234 突撃!深夜の誘拐犯
スラストラスト
スラストは駆けた、夜風よりも速く。
俺は掴んだ、その背から振り落とされぬように必死で。
今の俺達を突き動かすのは、愛する女(雌)を連れ去った無頼の輩への怒り。
「くぉおおぉ…!」
唸れ、俺のこの拳!
「メ゛ェ゛エ゛エ゛ェ゛~ッ!」
振り落とされそうになる俺に構わず、スラストは時折番を呼ぶように鳴き声を上げる。
…これでは隠密も何も、あったものでは無い。
ジャムールは俺よりも腕が立ちそうではあったが、オットーさんのように隔絶した強さを感じるか?と言えば…そんなことは無い。
だが俺より強いのは確かなので、万全な状態で待ち構えられているとなると…正直なところ少々厳しい。
…まぁ、だからと言って拐われた2人を諦めるつもりは一切無い。
(要は、奇襲以外でどう立ち回るか?…だ。)
ジャムールの武器は2本の剣、対する俺は槍と盾。
手数はジャムールが多いが剣を片手で振る分、一撃の威力は軽くなるだろうから盾で受けるのは容易…更にリーチには俺に分がある。
ピクッピクッ
「………、ッ!」
ギュンッ!
「ぅおわっ!?」
俺がジャムールとの戦い方を想像していると、スラストが不意に方向を変える。
投げ出されそうになった俺は驚き、慌ててスラストの背にしがみついた。
「おいっ、スラ─」
「メ゛エ゛エ゛ェ゛ーッ!!」
俺が咎めようとすると、もう一度絶叫のような鳴き声をあげるスラスト。
明らかに今までのパターンと違う、スラストの行動に俺はハッとする。
(もしかしてこの先にいるのか!?)
「………ェ~…」
そう気付いたと同時、俺の耳にも僅かに…だが確かに〈ヤク〉の鳴き声が聞こえた。
明らかに甲高い澄んだ鳴き声だったので、スラストのダミ声が山から返って来たわけでは無い。
「メ゛メ゛ェ゛エ゛ェ゛ーッ!」
グンッ!
俺の見立てが合っていることを証明するように、またも鳴き声を上げたスラストが更に加速する。
そして─
ダンッ!フワッ…
決して軽く無い俺が背にしがみついているというのに、高く跳躍するスラスト。
(おぉっ…、っ!?)
浮遊感に思わず下を見た俺は、見えた光景に恐怖で息を飲む。
「崖ぇええぇ~っ!?」
高く跳んだ俺たちの下に見えたのは、森の木々の天辺であった。
そう…あろうことかスラストは、山の斜面から飛び出た崖から飛び降りてしまっていたのだ!
いくら番の呼び声の元へ急ぐとはいえ、一直線にも程がある!?
ヒュゥウゥ…
「ぎゃあああぁ~っ!?」
「メ゛エ゛エ゛エ゛ェ゛~ン゛ッ!!」
夜の山に響き渡る俺の恐怖に満ちた悲鳴と、スラストの勇ましい嘶き。
翼の無いスラストが空を飛び続けられるわけも無く、急速に森が近付いて来て─
ガサガサガサッ!
冬でも繁る枝葉に、俺たちは突っ込んだ!
ガサガサッ、…ドッ!
「ぎゃっ…!?」
パッ
串刺しになること無く、無事に木々の枝葉を抜けたのも束の間。
一瞬静かになった直後に受けた着地の衝撃に、俺はとうとうスラストの背から手を放してしまう。
ポーンッ…ドサッ!ゴロゴロ
「がっ!?くっ…!」
宙に放り出された俺は難とか受け身を取るも、勢いを殺せずに二回三回と転げる。
「とぅっ!…お?」
スタッ!ヨロッ…
ならばと勢いに乗って立ち上がった俺であったが、目が回って少しよろけてしまった。
う~ん…1点減点で9点!、…惜しいっ!
「なっ、何だ!?」
「ほら、だから1人にしとけって言ったんだ。
…追い付かれたんだよ。」
「馬鹿なっ!?」
(…っと、ふざけてる場合じゃないな。)
ダマルとジャムールが言い争う…いや、ダマルがジャムールに一方的に喚いているだけだな。
だがまぁ、今はそんなことはどうでも良い。
今俺…俺たちにとって重要なのは、遂に誘拐犯共に追い付いたということだ。
そして肝心の救出対象は…というと、毛布で簀巻きにされた状態のニーニャとソーナが、スラストの番の〈ヤク〉の背に狩られた獲物のように載せられていた。
…これだけ騒がしくしてあるにもかかわらず2人は眠ったままのようで、どうやら誘拐に際し睡眠薬を盛ったのだろう。
(この野郎…!)
2人の粗雑な扱いに、俺は誘拐犯共への怒りを更に燃え上がらせる。
カチャカチャ、スルッ…
俺は背負っていた盾を胸当ての金具から外して左手に持ち、右手に持っていた槍の穂先からカバーを外す。
(今の内に─)
「おっと待った!」
仲間割れ(?)をしている内にさっさと仕留めて終おうとした俺だったが、流石にそんな都合良く事が運ぶことは無い。
やっていることは腐っていても腕が立つのには変わり無く、俺が先に仕留めようとしたジャムールが制止を呼び掛けた。
「…っ、何をぼさっとしている!?
