32 ザワつくギルドと魔法について
その後の薬草採取
ニ「薬草いっぱい!」
ラ「とりあえず5本採ろうな。」
ニ「…。」(手に持つナイフをしまう)
ラ「?」(何故ナイフをしまうのかわからない)
ニ「えい。」
ブチッ(薬草が千切れる音)
ラ「NOOooo!?」
採取のやり方説明後
ニ「ご主人、角兎。」
ラ「ちょっと追い払ってくる。」
ダッ(角兎、ニーニャに突撃)
ラ「ニーニャ!」(焦り)
ガシッ(ニーニャが角兎を掴む)
ボキッ(何かが折れた音)
ニ「ご主人、捕った。」
プラーン…(脱力した角兎)
ラ「ウン、アリガト。」(容赦の無さに引き気味)
ナデナデ(しかし撫でる)
ニ「~♪」(ご機嫌)
ゴブリンの討伐を完了した翌日、俺の休日の提案を拒否したニーニャについてギルドへと顔を出す。
ザワザワ…
「おい、聞いたかあの話。」
「あ?またホラフキーの噂話か?」
「いや、そんなんじゃねぇ。
なんでも…」
「何?こんな田舎に……が?」
ザワザワ…
「その……貴族なんじゃないのか?」
「いや、受付嬢とのやり取りを見る限り……」
「なら是非ともウチのパーティーに……」
「それが…………」
(…何だ、この雰囲気は?)
普段も朝のギルドは依頼の確認にきた冒険者達の会話で騒がしいが、今日に限って言えば意図的に伏せられる言葉があり、互いに牽制するようなピリついた空気を感じる。
「魔術師?」
人間族より五感の優れた獣人族のニーニャが、今朝に限ってギルドが異常な雰囲気となっている理由を突き止めた。
(…魔術師か、ひょっとして…いや無いな。)
魔術師という言葉に“また”幼い頃の記憶が呼び起こされそうになり、慌てて記憶の蓋を閉じる。
「魔術師ってのは国に認められた魔法使いのことだな。」
「…、???」
魔術師という言葉に首を傾げていたニーニャにかいつまんだ説明をしてみたが、種族として魔法が苦手な獣人らしく、魔術師と魔法使いの違いがわからないようだ。
「ニーニャは魔法は分かるな?」
「ん、魔力使うやつ。」
魔力は量の違いはあれど、この世界の全てに宿っているとされている。
そのため『火種』や『洗浄』などの消費魔力が微小の…いわゆる生活魔法は、魔力の放出と詠唱を学べば使える者は多い。
しかし生物に宿る魔力は反発し合うため他生物に影響を及ぼす…主に攻撃魔法となると、途端に使用できる者が少なくなるらしい。
そして攻撃魔法を使える者(この者たちが魔術師と呼ばれる)は、常に見えない強力な武器を持っていることと同じであり、その危険性と有用性から各国で魔術師の把握と囲い込みが行われている。(スマト村の爺さん談)
「で、その魔術師が来たってんでギルドがざわついて
んのさ。」
ニーニャに魔術師の説明をしていると、背後からの声。
「うおっ、ギルマス!?」
「ギルマス、おはよ。」
驚く俺と、淡々とギルマスに挨拶をするニーニャ。
俺が説明に夢中になっていたこともあるだろうが、ニーニャはその優れた耳でギルマスの接近を知っていたのだろう。
「おはようニーニャ、ラストお前も。」
ニーニャには朗らかに、俺には何か意味ありげな顔で挨拶を返すギルマス。
「…うっす、ギルマス。」
俺が気まずいので、とりあえずギルマスに挨拶をしておく。
「ギルマス、今日の依頼。」
ざわつくギルドも何処吹く風。
マイペースなニーニャはついでと言わんばかりに、ギルマスに今回のチュートリアルクエストを訊ねた。
「おん?…ニーニャは何処までこなした?」
ギルマスもまさか自分に聞かれると思っていなかったらしい反応をするが、すぐにニーニャに完了したチュートリアルクエストを訊ねる。
「薬草、鼠、兎、ゴブリン」
即座かつ簡潔に答えるニーニャ。
「ならウルフかウリボア…と言うか、ニーニャはまだ登録から3日だろ?」
次のチュートリアルクエストを挙げるギルマスだが、ニーニャのこなしたクエストの齟齬に気付き、俺に咎めるような視線で尋ねてきた。
ギルマスは俺がニーニャに無理をさせていると思っているのだろう。
(まぁ…俺自身がそうやってきたからなぁ。)
疑われる理由を過去の自分自身で作り出す、まさに身から出た錆だ。
…と、疑われることに納得している場合ではなかった。
「実は薬草採取の依頼で─」
段々険しい顔になっていくギルマスに、俺はニーニャの第1チュートリアルクエストで起きたことを説明する。
行きでニーニャが歯鼠をスリングの一撃で狩ったこと。
薬草の採取ポイントで遭遇した角兎が襲って来て、ニーニャが瞬で返り討ちにしたこと。
薬草採取のチュートリアルの完了報告ついでに、ランクポイント稼ぎで〈歯鼠の歯〉と〈角兎の角〉を提出したところ歯鼠狩りと角兎狩りのチュートリアルクエストも完了となったこと。
「何だと?
