38 氷解と提案
マリ姉ダイジェストその2と設定の先見せです。
攻撃魔法を発現したことで魔術学校に入学させられたマリ姉。
しかし攻撃魔法を使っていたにも関わらず、マリ姉は自身を魔術師の成り損ないという。
「えっと、これは私も魔術学校で初めて知ったことなんだけど…。」
一般的に、魔法使いと魔術師は攻撃魔法を使えるかどうかで区別されているものと認識されている。
「実は魔術師っていうのは、魔術学校を卒業した攻撃魔法使いのことなの。」
そう言われてみれば、攻撃魔法が使えることが魔術師の条件であるならば、攻撃魔法を発現した時点で魔術師になってしまう。
「魔術学校に行くとなると、貴族や裕福な人以外は人生が決められちゃうでしょ?」
そのことを知ったマリ姉は俺の求婚を断り、俺はトラウマに悩まされた。
「そのことって別に隠されているわけじゃなくてね、攻撃魔法を発現した人の中には、攻撃魔法を発現していることを隠して暮らす人もけっこういるみたいなの。」
自分の人生を自分で決められないことが当たり前の貴族はともかく、貴族のような特権も無しに国に借金奴隷のように仕えることを定められるのは、自由であることが特権と言える平民には受け入れ難いものであることは分かる。
「そういう人たちと、国の認可を受けた人を区別するのが魔術師という呼び名なの。
だから国によっては魔法師や魔導師って呼び方が変わることもあるみたい。」
つまり国公認の攻撃魔法使いが魔術師と呼ばれ、自由の代わりに安定した高収入と一般人の尊敬を集めるわけだ。
対して魔術師以外の攻撃魔法使いは、“はぐれ”と言われ潜在的な脅威とされ、犯罪者のようにこそこそと生きていかなければならない…と。
「…じゃあマリ姉がここに居るって国にバレたらヤバくないか?」
今にも憲兵が大勢やって来るのではないかと戦々恐々とする俺に対し、マリ姉は苦笑いを浮かべて言う。
「私は大丈夫…かな?
一応魔術学校に行って国に把握されたし、それに今は奴隷だし。」
つまりマリ姉は魔術学校を卒業していないから魔術師ではないけど、国がマリ姉という攻撃魔法使いを把握しているから“はぐれ”でもないということか。
そして〈隷属の首輪〉をマリ姉に付けたのは憲兵隊で、憲兵隊は公職…つまり一番上は国だ。
ということは、普通に生活しているだけで憲兵隊に追われる心配は無いということだ。
仮に憲兵隊に追われるとしたらバーンさんに釘を刺されたように、俺がマリ姉に攻撃魔法を使わせて犯罪行為をさせた場合だけだろう。
(まぁ、無いな。)
で、疑問が解けたところでまた疑問が浮かぶ。
「マリ姉は何で卒業出来なかったんだ?」
「う~ん…、魔術学校に入る平民は珍しいから…。」
魔術学校は貴族の学校。
そこに権力的にも頭数的にも弱者である平民が混ざって、仲良しこよしで学校生活というわけにはならないことは想像に難くない。
「一年目はただの落ちこぼれで、無視されるくらいだったんだけどね…」
一年目は魔法を使うにあたっての基礎や貴族の行儀作法などの授業が中心で、そういったものに馴染みの無い平民は苦労を強いられる。
しかし二年目の実践となると、身分を問わず才能が物を言う。
そこでマリ姉は貴族並みの魔力量と、貴族でも少ない複数の属性適性有りということが判明したのだという。
「そしたら子爵令息様に言い寄られてね…。」
豊富な魔力量に、貴族にも少ない複数属性適性持ち…加えてマリ姉のような美人ともなると、貴族と言えども惹かれるものなのだろう。
「私は断ったんだけど、その子爵令息様の婚約者の男爵令嬢様に嫌がらせを受けちゃったの。」
マリ姉は軽く言ったが、嫌がらせの内容を聞くに、マリ姉が退学する直前辺りになると、生命に関わるようなものまでもがあった。
「退学した後はラビリンスでお金を稼いで、奨学金を返済していたんだ。」
ラビリンスとはこの街と魔術学校のある王都の中間に位置する、迷宮の入り口が複数存在する、別名「迷宮都市」と言われる大都市のことだ。
マリ姉がこうして自由に街を移動出来たのは、奨学金の返済を完了したことも理由の一つらしい。
魔術学校を退学したことで魔術師と名乗ることは出来ないが、一度魔術学校に行って奨学金も返済したことで、国に仕える義務を負うこと無く堂々と攻撃魔法を使用出来るという、ある意味理想的な形になったとマリ姉は笑った。
しかしまぁ、攻撃魔法使いが迷宮で稼いで、14才の途中から19才までの約5年掛けて返済できる奨学金とは…一体何ゴールドになるのだろうか?
「マリ姉…俺、マリ姉に無体なことはしないから安心してくれ。」
これだけの苦労をしてきたのに、うっかり(というには大事だが)で再び首輪付きなど、俺だったら無気力になる自信しかない。
マリ姉は犯罪奴隷なので俺の一存で解放することは無理だが、せめて借金奴隷並みの権利は保証することを伝えた。
「あ~…そのことなんだけど。」
俺から視線を逸らし、口籠るマリ姉。
そして俺が無体をしないと言った直後に、マリ姉自身から、俺にトンでも無い言葉が飛び出す。
「ラス君さ、私を抱いてみたくない…?」
褐色の肌でも紅潮していることが分かる程に頬を染め、チラチラと上目遣いに送られる視線に、俺の脳裏に早くも前言の撤回という考えが過ったのであった。
憧れのヒトに夢にみた提案をされたラスト。
ラストの脳内はこれから始まるあんなことやこんなことの妄想で一色に染まる。
???「お前っ、ニーニャはどうするんだよ!?」
次回「意志薄弱」
お楽しみに!
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