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41 説教と思想

話のキリの問題で大分長くなりました。

実質の2話投稿ですw

 あの後すぐに、出て行ってしまったシスターを伴いやって来た司祭様。

 司祭様は着るものが無く焦る俺たちに、シスターに病床服を用意させ、俺たちはひとまず産まれたままの姿を脱した。


「良いですか冒険者ラスト。

 私共の教義に於いて、子を成そうとする行為は悪ではありません。

 寧ろ豊穣神ニュグラス様の信仰に依ると、子は宝であり生きとし生けるものが繁栄する(地に満ちる)ことは歓迎すべきことなのです。」


 そして現在、俺とマリ姉は司祭様に説教されている。


「死の危機に瀕し、種の保存本能が強く働いたことは生物として正しい反応でしょう。

 かの古の勇者ノゾムも強敵と相対した後には、パーティーの女性たちと代わる代わる行為に及んでいたということが、彼のパーティーの回復役(ヒーラー)であったセイ王女の日記に記されているとの噂も有ります。」


 …セイ王女とはもしかして、救世教の初代教皇である“聖女セイ”と同一人物なのだろうか?


「尤も…救世教の本拠地である〈聖ブレイブハート及びリィンカ教皇王国〉でこの話をすると、不敬罪となってしまいますのでご注意を。」


 救世教は別名勇者教、やはりお噺で語られる聖女セイのことで間違いなさそうだ。

 にしてもお噺では勇者と聖女が愛の力で魔王を打倒して結婚するハッピーエンドとなっているが、勇者が関係を持っていたパーティーメンバーの女性たちはどうしたのかが気になる。


「“とにかく”です。」


 俺の気が逸れたことを察したのか、穏やかな表情ながらに語気を強める司祭様。


「冒険者ラストよ、死の淵から戻って三日…貴方の回復力は私の思っていたよりも驚異的に高かったようですね?

 であればもう私共に施せることはありません。

 冒険者ラストよ、貴方は貴方本来の生活へと戻る時が来ました。

 冒険者ラスト及び冒険者ラストのパーティーに神々の御加護があらんことを。」


 如何にも聖職者といった言い回しであるが、要は回復したなら救護院から出ていけということだろう。

 …場所を弁えず迷惑をかけてしまったのは俺たちなので、退去を求められたことに不満は無い。

 まあ…俺としても取り急ぎ金を稼がないとならないので、退院する許可が早々に出たことは俺の精神衛生上良いことだ。

 

「…とりあえず着替えないとな。」


 今着ている病床服は救護院の備品であり、借り物だ。

 救護院から退去するにも私服に着替えなければ、今度こそ憲兵詰所の地下に詰められることになってしまう。


「…ご主人、…ん。」


「あ…あぁ、ニーニャおはよう。」


 着替えを探す俺に、司祭様たちについて来ていたのであろうニーニャが、明らかに不機嫌だと分かる様子で、綺麗に畳まれた着替え一式を渡してくれる。


「……おはよ、……(ボソッ)。」


 引き攣った不恰好な笑みで挨拶をした俺に、かなりの間が空き簡素ではあったが返答があり、ひとまずは安心…なのか?

 返答の後に何か呟いたようだが、聞き返したところで藪蛇なような気がするので気付かなかったことにしよう。

 俺とマリ姉は無表情のニーニャに見守られながら、無言で病床服から私服(マリ姉の服は同じものが何着かあったらしい)に着替えたのであった。


 … … … … … … …。


 … … … …。


 …。


 俺の衣服や防具はマリ姉の『火球』を食らった際に燃えて無くなってしまったので、ニーニャが買ってきたシャツとズボンを身に纏った。

 …、のだが


ギチ…、パツーン


「…なあ、この服きついんだが。」


 ズボンはまだ腹回りが少し苦しいくらいで済んでいるが、シャツに関しては腕を回すことが難しく、生地が引っ張られて裾の丈が足りなくなって下腹が出てしまっている。


「それしか無かった…。」


「んふっ…大丈夫よ、似合ってるわ…あははっ。」


 俺の文句にしょんぼりするニーニャと、ニーニャを慰め(フォローし)ようとするマリ姉。

 しかし笑いを堪え切れていないし、そもそも|こうなっている原因はマリ姉のうっかりミス(『火球』の誤射)によるものだということを分かっていないようだ。


「とりあえずの間に合わせだろ。

 ちゃんとしたやつはマリ姉が弁償してくれるらしいから、ニーニャは気にしなくて良いぞ。」


「ご主人…、んっ。」


 ニーニャが気を利かせて用意した服の文句を言うのは失敗だったと思い、マリ姉を言葉で刺しながらもニーニャの頭を撫でる。

 俺に合うサイズの服となると特注になってしまうので、きつくとも着られるものがあっただけマシというものだ。

 マリ姉は魔術師ではないが、金を稼ぎ易い攻撃魔法使いだ。

 この際戦闘に堪える仕立てのものを作るのも良いかも知れない。


「あの…ラス君、そのことなんだけど…。

 私の貯めてたお金…、全部ラス君の治療費として喜捨しちゃった。」


 聖職者とて生活するには金が必要になる。

 しかし聖職者が金を稼ぐ行為は教会の腐敗に繋がるため、喜捨という形で現物や金を得ている。

 特に救護院なんかは攻撃魔法以上に希少な神請魔法を使うため、教会の収入の大半を担っていたりする。

 俺が救護院に運び込まれた時は死にかけだったと聞いたが、ほぼ『蘇生(リバイブ)』並みの神請魔法の行使に対する喜捨はどれ程になるかは推して知るべしというものだ。

 