担当は何やって…って、あぁ…リタか。」
ギルマスの反応から、またリタがやらかしたのだと覚る。
「…やっちまったモンはしょうが無ぇ。
それよりラスト、薬草畑に角兎だったな?」
元々同パーティーでチュートリアルを行うのも本来は推奨されない。
そこを最近のチュートリアル修了者が俺以外いなかったからと通例を曲げた前例がある以上、チュートリアルクエストの複数同日達成も認めざるを得ないのだろう。
「角兎が何か?」
それよりギルマスが、何故薬草の採取ポイントに角兎がいたことを気にするのか。
(角兎に薬草を食い荒らされるのを心配しているのか?)
角兎はスマト村でも畑を荒らす害獣だった。
「いや、ちょっとした仮説なんだがな─」
そう前置きし声を潜めたギルマスが話すには、角兎の特殊進化個体に治癒兎と呼ばれるものがあるらしく、治癒兎は薬草を大量に摂取した角兎ではないかと思われているらしい。
(神請魔法を使う魔物、ねぇ…。)
先ほどニーニャに魔術師について説明したが、生活魔法でも攻撃魔法でもない特別な魔法があり、別名「奇跡」やら「神聖魔法」と呼ばれる魔法がある。
これはエルフ族の扱う精霊魔法のように、自身の魔力を対価に捧げて現象を起こす魔法だ。
そして精霊魔法は大別すると攻撃魔法になるが、神請魔法は『癒し』や『祝福』のように他者に“良い”影響を及ぼす真逆の性質を持っている。
人の力のみでは他者への干渉は破壊が精々、故に神に請う魔法…神請魔法というわけだ。
そして魔物が人種の魔法である神請魔法を使うというのは非常に珍しいことなのだ。
「ま、王都の賢者が長年試しているらしいが結果は皆無…眉唾ってやつだな。」
そこだけ普段通りの声量で言うと、ギルマスはカウンターの奥の執務室へと戻って行った。
「…。」
「ご主人、ウルフとウリボアどっち?」
先ほどのギルマスの話を聞いて考えに耽る俺に、俺とギルマスの話を聞いていたのかいないのかニーニャが訊ねる。
そうだった、ギルドの様子とギルマスの登場で足止めを食ったが、俺達の目的はニーニャのチュートリアルクエスト。
「う~ん、ならウルフにするか。」
突進が危険なウリボアより素早しっこいウルフの方が、ニーニャの戦闘スタイルとの相性は良いだろう。
「ん、じゃ…行こ?」
「ああ。」
俺の提案に頷いたニーニャは、足止めを食った遅れを取り戻したいかのように、ギルドの出入り口に向かう。
俺はその後を、人と人の混雑の隙間に身体を押し込み、何とかついて行くのだった。
その後狩場で、ある意味衝撃な出会いがあることを知らずに。
因みに魔銃は魔石が主な魔力を供給するので、理論上は誰でも扱えます。
(但しクソ高いし、魔物相手には威力不足気味)
そして不穏なフラグ。
本日12時00分にもう一話更新します。
※この世界の治癒系魔法の正式名称は「神請魔法」です。この魔法の別名称として「奇跡」や「神聖魔法」という言い方をする国もあります。
紛らわしくてすみません、誤字報告ありがとうございました。 (2025/1/23)
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