236 闇夜に沈む
勝ったな、風呂入ってくる。
あまりにも唐突な出来事に俺もジャムールも唖然としてしまい、戦闘の最中に空白の時間が生まれる。
…いや、確かに俺はそういう考えで『鎧砕き』の効果の乗った『同時突き』をジャムールのショートソードに当てたのだが。
だがそれはあくまでも駄目元の悪足掻きであり、まさか上手くいくなどとは僅かにでも期待していなかったのだ。
(だがこれで…!)
互いに武器を1つずつ破損したことになるとはいえ、俺の盾とジャムールのショートソードでは戦闘における影響が段違いだ。
俺の盾はまだ盾として使えるのに対し、ジャムールのショートソードはガラクタと化した。
予備のナイフくらいはあるのだろうが「折れたショートソードの代わりになるか?」と言えば、そんなわけが無い。
残るメインウェポンの片割れである薄刃の短剣もリーチでは槍に敵う筈も無く、間合いを詰めらても俺には盾がある。
敗色濃厚から一転、俺とジャムールの戦いの天秤は一気に俺に傾いた。
ポイッ
「チッ、よくも…!」
折れたショートソードを投げ捨て、ジャムールは怒りも顕に俺を睨む。
自分のメインウェポン…しかも魔剣を破壊されたのだから、ジャムールの怒りは尤もと言える。
(お前らが怒るのはお門違いだってな!)
だが武器である以上戦いで失われるのは当たり前であり、俺も勝つために必死なのだから…。
それに「怒り」ならば、俺だって抱いている。
ニーニャとソーナを誘拐した悪党が、追手との戦いで武器を破損して怒るなど…棚上げも甚だしい。
「…『起きろ』、ファントムリーパー。」
それはともかく。
多少なりとも戦いの心得があるなら俺が有利になったことが分からない筈が無いのだが、愛用の魔剣を破壊された怒りからか闘志を燃え上がらせるジャムール。
…それとも「誘拐」という悪事に手を染めながらも、僅かに残っていた「傭兵の矜持」というやつなのか?
「まさかコイツを使うことになるとはな。
…だが、お前はもう“終わり”だ…!」
ダッ!
薄らと光を纏う薄刃の短剣を手に、予備のナイフを抜くこと無く俺に挑み掛かって来るジャムール。
槍を使う俺に一方的に攻撃されるのを避けると同時に、金属盾を持つ鈍重な俺を素早さで圧倒しようという心積もりか!?
(来るなら来い…!)
ならば初撃で動きを止めてやろうと、俺は盾を正面に構える。
ザッ!フッ…
しかしそんな俺の意図を読んだかのように、ジャムールは短剣の間合いに入る寸前で急停止─からのサイドステップで俺の視界から外れる。
フェイントだ。
ジャムールの姿を見失った俺は、次の瞬間には為す術無く夜の闇から斬り付けられ─
…ザッ
「っ…!」
ブンッ!ガキンッ…!
─ることは無かった。
ジャムールが踏み込んで来る際に発つ音を聞きつけ、俺は反射的に音が聞こえた方へと盾を振るう。
「チッ、勘の良い…。」
ザッ…
初撃を防がれたジャムールは忌々しげな言葉を残し、再び夜の闇に紛れる。
ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!
何度も繰り返される、ジャムールの一撃離脱。
「くっ…!」
(打ち合いを避けたかったんじゃ無いのか!?)
俺は辛うじて防御を間に合わせ、ダメージを受けることは無かった。
だがこれまでと違うジャムールの戦い方を受けて、俺は戸惑ってしまった。
その動揺と、一方的に攻撃を受ける状況への焦りもあったのだろう。
ピッ!
(掠ったか…!?)
その一度が皮切りとなり戦闘に支障は無いものの、俺は手足に多数の傷を負わせられる。
(この程度…!)
服はボロボロで血が滲んでいるが、所詮は掠り傷に過ぎない。
ザッ
「ハァ…、ハァ…。」
むしろ傷を受け血を流した俺よりも、動き続けていたジャムールの方が体力を激しく消耗しているようだ。
俺の間合いから随分と離れた位置で立ち止まったジャムールは息も荒く、今にも倒れそうな様子で肩をゆっくりと上下させている。
ジャムールの持つ短剣は未だに薄く光を纏っているので油断は出来ないが、ほぼジャムールの自滅と言って良いだろう。
…そうなると気になるのは、未だに発動中である短剣のスキルの効果だ。
(…まさか「ただ頑丈になるだけ」、なんてことは無いだろうな?)
そうだとしたらハッタリも良いところだが、それならジャムールの戦い方の変化に説明がついてしまう。
まぁ…掠っただけで革のズボンも斬り裂く程の鋭さと、何度打ち合っても刃毀れの無い頑丈さの両立と考えたら有用ではある。
だが雨のように礫を飛ばしたり鉄を斬り裂くショートソードに比べてしまうと、地味と言わざるを得ない。
やはりジャムールのメインウェポンはあのショートソードで違い無く、だからこそ自滅を厭わない戦闘をする程に激怒したのだろう。
だが今は体力を消耗したことで、怒りも少しは収まったのではないか?
(…ジャムールは仕事をしただけだしなぁ。)
誘拐を計画したであろうダマルはともかく…未遂となった今「大人しくするなら」という条件付きだが、雇われただけのジャムールは助けてやっても良いかもしれない。
ジャムールは戦闘狂の気がある危険人物ではあるが、ダマルやその他多くの野盗のような悪人では無い…筈。
「…クククッ、やはりお前は傭兵に向いていない。」
だが俺のそんな考えは、息を整えたジャムール本人によって否定されることとなる。
(そんなザマで…、どうするってんだ。)
…スッ
息を整えたとしても激しく消耗した体力が完全に回復する筈も無く、ジャムールの足元はフラフラと覚束無い。
俺はそうまでして戦闘を続けようとするジャムールに憐れみを感じながらも、止めを刺そうと槍を構える。
「『猪突─」
「ククッ…」
ふと、不敵な笑い声を漏らすジャムール。
「『斬り裂け』。」
ブシュウゥッ!!
「ガハッ!?」
お前はもう…
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