233 夜を駆ける
ボス「獣人種は仲間を大事にするぞ!」
スッ
ラスト「…。(無言でニーニャを差し出す)」
ボス「ワンフォーオール!!」
ラスト「“猫”人族なのにワン…?」
ボス「…ボソッ(お前だってオークじゃねぇか…)」
ラスト「あ゛ん?」
ボス「おお゛ん?」
ヒョコッ
鼠の服を着た猫「お゛ん?(呼んだ?)」
調べた結果、村から居なくなっていたのは、ニーニャの他に3人もいた。
だがこれにより、この事件の全貌が浮かび上がってきたのだ。
「クソがっ、ダマルの奴…!」
ニーニャの他に居なくなっていた3人とは、ダマルとジャムールそして…ソーナであった。
…あくまでも予想の段階ではあるのだが、ダマルとジャムールによる誘拐でほぼ確定である。
(…味を占めたか。)
魔物の囮にされなければ貴族のボンボンに売られるところだったことを思えば、ニーニャの奴隷としての価値は金貨100枚は下らないだろう。
たとえ間にアーコギ商会を挟んだとはいえ、ダマルが得た利益が端金の筈が無く…。
猫人族の村での商いが今回で最後というのも悪質な商売をしていたことがバレたから…では無く、始めからこのつもりであったのだ!
(となると、ジャムールも…)
行商の護衛にするにしては腕が立ち過ぎるとは思ったが、“強行手段”として雇われたのであれば納得がいく。
…だがそうなると、拐われた2人の救出は難しいものとなる。
拐われた2人を救出するには、まずその行方を調べることになる。
ダマル達もそれは承知しているだろうし、逃げ切るために自分達を発見した者は排除しようとするだろう。
誘拐に手を染めた悪人が殺しを忌避するとも思えないし、実際の殺しを行うのは殺しに慣れていないわけが無いジャムールだ。
対策としては軍の斥候のように複数人で組んで行動することだが、ジャムール相手では2人や3人は1人と変わらないだろう。
だがそれ以上の人数で捜索チームを組むには猫人族の村では圧倒的に人手が足らず、捜索も意味の無い行動になる可能性が高い。
奇跡的にダマル達を発見できたとしても、その際に出る犠牲と拐われた2人を比べると…村としては2人の救出を諦めた方が懸命だろう。
(その点はボス達が獣人種なのは良いことなのか…、それとも─)
そこへ村の若い男が1人、駆け込んで来る。
タタッ
「ボスっ、大変だ!」
「どうした!?」
既に誘拐犯2人と拐われた2人以外は、きちんと揃っていることが確認されている。
となると他の問題があったということだが、ニーニャとソーナが拐われた可能性が高いと分かった時以上の焦り様だ。
「ハァハァ…。
や…奴ら、〈ヤク〉も1体盗んで行きやがった!」
息も整い切らぬままに男が告げた内容に、横で聞いていた俺は肩透かしを食らってしまう。
しかし報告されたボスはそうでは無かったようで…
「何!?まさか番を…?」
コクコク
「…っ、ああ。」
ボスが恐る恐るといった様子で確認したことに、報告してきた男は何度も首を縦に振って肯定した。
「こうしちゃいられん!
ラスト、お前もついて来てくれっ!」
ダッ!
「ちょ!?おい!」
ドタドタ
俺は顔を青醒めさせたボスに乞われるまま、乞うておきながら俺を置いて駆けて行ったボスの後を追うのだった。
…………………。
…………。
…。
そしてボスを追って行った先。
ガンッ!ガンッ!
「ほら落ち着けって!」
ドガゴンッ!!
「うわぁあ!?」
(うわぁ…。)
「メ゛ェ゛エ゛ェ゛ェ゛~ッ!!」
ドンガラ、ガッシャーン!!
ボスが村で飼っていると言っていた〈ヤク〉の1体が、家畜小屋を破壊する勢いで暴れていた。
というか…小屋は既に倒壊寸前で、村の力自慢達が数人で暴れる〈ヤク〉を取り押さえようと奮闘していた。
「早く取り押さえろ!
こんなことをしている暇なんて無いってのに…!」
「しかもよりにもよって雄かっ…おいっ、角に気を付けろ!
下手したら怪我じゃ済まんぞ!?」
「メ゛エ゛エ゛エ゛ッ!!」
しかしボス達が押さえ付けようとすればする程、絶叫を上げて更に激しく暴れる〈ヤク〉。
(これが噂に聞く「〈ヤク〉の怒り」か…!)
