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3  両親との別れ、新たな街へ

いい加減出て行きます。

 兄と最後の喧嘩をした翌朝。

 いや…考えてみると、親父が仲裁に入ったことで俺は兄を殴り損ねたから、一方的に暴力を振るわれただけだな。


「悪いなラスト…。

 こんな形で送り出すことになってしまった。」


 昨晩俺を羽交い締めにしたとは思えない、疲労の滲む姿の親父と、


「身体には気を付けて。」


 心配そうに眉を下げたお袋が、俺の見送りに村の出口までついて来ていた。


「こっちこそ、なんだか駄々を捏ねたみたいで…。」


「気にするな。

 それら全部売っても銀貨50枚にもならんさ。」


 結局あの後は仲裁に入った親父の裁定で、実家にある道具のいくつかの持ち出しを俺に許可することでの手打ちとなった。

 俺がその権利を使い選んだのは、俺用に柄が少し長く作られた鍬、俺用サイズの厚布作業着、薪割りに愛用した重めの鉈の3つだ。

 この3つはいずれにしても実質俺専用と言える道具なので、持って行って良いならば遠慮はしない。

 鉄製の鍬と鉈は勿論、布がふんだんに使用された作業着も、バラせば古布としては価値が高めになる。

 兄はこのことについて何やら不満があるようだったが、俺が価値の高い物ばかりを選んだと言うのであれば、5セットしっかり残っている祭日用の銀食器は何だと問いたい。


(そう言えばこれ()は2万ゴールドで打って貰ったんだったか?)


 三年前に新品のそれを渡された時、親父は冗談で代金分働くように俺に言った。

 鉈も鍬と同様の代金だったとして、作業着がウチの畑で取れた野菜を針子に渡して1万ゴールドから9千ゴールドに負かった。

 これに手持ちの一枚を合わせて、丁度銀貨50枚分になった。

 買い値を合わせてようやく5万ゴールド。

 中古のこれらを金に変えても、確かに5万ゴールドになることは無いだろう。


「なら有り難く使わせて貰うよ。」


 街に行って使う場面があるかは別として、使うのであれば手に馴染んだ物の方が良い。

 そうすると、銀貨100枚には及ばずとも、俺にとっては銀貨50枚分にはなるか。

 何だかんだあったものの、こうして収まるところに収まったということだろう。


「それじゃ父さん、母さん。

 俺はもう行こうと思う。」


 この期に及んで残留を懇願する情けない真似をするなどということは、端から考えに無い。

 俺が家を出ようとも、親父とお袋には今日もいつもと変わらず仕事がある。

 むしろ今日から俺という働き手がいなくなるため、畑作業は大変になるだろう。

 そのため俺の見送りにこれ以上時間を取るわけにも行かないだろうと、ささやかな配慮の結果だ。


「ああ、無事でいろよ。」

「ええ、元気でね。」


 両親もそれを理解し(わかっ)ているようで、引き留めたりせず…は当たり前か。

 兎に角、俺は両親の別れの言葉に背を押され、村に一番近い街〈ベビーリーフタウン〉へと旅だったのだ。


「ラスト、ちょっと待ちなさい!」


 村から旅立って数歩、お袋に呼び止められ、早速旅の予定にケチがついた。


「持って行きなさい、私のヘソクリよ。」


 手渡されたのは銅貨5枚。

 街の屋台の串焼き5本分。

 今は使えないが、まぁ弁当代わりだな。

 旅立って数歩、俺は早速500ゴールドの収入を得たのだった。



… … … … … … …。


… … … …。


…。



─ 二日後 ─


「見えた!」


 スマト村を出てから野営を挟んで、翌日の昼過ぎ。

 俺は徒歩数時間という距離に、目的地であるベビーリーフタウンを囲む城壁を発見する。

 

(これなら門が閉じる時間までに余裕で着くだろう。)


 これは良い誤算だ。

 街に作物を売りに行ったことのある村人の話では、


『二回野営して翌日閉門に間に合うかどうか』

 

 ということだったが、思っていたより速いペースで歩いていたようだ。


(入門料は銀貨一枚だったか?)