「せめて一月分の生活費は残して欲しかった…。」


 救護院を出て宿に泊まるにも、俺にニーニャにマリ姉となってしまうと、俺とニーニャだけの時のように一人部屋に詰めることは無理だ。

 となると基本的に、一人部屋より割高になる二人部屋にマリ姉とニーニャ、一人部屋に俺といった形で部屋を取ることとなる。

 まぁ…俺とマリ姉はそういうことをする関係なわけで、ニーニャに一人部屋を割り振ることもあるだろうが。

 しかし俺の貯蓄では食費等を含め保って一週間。(但し、服は間に合わせのままとする)


「ごめんなさい…、それでも相場の半分も払えなかったの…。」


「半分だって!?」


 マリ姉の話す内容に、俺は目を剥いて驚愕した。


(さらば自由…。)


 喜捨という形だが相場というものはある。

 攻撃魔法使いのマリ姉の貯蓄全てで半分にも満たなかったのであれば、末端冒険者の俺では一生を使って払い切れるのかも怪しい。

 神請魔法の行使にかかる喜捨の相場は総じて高く、教会で奉仕の余生を過ごすことになる冒険者や、喜捨を惜しんで欠損を抱え引退する冒険者、果てには喜捨を払いたくないが故に仲間(パーティー)に見捨てられる冒険者までもが、別に珍しいことでも何でも無い。


(…本当に神々の加護なのかねぇ。)


 実質の借金奴隷とはいえ教会での奉仕は節制が苦でないのであれば、教会関係者の生活と何ら変わらない。

 考えようによっては衣食住が保証される分、末端冒険者より余程安定した生活を送れるとも言えた。


(司祭様にも感謝だな。)


 いくら聖職者でも皆が聖人というわけでもなく、目覚めたら俺もマリ姉も…なんならニーニャまでもが有無を言わさず奉仕生活(教会奴隷)というのもあり得た。

 特にマリ姉は攻撃魔法使いとして、教会戦士団に確保したい人材であることだろう。


(はぁ…、頑張らないとな!)


 猶予がどれ程かは知らないが出ていけということは、とりあえずは自由を謳歌出来るのだろう。

 その間にオークを狩りまくれば、…もしかしたらもしかする。


「…よしっ!

 それじゃあニーニャ、マリ姉、行こうか。」


 いざ行かんっ自由を掴みに!…は、ちょっと違うか?


 … … … … … … …。

 … … … …。

 …。


 俺とニーニャとマリ姉、三人連れだって救護院から出る。


(…久々のシャバだぜ。)


 そんなことを思うが、寝ていただけなので実感は無い。


「おや、行くのですね?」


 偶々といった態度の司祭様であるが、俺達が出て来るのを待っていたのだと思う。


「はい、追加の喜捨を稼がないといけないので…。」


 その前に鈍った身体の現状確認をしなければならないが。


「追加の喜捨は必要ありませんよ。

 貴方が目覚めたのは、神々の加護と貴方自身の力による奇跡。

 私もまだまだ未熟だと実感しましたよ。」


 それから何度かの押し問答の末、マリ姉が払った喜捨はそのまま納めて貰い、それ以上の喜捨は必要無いということで落ち着いた。

 

「お世話になりました。」


「ん、ご主人良かった。」


 司祭様に頭を下げた俺に、ニーニャが口角を上げる。


「まぁ、金を稼がなきゃならんのは変わんないんだけどな。」


 マリ姉の慰謝料に期待できないどころか、食い扶持が増えたので金を稼ぐのは変わらずの急務だ。


「…ラストさん、貴方に聞きたいことがあります。

 死にかけても尚、貴方は何故魔物を狩るのですか?」


 救護院を去ろうとする俺に、司祭様が訊ねてきた。


「そりゃ…えっと、俺が魔物を狩るのは生活のため…ですかね。」


 金を稼ぐためという理由を、教会関係者風に言い直して答える。

 

「金子を稼ぐのであれば、魔物を狩ることは必須ではないのでは?」


 敢えてぼかした部分をはっきりと言う司祭様。


「俺に出来ることは街では冒険者くらいなものなんで…。」


 俺だって当初は街中の定職を求めた。

 しかし今は、割と冒険者が性に合っていると思い始めたところだ。


「つまり一般に言うように、魔物を悪としてではなく、あくまでも糧として狩っている…ということですね?」


 確かに魔物を魔王の眷属として根絶を掲げる者もいるが、俺は魔物を悪だとは思わない。


「まぁ危険ではあるだろうが、悪ってわけではないだろ?」


 魔物の中には国をも滅ぼすものも存在するが国を滅ぼすのは人も同じだし、故郷の村を魔物に襲われた復讐と言う冒険者も、魔物の巣を破壊したりするのは同じことだ。

 つまり人と魔物の生存競争でしかないのだ。


「そうですか…。

 …ラスト殿は自身の考えを異端とは思いませんか?」


 確かに珍しい考えではあるのだろう。


「俺もマリ姉も村では居るだけで異端だったからな。

 今更考えの一つが異端でも構わないだろ?」


 救世教はともかく、この世界で広く浅く信仰されている創世混沌神教では異端狩りの教義は無い筈だ。


「ええ、構いませんとも。

 異端は単なる少数派(マイノリティ)…かく言う私もそのクチでして、中央から逃れるようにこの地に来たのですよ。」


 つまり大多数と異なる思想が故に左遷されたという話なのだろう。


「ラスト殿、貴方の考えを大事になさって下さい。

 この星に生きとし逝けるものは、全てが神々が生み出した存在。

 人の都合で絶やして良いものではないことを、努々お忘れ無きよう。」


 そう言った司祭様の言葉が、何故か俺の頭に妙に残ったのであった。

司祭様良い人

そしてはかとなく漂う宗教問題

混沌→多数の神々が入り交じるという意味です。

   発狂するやつじゃないので注意。



いつも読んでいただきありがとうございます。


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