普段穏やかな人物が怒る時を「ヤク怒り」と言ったりもするが、その例えの元となる光景に戦慄く俺。
シャッ
「くっ…仕方ない、悪く思うなよ?」
ギラッ…!
そうしている間に、ボスは暴れる〈ヤク〉を殺そうとナイフを抜いた。
「っ、待ってくれ!」
星の光で僅かに煌めいた刃に、俺は思わずボスを制止する。
「ラスト!?何を─」
「押さえようとするから暴れるんだ!
その〈ヤク〉から離れろ!」
ボスが抗議しようとしてくるが、俺は構わずに更なる指示を出す。
パッ
「「…あっ!?」」
畑の再生作業で俺の指示に従うことに慣らされていた村の力自慢達は、思わずといった様子で〈ヤク〉を離して「ヤバい!」という顔になる。
「メ゛エ゛ェ゛ッ!…メ?」
だが突然解放されたことで困惑したのか、暴れていた〈ヤク〉も一瞬大人しくなる。
俺はその隙を逃さず、暴れていた〈ヤク〉の正面に立つ。
「ばっ…!?」
サッ
ボスが迂闊な行動をする俺を咎めようとしたが、俺は「黙っているように」と手で合図をする。
幸い合図の意味は正しく伝わったようで、ボスは不満げな…または心配そうな何とも言えない渋い顔をして黙りこくる。
(…良し、あとは“彼”が協力してくれるかだが…。)
“彼”の協力次第で、ニーニャとソーナの救出は格段にやり易くなる…何故か俺にはその確信があった。
内心で不安を抱えながらもそれを表に出さぬよう気合いを入れた俺は、“彼”…番を誘拐犯に連れて行かれた〈ヤク〉としっかりと目を合わせて言う。
「フゥー…、フゥーッ」
それは野生であれば敵対の意を示す行為で、現に落ち着きかけていた〈ヤク〉の息が興奮を示すように荒くなってくる。
だがここでビビっていては、どうあっても俺は俺の目的を果たせ無い。
「お前はお前の番、俺は俺の女。
お前がお前の番の居場所に案内してくれたなら、俺は“ふてぇ奴ら”からお前の番を取り戻す手伝いが出来る。…どうだ?」
少し盛った言い方をしたが、これくらいの方が“彼”にも分かり易いだろう。
…さて、俺の言葉を受けた“彼”の反応は如何に?
「………、メ゛ッメ゛ェ゛エ゛エ゛ッ!!」
グワッ!
「「「ッ…!」」」
暫し考えるような間の後、“彼”は一際大きな絶叫を上げて前脚を振り上げる。
ストン、スッ…
状況を見守っていたボス達が思わず動き出そうとしたが、前脚を普通に下ろした“彼”は俺の前で姿勢を低くする。
「これは…、「乗れ」ってことか?」
「メ゛ッ!」
俺の問いに、「早くしろ!」というように“彼”は応える。
(ははっ、最高かよ…!)
“彼”はあくまで番を追うだけで、俺はそんな“彼”の後を必死で追うものだと思っていたが…何という僥倖だろうか!
「…なぁボス、こいつの名前は?」
僅かな間だけ相棒になる“彼”であるが、いつまでも“彼”呼びは味気無い。
「あ、ああ…。スラスト、だ。」
(ふむ…「前に進む力」、か。)
「良いセンスだ。」
俺はボスにそう返すと、彼改め…スラストに跨がる。
手綱なんて上等なものがあるわけが無いのだが、ここは首回りの毛を掴まさせて貰おう。
〈ヤク〉の名前の意味としては「突き出す」の意味の方が正しいかも知れないが、それを言ったら家畜の名前に一々意味など込めてはいないだろう。
ならば、今は今の状況に合った意味で捉えても構わないだろう?
ギュッ、ギュッ
首回りの毛を掴み少し引っ張って毛が抜けないか確認したが、スラストに特に問題はなさそうだ。
村を調べている間に、そのまま捜索に出ることを考えて槍と盾…そして胸当ては装備済みだ。
「それじゃ、俺は先に行くぞ?」
防御に不安は残るが、取り敢えず準備は完了。
てことで、俺はボスに出発すると声を掛ける。
「…は!え?ちょ、待っ─」
「行けっ、スラストーッ!」
「メ゛エ゛エ゛ェ゛ン゛ッ!!」
グンッ!ダカタッ…ダンッ!ダカタッダカタッ…!
俺の掛け声に嘶きで応えたスラストは柵を飛び越えて小屋を飛び出し、その勢いを保つどころか深夜の森をグングンと加速して駆けて行くのであった。
山羊(魔物)on オーク(巨人)on 猪(骨槍)
↑それなんて音楽隊?
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