「はぁ…。」


 街に着くまでの日にちの話と同時に思い出された、所持金の半分以上に及ぶ出費に、溜め息を吐いた。


(コイツが良い値で売れたら良いんだけどな。)


 背負い袋を脹らませる“それ”の値段次第では、その後が大きく変わる。

 俺の今後を左右する“それ”は昨日の野営準備中、刈っていた草むらから飛び出して来た一匹の角兎(ホーンラビ)

 一応魔物であるが、村人でも狩れる魔物最弱四天王である。

 ただし最弱であるが逃げ足は速く、罠でもなければ狩れるものではない。

 しかしこの角兎は、俺が刈っていた草むらが巣だったのか、逃げずに威嚇してきたので楽に狩れたのだ。


「…行くか。」 


 角兎との出会いと別れはさておき、ここで立ち止まっていても街には着かないし、入門料がタダになるわけでもない。

 狩った角兎も、肉は食えるだろうが毛皮は売らなければならない。

 ならば肉も纏めて売ってしまうのが早く、つまり街に行くしかないのだ。


… … … … … … …。


… … … …。


…。


─ 数時間後 ─


「ようこそ、ベビーリーフタウンへ!」


 歩き始めてしまえば後はあっという間で、門前に到着して数十分、俺の入門手続きの番が来た。


「お、デカイ兄ちゃんは街に来るのは初めてか?」


 作業ズボンのポケットから銀貨を取り出すと、門番の憲兵が話し掛けて来る。


「ああ、そうだ。

 兄とその嫁の蜜月の邪魔になるから家を出て来たんだ。

 それにしても…、よく分かったな?」


 進んで家を出てきたとも意味が捉えられる言い方になったのは、気さくな憲兵に少し見栄を張ったのだ。

 俺のほんの僅かな矜持(プライド)を語るのはまた今度として、何故俺が初めて街に来たことが分かったのか訊ねた。

 いくら他人の顔を覚えるのが得意だとしても、一つの門に複数の門番がついている関係上、街に来る全員の把握など不可能だ。


「ああ!簡単なことさ。

 慣れてる奴は真っ先に業判定石(カルマストーン)に触れるのさ。」

 

 気さくな憲兵はそう言って、自分の近くの台に置かれている、丸く磨かれた拳大の石を指差した。


「業判定石?」


 聞いたことの無い名称に聞き返し、気さくな憲兵に説明を求める。


「ははっ、初めての奴は皆その反応をするんだ。

 兄ちゃんも磨いたその辺にある石だと思っただろ?」


 ずばり思っていたことを言い当てられ頷く。


「それが違うんだなぁ~。

 何が違うって、犯罪者がこれに触れると赤く光るのさ。」


 これがあることで犯罪者は街へ入ろうとした途端に捕まり、街の安全が保たれるわけだ。

 因みに得意気にこれらのことを話してくれた気さくな憲兵でも、業判定石が光る理由はサッパリらしい。


「俺が思うにこの石はな、悪人に取り憑いてる人の怨みを伝えてんだ。」


「へぇ…。」


 気さくな憲兵の話す持論を聞き流し、業判定石に触れる。

 俺は産まれてこのかた清く正しく生きて来た。

 当然石は何の反応もせず、問題無し。


「んなっ!?」


 の筈が、直前まで虚空に持論を話していた、気さくな憲兵の上げた驚愕の声に、他の憲兵はおろか入門手続きをしに来た人々の視線が、状況を理解出来ない俺に突き刺さった。

 

 

主人公初期装備

 頭  -

 胴  村人のシャツ(特注サイズ)

 背  背負い袋

 右手 ラスト専用鍬(両手特殊)

 左手 -

 腰  サブ1 厚鉈

    サブ2 細工用ナイフ

 足  薄汚れた作業ズボン(特注サイズ)

    木の靴

 他  小道具数点

所持金 1,500G


 某ゲームの勇者に比べたら恵まれていますねw


 さらっと出ましたが、お金の単位はゴールドです。

 


いつも読んでいただきありがとうございます。


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銀貨100枚親が補填すれば済む話なのに一銭も出さず道具だけってこの家は1文無しなの?すぐ買い直せるわけでもあるまいし道具持っていかれた方が困りそうだけど
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