早くそいつを殺せ!」
ジャムールの呼び掛けで俺が武器を構えていることに気付いたダマルは、一瞬怯えた顔をした後ジャムールに俺を殺すように叫ぶ。
だがジャムールは腰の剣を抜く様子が無く、警戒する俺に向かって親しげに話し掛けてきた。
「なあ、お前強いだろ?
冒険者なんか止めて、オレと組まないか?」
「断る!」
誘拐犯の仲間になど、なるつもりは無い。
「つれないこと言うなよ。
…オレらを追って来たのは、獣人共の依頼か?」
「ニーニャは俺たちの仲間だっ!」
…たとえこの後ニーニャがパーティーから抜けるとしても、今はまだ〈白の大樹〉の大切な仲間だ。
(“本当に…?”)
「そうか、………。
ならお前の仲間を返せば、お前はオレと組むか?」
「お前らに渡すものは何も無い!」
ニーニャは当然大切な仲間だが、俺はソーナにも惹かれているし、スラストとスラストの番を取り戻す約束をした。
「ふぅ…、強欲は身を滅ぼすぞ?」
「お前がそれを言うな!」
俺が抜き身の武器を構えているというのに、剣も抜かずに余裕の態度でぬけぬけと物を言うジャムールに、俺の我慢もそろそろ限界だ。
「交渉は決裂か─ッ!」
ビュッ!ピッ…
(チッ、外した…!)
俺はまだ何かを言おうとしたジャムールの隙を突いて喉を狙って突きを繰り出したが、寸前に感付かれギリギリで避けられてしまった─
ツゥー…
─かに思ったが、薄皮一枚分掠ってはいたらしく、ジャムールの首に一筋の血が流れる。
「…良いぞ、つくづくお前は傭兵に向いている!」
グイッ、ペロッ
不意打ちを食らったジャムールだったが、ヤツはそれを咎めるどころか指で拭った血を舐め取り歓喜の笑みを浮かべた。
「だが残念だ…オレに血を流させた以上、お前はオレの敵ってことになる。」
ジャリンッ!
─リンッ…
ここでようやく腰の剣を抜くジャムール。
右手には透けるような薄刃の短剣、左手には剣身がザラリとして斬れ味が悪そうなショートソード。
(逆じゃないのか…?)
『ウェポンマスター』たるオットーさんは当然二剣での戦いも出来るのだが…オットーさんに見せて貰った戦い方は、基本的には「左手の剣を防御、右手の剣で攻撃」…といった動きだった。
(…左利きか?)
俺もオットーさんも多くの人がそうであるように右利きであり…もしジャムールが左利きであるとするならば、俺が対峙した中では人型の魔物を含めて初の相手となる。
(…いや、それよりも、あの短剣を警戒した方が良いだろう。)
ジャムールが左利きであるとするなら確かに戦い辛いだろうが、所詮は「戦い辛い」だけだ。
それよりも一度も剣を受けれそうに無いあの薄刃の短剣が、ジャムールの攻撃の要であると警戒した方が良さそうだ。
「ふっ、考えてるな?戦いでは考えが止まったヤツから死んでいく。
…だがオレの前ではそれもムダだ。」
ヒュッ!
「ッ!」
キィイーンッ!
一気に距離を詰めたジャムールの振るった短剣と俺の盾がぶつかり、殺し合いの場には似使わぬ澄んだ音が響く。
「やはりこのくらいは防がねばな?」
先ほどの攻撃は、俺の不意打ちに対する意趣返しだとでも言うのか!?
「このっ!」
グワッ!
ジャムールの攻撃を防いだ俺は、間髪入れずに盾を押し出す。
トンッ
「おっと、…盾も使えるか。」
スタッ
しかしスキルでは無かったためか、俺が盾を押し出した力を利用して距離を取るジャムール。
(だがそれは悪手だ!)
ダッ!
「『三連…」
俺は駆け出し、ジャムールに『三連突き』を見舞おうとする─
「『石牙』。」
ズズズ…
「ッ!?」
─が、ジャムールの「牙」との呟きで、ジャムールの前に複数の『石弾』のような尖った礫が浮かぶ。
「行け。」
俺は危機感に従い、咄嗟に盾を構える。
ガガガガッ!
「くぅ…!」
直後、盾に何度も打ち付ける衝撃。
一発一発は大したことの無い威力だが、俺の足は完全に止まってしまう。
(遠距離攻撃かよっ!?)
だが、これ程のスキルが連発出来るわけが─
「『石牙』、行け。」
嘘だろ、おい!
ガガガガッ!
しれっと出てくる新スキル『三連突き』
※習得自体は義父との訓練でかなり前にしています。
(『猪突猛進』が便利過ぎて…)
汎用的なスキルは大体習得済みだと思って下さい。
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