剰とも言える反応に、俺達は否応なしに目立ってしまっている。
「うわ~…、死太い野郎だぜ。」
「それより見ろよ、魔術師だ。」
「でっk…、魔術師だと?」
「首輪をしているぞ、奴隷にしたのか?」
「くぅ~、羨ましい野郎だな。
稼ぎと夜の二度“美味しい”じゃねぇか。」
「ニーニャたんを連れてるくせに!?
絶許絶許絶許絶許…。」
「恐っわ、お前。
…近寄らんとこ。」
やはりマリ姉がいかにもなローブ姿なので一番目立ち(胸部の迫力もあるだろうが…)、一時期ギルドの酒場で看板娘をしていたニーニャにも変なファンがいたようだ。
「…ラストさん、よくぞご無事で…。」
ぎゅ…
好き放題言う冒険者達を他所に、俺の手を両手で包み込むようにして握るリタ。
少し瞳を潤ませているその姿は、冒険者と受付嬢という関係にしては親密過ぎる態度であることが分かる。
「あ…あぁ、心配かけた。
…ところで今日は依頼未受注期間の確認をしに来たんだが。」
取り急ぎで纏まった額の金が必要ではあるが、そもそも登録が抹消されてしまっている場合、ギルドでの魔物の素材売却は出来ない。
大丈夫な筈だが…まずはその確認と、とりあえず今日のところはギルドの修練場でリハビリだ。
「あっ、そうですよね。
…こちらにどうぞ!」
冒険者がギルドを訪れるのは用事があるから、その事を俺の言葉で気付いたリタは自分が担当するカウンターに戻り、俺達にそこに来るように促す。
「ラストさんはEランクですので最低依頼受注期間は一ヶ月以内となっています。
えっとラストさんは…、最後の依頼受注から一ヶ月と数日経過していますね。」
マジか!?まさかの数日オーバーだ!
目覚めた日にギルドに向かっていればとも思ったが、依頼の受注を出来ないであろうことなどは変わらずなので、諦めて罰金の支払いと再登録するしかない。
「ラストさんはギルドの依頼中に他責による負傷が証明されているので、依頼未受注とされるのはニーニャさんが申告した、ラストさんの意識が回復してからの3日間となります。」
よしっ!…ここにきてギルマスの釣りに乗った過去の俺の選択が今の俺達を救った。
「更にラストさんはパーティーを組んでいますので、申請があればパーティーメンバーが代理することも可能なんですよ?」
ソロが集まった…いわゆる野良パーティーでは難しいだろうが、固定パーティーを組んでいる者達にとっては依頼受注の肩代わりが可能ということか。
その度の申請が少々面倒かも知れないが、複数パーティーによる集団…いわゆる氏族を結成すれば、負傷による依頼の未受注を気にせず依頼に勤しめる便利な制度になるだろう。
(代理制度といい…チュートリアルといい、低ランク冒険者にも優しいシステムだな。)
それらの制度により冒険者として成長し、高ランク冒険者となってギルドに高額依頼の仲介手数料をギルドに入れる。
…というのがギルド側の理想的な形なのだろう。
そのシステムが有効に動作しているかと問われると微妙としか言えないが、今回は本当に助かった。
「じゃあ今日は依頼はパスで。
寝坊で鈍った身体をどうにかしないといけないからな。」
「無理は禁物ですからね。
おと…ギルマスも無理しないのが優秀な冒険者って言ってましたから。」
リタが話したギルマスの信条は、いかにも「力こそ正義!」と言いたげな身体からは想像し辛いものであったが、ギルマスとしても、元高ランク冒険者としても実感が込もっていた。
「…あ、マリ姉えっと…こっちのマリアのパーティーメンバー登録も頼む。」
ピクッ…
「…メンバー登録ですね?
かしこまりました、しばらくお待ち下さい。」
マリ姉も冒険者をやって、魔術学校の奨学金を返済したと言っていた。
これから行動を共にするのであれば、俺達のパーティーに加えた方が何かと便利だ。
「…マリアさんは犯罪行為により、ギルドカードの凍結が行われています。
凍結の一時解除には、マリアさんの所有者の解除保証申請が必要になりますが…。」
そうだった…。
よくよく考えて見れば、犯罪者の逃亡等の幇助とならないよう、身元を保証する住民カードやギルドカードは使えないようにされるのが当然だ。
「その申請はすぐに通るのか?」
マリ姉の身柄を預かっているのは俺自身のため、凍結解除の申請をすること自体に問題は無い。
「えっと、それが…。
貴族様の申請であれば、場合によっては即日の受領も可能なのですが…。
マリアさんの所有者はラストさん…ですよね?」
カードの凍結解除は、言ってしまえば犯罪者を解放することだ。
貴族…リタの言い方では騎士爵や男爵位の低位貴族ではなく、少なくとも侯爵位並みの権力が、凍結の即日解除には必要になるのだろう。
そして俺は平民の中でも、奴隷・スラム民・孤児の次に信用の低い、根無し草の低級冒険者だ。
そんな奴が犯罪奴隷…しかも攻撃魔法使いの身分カードの凍結を解除しようとしているとなれば、俺自身でさえ不安を感じてしまう。
解除申請ではなく解除“保証”申請というのは、凍結が解除された犯罪奴隷が、万が一更なる罪を犯した場合、その奴隷の所有者に保証能力があることを保証するということなのだろう。
「そうか…、じゃあ申請だけしておくことにしよう。」
「可否に関わらず申請には1万ゴールド掛かりますが…?」
申請だけで随分な額を持って行かれるな…。
…まぁ、それくらいでないと申請だらけになって行政がパンクしてしまうのだろう。
「…ああ、構わない…構わないとも。」
構わないと言いつつも、今日だけで貯蓄の約半分を失った事実に、思わず自分に言い聞かせて精神を保つ。
「…では、こちらに記入と血判…それと奴隷契約書の写しを取らせて頂きます。」
渡されたのは魔術的な模様の入った羊皮紙。
記入事項がギルドカード作成時とは比べ物にならないほど細かく、魔術付与にインク代…そりゃ申請代も高くなろうというものだ。
「………、ふぅ…。
それじゃ、確認を頼む。」
全ての記入欄を埋めた申請書とマリ姉の奴隷契約書をリタに渡す。
「お預かりします。
誤字の確認と契約書の写しに少々時間が掛かりますが、どうしますか?」
マリ姉の奴隷契約書を預けっ放しには出来ない。
申請には時間がかかるが、契約書の複製には掛かって数時間程で済むだろう。
「じゃあ修練場で軽く身体を動かして待たせて貰うよ。」
「では契約書の複製が完了次第、修練場にお持ちしますね。」
「ああ、助かる。」
少々業務外のような気もしたが、どうせ呼びに来るのであれば直接持って来て貰った方が、短時間と言えど契約書を放置することを避けられるので安心だ。
こうして俺達は当初の予定通り、修練場で俺のリハビリに励むことにしたのであった。
マリ姉、白の大樹に加入(予定)
マリアは貴重な攻撃魔法使いの奴隷なので、所有権を示す契約書は超重要書類です。
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