2 問題発覚
フラれただけでは終わらない。
2024・12・1
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実家を出て行く日の前の晩。
「兄さん、これはどういうことだ!」
自室で静かに思い出を噛み締める…ということも無く、俺は兄に怒声を上げていた。
「いや、すまない。」
相変わらず口だけで謝ってくる兄だが、今回ばかりは引き下がるわけにはいかない。
「謝って済む問題じゃないだろ!?
銀貨一枚でどうしろって言うんだ!」
将来家を出される俺のために、両親がせめてもと、生活資金として貯めていた金。
先月確認したときには100枚以上はあった筈の銀貨を、この兄は事もあろうか黙って使い込んでいたのだった!
「本当に済まないと思っている。
だけどしょうがなかったんだ、俺だって予想外だったさ。」
開き直ったように兄が言うには、嫁の花嫁衣裳を依頼した針子へ、結婚が早まり急ぎの依頼になったことへの、特別報酬として渡したとのこと。
(また兄嫁のせいかよっ!)
俺に渡される分の金を使ったことに関しては、払う金が無かったと言われてしまえば、引き下がる他無い。
報酬を支払えずに家族…この場合は両親を借金奴隷に落とす程、俺は金に意地汚く無い。
『俺に渡されていなかった以上は、両親の金。』
と考えれば、惜しく思いはしても納得しただろう。
両親が金を用意してくれていたのは、あくまでも家を出なければならない俺に対しての、親の子に対しての情だ。
「はぁ…、無いものはしょうがない。」
「だよな、ラストなら分かってくれると─」
俺の怒りが収まったと勘違いした兄の、俺をある意味馬鹿にした言葉を、わざと遮って兄に問う。
「だが黙っている必要は無かった筈だと思うが?」
もし兄が金を使うことをもっと早く伝えていたならば、俺としても狩りをするなどして、独り立ち後の生活資金を得る努力が出来たのだ。
それを「日が落ちて後は寝るだけ」というタイミングで、準備の最終確認で発覚するまで黙っているのは、兄に野垂れ死ねと言われているのと同じだ。
「結婚の準備で忙しかったんだ…。
何せ急に決まったことだからな。」
自分も被害者だというような言い草だが、嫁の我が儘を受け入れ、結婚の日取りを大幅に早めたのは兄自身だ。
「一言伝えるくらい、タイミングはいくらでもあっただろ?」
いくら忙しいと言っても兄も俺も実家暮らし。
いつ金を使ったかは不明だが、毎日朝夕は顔を合わせていたので、その時にでも言えば良かったことを指摘する。
(大方忘れていたか、伝えて文句を言われるのが嫌だったというオチだろうに…。)
そんなことで生命の危機…は大袈裟として、多大な苦労をすることになるのは割に合わな過ぎる。
言い訳の穴を突くくらいの意趣返しはしてもバチが当たることはないだろう。
「さっきから何なんだお前!
俺が結婚することを素直に祝えないのか!?」
しかし自分の非を認めたくないのか、俺の指摘に兄は逆上し、更に今は関係のない話で俺を非難し始めた。
(キャサリンはこんな器の小さい兄のどこが良いんだか…。)
「~~~~~!」
結婚後苦労するであろう、結婚を早めることを求めるほど兄にゾッコンな女を哀れむ。
(いや、意外とお似合いか。)
「~~~~!」
以前兄に嫁として紹介された時の、微妙に会話の合わないズレた性格を思い出し、考えを改める。
「はぁ…。」
全ての元凶について考えている間中喚き続ける兄にため息が出る。
「さっきから何度も…、謝ってるんだから許すのが人情って奴だろ!
なのにお前らときたら結婚祝いすら用意しない冷血野郎だ!
だから俺が代わりに、結婚祝いとして金を使っただけじゃないか?
デブで強突張りとは、そりゃ結婚出来ないだろうさ!」
謝罪されて許すも許さないも、謝罪された相手が決めることだ。
それに結婚祝いなどというものは貴族や街の金持ちの習慣だし、それでも身内が用意することはないと聞く。
しかも当事者が代理で祝いを用意するとか、本末転倒にも程がある。
デブという指摘は甘んじて受けるが、俺を強突張りと言うのであれば、兄が奴隷落ちを避けられているのは何故だ?
「はぁ!?それは今関係ないだろ!?
それを言うなら、親父達が俺に用意した金を使って、弟を無一文で追い出す方が冷血で強突張りだよっ!」
兄がまくし立てた言葉は相変わらす穴だらけで、しかも兄の言ったことは自己紹介かと思えるほどに兄自身に当て嵌まっていた。
こういうのを、古の勇者の語録に遺された言葉で「ブーメランが刺さってて草」と言うのだったか?
それはそれとして、ここまで聞き流してきたが、一度言い返してしまえば止まらなくなる。
「大体、兄さんはいっつもそうやって都合が悪くなれば大声を出せば良いと思って!
結婚するのがそんなに偉いことなのかよ!?」
俺の抱くイラつきを、この際洗いざらいブチ撒ける。
子供のころは恐ろしく感じた兄の怒鳴り声も、15になった今では単なる癇癪にしか感じ無い。
「うるさいっ!
生意気な奴め、こうしてやる!」
「!?」
バキィッ!ゴロゴロドンッ、ガシャーンッ!
不意打ちで飛び掛かって来た兄に、内心で見下していた俺は、反応が遅れてそのまま殴り飛ばされる。
「ぅあ…。」
(今のモロに入ったな。)
口から漏れた呻き声と、ジンジンとした熱を発する左頬が、兄が本気で殴って来たことを教えてくれた。
ポタタッ
そして吹っ飛んだ先は運悪く食器が仕舞われた戸棚で、揺れで落下してきた皿の破片で額を切ったらしく、数滴の血が床に落ちた。
「こ…のヤロっ!」
先に手を出された以上、やり返さねば気が済まず、よろけながら気合いで立ち上がる。
「お…、おお!?
何だ、まだ殴られたいってのか!?」
まさか俺が立ち上がると思っていなかったのか、好戦的な言葉とは裏腹に及び腰になる兄。
「ふっ…。」
(ビビんなよ…、一発お返しするだけだ。)
コツ…コツ…
威嚇する兄が可笑しく思えて、余裕の俺は不意打ちの仕返しに、一歩一歩追い詰めるようにゆっくりと近づく。
「あ、ああ…。」
一方的に殴って来たにも関わらず、何故か戦意を喪失する兄。
兄から殴ってきておいて、これではまるで俺が悪者のようじゃないか。
(まぁ、一回は殴らせて貰うけどな。)
既に俺と兄の間の距離は無いに等しい。
どこに拳を振ろうが、兄の身体のどこかには当たるだろう。
「お前達、止めるんだ!」
ガシッ
拳を振りかぶろうとしたその瞬間、いつの間にかいた親父が制止の叫びを上げ、俺を羽交い締めにするのだった。
貨幣価値設定(変更あるかも)
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銅貨 →100円
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