28 ニーニャの心、ラスト知らず ※別視点あり
新章開幕です。
前半説明の後半別視点です。
俺がニーニャを保護してから数日が経った。
この数日でニーニャに替えの古着を2セット買い与え、更に〈寝るだけの宿〉を引き払って、新たに一泊3,000 ゴールドの〈旅立ちの風亭〉に宿を移した。
〈旅立ちの風亭〉も宿のグレードとしては低い方だが、俺とニーニャが別で寝られる広さの部屋に、朝か晩のどちらか1食が付いて銀貨3枚は良心的だ。
…まぁ、本来一人が泊まることを想定した部屋に俺とニーニャの二人が泊まると伝えた際、宿の雇われ受付に渋い顔をされたが。
交渉の結果、部屋の設備と食事は一人分、もう一人分は追加で一泊 1,000 ゴールドの、食事が定価の1食700 ゴールドでの提供で纏まった。
つまり俺とニーニャの1泊1食の合計が4,700ゴールドというわけだ。
〈寝るだけの宿〉で別々に泊まった場合より割高になってしまうが、若い女性がいる以上は部屋の鍵が細い木の閂であった〈寝るだけの宿〉に泊まり続けることはできなかったのだ。
一気に3倍になった宿代と意外と食べるニーニャの食費を賄うため、俺は連日これまで以上に依頼をこなしていた。
「じゃあマスター、今日もニーニャを頼む。」
ギルドまでは俺について来るニーニャも、武器無しで俺の依頼について来させるわけにはいかず、ギルドの酒場のマスターにニーニャを預ける。
「任せな、こっちとしても売り上げが上がる。」
最初はリタに相談したのだが、ギルマスがギルドの酒場の給仕のアルバイトを提案してきたのだ。
荒くれ揃いの冒険者たちにニーニャが給仕など危ないと俺は反対したが、他ならぬニーニャ自身が乗り気になったのだ。
結果的にギルマスの提案は当たり、冒険者の少ない時間帯の酒場の売り上げが伸び、ニーニャも少なくない金を稼げるとあって、この数日で定着したのだ。
「ニーニャ、行って来るな。」
「……。」
いつも通りニーニャに狩りに行って来ることを伝えたが、今日のニーニャはどこか上の空だった。
「ニーニャ?」
「…っ、ん…いってらっしゃい。」
もう一度ニーニャを呼ぶと、ニーニャは「はっ」として俺を送り出す言葉を返してきた。
「いいこで待ってるんだぞ。」
そう言って俺は、ニーニャの頭をくしゃりと撫でる。
「ん、わたしは子供じゃない。」
ムッとするニーニャだが、撫でる手を振り払ったりしないあたり、その顔がポーズなのは明らかだった。
「ははっ、成人してない内は子供だよ。」
俺はそう言って、ニーニャの頭をぽんぽんと軽く叩き、依頼をこなすべくギルドを後にしたのだった。
─ ラストの去ったギルドにて ─
「ご主人…。」
撫でられていた時とは一転、物憂げな表情で寂しそうに呟くニーニャ。
「あのデカ兄ちゃんが心配か?」
ニーニャの仕事場の主が、ニーニャに訊ねる。
「ん。」
考える素振りもなくニーニャは頷く。
「だろうな。
だがニーニャが戦えない以上は待っているしか無いのさ。」
ニーニャは戦う術を知らない。
ニーニャの主人のラストは、ほんの数日前に押し掛けた自分を養うために、危険な魔物と毎日戦っている。
「ご主人…。」
だというのにラストはニーニャに当たることも無く、自身が幼い頃の実の親と同じくらい、ニーニャに優しく甘やかしてくれている。
『成人してない内は子供だよ。』
先ほどラストに言われた何気ないその言葉を思い出すと、何故か胸が苦しくなる。
(ご主人、好き…。)
オークに追われ、死を予感した時のことを思い出す。
大事な武器の1本を投げ棄ててまで、恐ろしいオークの気を引いたラスト。
その後自身よりも更に大きいオークに槍を突き刺し、暴れるオークに怯まず、果てはオークを切り裂いたラスト。
そして倒れ伏して尚息のあったオークを苦しませないように止めを刺し、狩りの成果を諦めてニーニャを気遣ってくれた優しいラスト。
この時からニーニャが抱いた“好き”という感情は親愛は勿論のこと、異性に抱く“好き”だということも分かっている。
だからニーニャは種族の感性の違いを装ってアピールしているのだが…。
(ご主人、おっぱい大きいのが好き?)
成長の遅い自身の身体だが、胸だけは順調に育っていたと思っていたニーニャ。
しかしリタという受付嬢と話す時のラストの匂いは、男女の“好き”の匂いだった。
ニーニャといるときは親愛の匂い…それでも嬉しいのだが、やっぱり自分と同じ気持ちを向けて欲しい。
だから初めて一緒に寝た日の朝に、自分の“好き”の匂いを嗅がせてみたのだが…。
「あぅぅ…。」
あの時、自身の足の間に押し付けられた感触と“雄”の匂いを思い出し、顔が熱くなるのをかんじる。
「ニーニャ、そろそろ…っておい。」
マスターとラストに呼ばれる男が、様子のおかしいニーニャに、慌てたように近寄って来る。
(ダメッ…!)
きっと今のニーニャは“雌”の匂いをさせていることだろう。
そんな状態の自分に好きな男以外を近付けるわけにはいかない。
「何でもないっ、仕事する。」
寄って来ていたマスターの横をすり抜け、厨房へと逃げるように入っていく。
いつもの場所に向かうと、袋一杯に詰められた芋や根菜が置かれていた。
ニーニャの始めの仕事は、これらの皮剥きなのだ。
顔の熱と匂いは仕事をしていれば落ち着くだろう。
そう考えてニーニャはタライに水を張り、ナイフを器用に使って芋や根菜を丸裸にしていくのであった。
─ その時のマスター ─
仕込み作業の準備をし、呼びにいったニーニャの顔が赤いことに気が付き、具合が悪いのかと焦ったマスター。
「何でもないっ、仕事する。」
しかしそう言って厨房に行ったニーニャに、マスターは独り言ちる。
「…甘酸っぺぇな、全くよぉ。」
ニーニャ視点をお送りして見ました。
作者 「ニーニャさん、ラストにベタ惚れじゃな
いですかぁ?(ニヤニヤ)」
ニーニャ「ん、だから何。(真顔)」
作者 「グハァ…ッ!?(死亡)」
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