23 俺とニーニャと街と 後に…
まあ、こうなるんですけど。
話題の「後」は「のち」読みが良いかと思われ…
ニーニャが奴隷から解放されたことで(いや、それ自体はめでたいのだが…)、あっという間に過ぎ去った己の春に、今度は心の雨季が訪れていた俺。
くいっ
「ご主人、行こ?」
「あ、ああ!」
しかし自由の身となった筈のニーニャが、当たり前のように俺と行動を共にすることを受け入れている様子に、俺の心の季節は眩しい陽の差す夏の盛りとなった。
なんと単純な俺だろう。
しかし単純の何が悪いか!?
そんなやつは父親に打たれたことがない軟弱者だろう。
ざわ…ざわ…、ヒソヒソ…
ニーニャを連れて歩く俺は、街行く人々(主に女性だが?)の騒めきや視線も気にならない。
何故なら俺に疚しいことなど一切ないのだから!
(…やべぇ、これが女がいるってことか。)
実家を追い出されるにあたり自己中兄と喧嘩…けんか?した際に、俺は「女がいるのが偉いことなのかよ!?」的なことを言った気がするが、この万能感(※あくまで個人の感想です)はまさに万能だ。
「ご主人。」
俺に万能感を与える可愛いが俺を呼ぶ。
「なん…」
「あれ。」
俺がニーニャに注意を向けたとみるや、俺の短いセリフにすら言葉を被せ、ニーニャが左手(右手は俺の服の裾を掴んでいる)の白魚(見たことないが)のような指で指差したのは串焼き屋台。
ジュ~ッ ジュ~ッ
油が炭に落ちて発てる音と、肉の焼ける香ばしい匂いが食欲をそそる。
「へいおっちゃん、それはいくらだ?」
美少女にねだられては買わないという選択は無い。
俺は焼いている肉串を指し、屋台のおっちゃんに値段を訊ねる。
「んおっ、…これはオーク肉だから1本500ゴールドだ。」
「ぶふっ!?」
ラビ肉の5倍の値段に、俺は思わず吹き出す。
あの…ニーニャさん、あなたがねだった串焼きの肉…高級品ですよ?
「ご主人…、だめ?」
わかった、わかったからそんな哀しそうな目で見ないでくれ!
俺の心が罪悪感で「Go to HELL !!」(古の勇略)しちゃうから!
「2…いや、3本くれ。」
俺は屋台のおっちゃんに銀貨を二枚渡す。
「毎度、オーク串3本と釣りの500ゴールドだ。」
おっちゃんは俺に銅貨を5枚渡してから、素手で灰に立てた串焼きを3本油紙に包む。
そして俺は渡された油紙から串焼きを1本取り出し、残る2本を油紙ごとニーニャに渡す。
「ふわぁ…!」
輝く笑顔とはまさにこの表情か。
初めてみるニーニャの笑顔は、思っていたよりも幼く、俺の目には映ったのだった。
…串焼きを3本にした理由?
そりゃ俺がおっちゃんに2本って言いかけた途端、ニーニャの瞳から期待の輝きが消えて、ピンと立っていた尻尾が垂れ下がれば、…ねぇ?
ニーニャの期待に応えるためなら1食分くらいは…スマン、やっぱそれなりに(銭袋に)痛かった。
……………。
………。
…。
「むぐむぐ…。」
両手にオーク串を持ち、交互に頬張るニーニャ。
(着替えも買ってやりたいんだがなぁ…。)
奴隷であったニーニャが着替えなど持っている筈も無く、今着ている白いワンピースしか服がない。
そのワンピースも森でオークに追われた際に、枝に引っ掛かり解れ、土や草の汁で汚れている。
街のオバチャン達が俺に向ける蔑んだような目も、俺がニーニャにボロボロの服を着せていることが理由に挙げられそうだ。
(できることなら新品の服を買ってやりたいさ…!)
しかし事実、昨日買った槍の30万が重すぎた。
一応所持金はまだ10万ゴールド近くあるとはいえ、これからの二人分の生活費用を考えると、1万ゴールド以上はすると思われる新品の服など手を出してはいられない。
「あ。」
「ゴクン…、ん?」
声を出した俺を、ニーニャが肉を呑み込んでから、首を傾げて見上げる。
「いや、ちょっと用事を思い出してな。」
ニーニャの仕草に顔がニヤけるのを必死で抑え、何とか平静を装ってニーニャにわけを話す。
俺の目に入った剣と盾の書かれた看板。
特に目的はなく街をブラついていただけだと思っていたが、足は自然とこの一ヶ月で他の何処よりも慣れ親しんだ、冒険者ギルドへと向かっていたようだ。
(ちょうど良い、オークの討伐報酬を足しにできる。)
オークの討伐報酬が常設依頼で3,000ゴールド。
オーク肉串6本分にしかならないが、この街に来た当初の所持金と比べたら、十分な資金である。
(あ、後ゴブリンも何体か討伐していたな。)
本来は半分休日みたいな、新しい槍の使い心地を試していたのだった。
その後のオークとの死闘とニーニャの保護で、すっかり忘れていた。
〈ゴブリンの右耳〉や〈オークの尾〉などいつまでも持って置きたくはないので、ニーニャとの街デートの資金作りを兼ねて、ギルドへ討伐の報告に行くとしよう。
そうと決まれば、早速ギルドの入り口を潜り、俺は“いつも”のようにリタの居るカウンターに向かう。
…この時の俺は気が付かなかったのだ。
いつも通りの行動、それがニーニャを連れていたことで、前提から覆っていたことに。
そしてその“うっかり”の代償は…
「あっ、ラストさん。
本日はどうされまし…」
「ん?
ああ、常設の討伐報告に来た。」
目を驚きに丸くして、受付の常套句を言う途中で黙ってしまったリタ。
俺はリタの様子が気になるも、また絡まれても面倒なので、まずは用件を伝えることを優先した。
多分俺のその“いつも通りの態度”が悪かったのだろうか?
「…ラストさん、その娘。
ラストさんはそんな人じゃないって、優しい人だって信じていたのに!」
初対面のときから俺に微笑みを向けていたリタが、体の芯から凍り付くような冷たい表情となったと思えば、酷い裏切りを受けたというようなことを、ギルド全体に響く大声で言い放ったのだった。
ニーニャとの街デートから一転、リタとの修羅場になりました。
称号追加!
デリカシー0主人公 ←New!
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