29 ニーニャの決断
章タイトル回収回です。
〈初心者の森〉からの帰り道。
俺はここ数日で一番の上機嫌で、足取りも軽く街道を歩いていた。
「ふ~んふふ~ん♪」
今日の成果はゴブリン5体に、歯鼠が1体、角兎が3体であった。
ゴブリンや歯鼠はそうでもないが、角兎を3体も狩れたのがでかい。
ゴブリンや歯鼠は討伐報酬のみだが、角兎は素材の買取りで、1体あたり銀貨2枚前後の収入になる。
昨日まではウルフやオーク狙いで森の〈中層〉付近で狩りを行っていたが、ハグレなどそうそう居るものではなく、空振りに終わっていた。
宿代や収納袋のレンタル代…ここ数日は所持金が減る一方だったところに、思いきって〈浅層〉で小物を狙えば大成果である。
そりゃ鼻歌も歌いたくなるってものだろう。
「さて、ニーニャは今日もいいこで待っていたかな?」
急ぎなのであろう。
もう陽が沈むというのに道をすれ違った男が、俺の独り言を聞いてギョッとした目で俺を振り向いた気がするが、気にしない。
野郎に構っている暇があるなら、ニーニャの待つギルドへ急ぐのだ。
駆け足で街道を行く俺はオーク体型からは想像し難い軽やかさで、端から見たらさぞ不気味に映ったことだろう。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
「ご主人、わたしも冒険者やる!」
ギルドに戻った俺に迎えの言葉もそこそこに、やる気に満ちたニーニャが言った言葉だ。
その言葉を聞いて俺が思ったことは、
「何故…?」
確かにこの数日は空振りが続いてしまったが、蓄えは後一週間分以上はあるし、今日からはその日の狩りの成果でやっていける目処も立った。
ニーニャが冒険者となって狩りに出なければならないと感じる程、この数日の俺は不甲斐なかったのだろうか?
呟きが口から漏れたことにも気付かず、そんな後ろ向きな考えに思考が支配されそうになる。
「おいおい…、そんな絶望したような顔をするんじゃねぇよ。
ニーニャの嬢ちゃんはお前さんと一緒に行きたいって思ってんのさ。」
「…へ?」
呆れたように言うマスターの言葉の真偽を確かめるように、俺はニーニャの顔を見る。
「ん。」
頬を僅かに染めコクリと頷くニーニャ。
「一緒に行きたいって…。」
確かに街を歩く時は俺にピッタリとついて歩くニーニャだが、それではまるで…。
「俺としちゃ…せっかくの看板娘がいなくなるのは残念だが、ニーニャの嬢ちゃんが悩んで出した結論を、俺は応援するぜ?」
もしかして今朝ニーニャが上の空だったのは、このことについて悩んでいたということなのか。
…だとしたら俺のエゴで、ニーニャを止めることは許されるものではないのではないか?
「しかし…、それでニーニャに何かあれば…。」
いくらニーニャの意志を尊重したとはいえ、冒険者をやっていくなかで取り返しのつかないことになれば、俺は悔やんでも悔やみ切れない。
「そうならないようにお前さんがついてりゃ良い話だろう?」
俺だってそうしたいのは山々だが、不測の事態は往々にして起こり得る。
その時になって、ようやく尻の殻が取れたようなヒヨッコ冒険者の俺では、俺自身が不安なのだ。
「大丈夫、狩り出来る。」
自身ありげに気炎を上げるニーニャ。
…確かに、俺でも角兎を自力で狩ったのは11の時で、大人が捕まえてきた角兎を倒したときで言えば10の頃だ。
このとき角兎を殺せなかった同年の女たちに、俺“だけ”が野蛮だと更に嫌悪されることになった理不尽は忘れられるものではない。
話を戻して…人間がそうである以上、成人が13才と人間より早い獣人で、本人申告12才のニーニャであれば狩りの一回や二回はこなしているのだろう。
それは理解出来る…理解出来るのだが、見た目10才の女の子を狩りに連れ出すというのは、人間の感性だとどうにも抵抗が強いのだ。
「それが異種族と付き合っていくってことだ。
諦めて腹括れ。」
ドスの効いた声で俺だけに聴かせるように言うマスターの、言葉のニュアンスに違和感を覚えるも、根がチキンの俺は渋々と頷くことしか出来なかった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
善は急げ、ということで。
「はい、これがニーニャちゃんのギルドカードです!」
リタが「G」と書かれたギルドカードをニーニャに差し出す。
「…って、Gランクって何だ?」
俺が登録した際のランクはF。
リタの説明でもFランクが最低ランクだった筈だが?
「冒険者登録は成人してからが基本なのですが、成人前に経験を積むということで依頼に制限をかけて未成年者の仮登録を行っているんです。」
この制度は両親が冒険者であったり、この街にはいないが大きな街では孤児が食い扶持を稼ぐ手段として利用されているそうだ。
俺の登録の際は、俺が成人済だったので説明が省かれたということか。
しかし依頼に制限がつくということは、結局ニーニャは俺の依頼についてこれないということではないのだろうか?
「ご心配なく、そのことについてもパーティーの運び屋として依頼に同行出来まして─」
この制度は主にダンジョンのある街で頻繁に利用されている制度で「Gランクの未成年冒険者は戦闘に参加させてはいけない」という条件をDランク以上の冒険者に課し、依頼に同行させることができるというものらしい。
Eランク以下が含まれないのは、そうでもないと「成人前の経験」というGランクの意義が果たせなくなってしまうからだとか。
つまり俺がニーニャを依頼に連れて行くのは問題無いということになる。
「それではパーティー登録を行うので、ラストさんとニーニャちゃんのギルドカードをお預かりしますね。」
…………。
…。
「はい、これでラストさんとニーニャちゃんのパーティー登録完了です!」
リタに渡されたギルドカードを見る。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ 所属ギルド:冒険者ギルド ┃
┃ ランク :E ┃
┃ 登録者名 :ラスト ┃
┃ 出身 :フラワーフィールズ王国 ┃
┃ スマト村 ┃
┃ 所属 :白の大樹 ☆ ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
以前は所属の欄は空白となっていたが、これからはリタとニーニャの考えたパーティー名が記載される。
きっとニーニャのギルドカードにも同じパーティー名が書かれていることだろう。
「ご主人見て、これで一緒!」
冒険者となれて機嫌の良さそうなニーニャが見せてきたギルドカードには、確かに俺がリーダーを務めるパーティー名が記載されていたのであった。
パーティー名「白の大樹」の由来
白→ニーニャ(リタ発案)
大樹→ラスト(ニーニャ発案&リタ推敲)
ニーニャのラストへの評価の高さが垣間見えますね。(特に“の”って辺りが)
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