232 蠢動
Tips:傭兵
金で雇われるフリーの兵士。正規兵になれなかった…もとい正規兵とならなかった者達であり、戦闘狂が多い。
傭兵ギルドに登録している傭兵は「クラス」で区分けされ、クラスは戦績により上下する。
また戦績の上位1000人は「ランカー」と呼ばれ、更に上位100人の「100(ワンダブルオー)ナンバー」は別格であると云われている。
傭兵ギルドの前身は商人の護衛の寄合であるため、傭兵ギルドの本部は商人ギルドと同様に〈クレク連邦〉に置かれている。
そのため傭兵は〈クレク連邦〉と、対人戦闘に特化している関係から戦争の多い〈インペリアル帝国〉に集中している。
情報を処理することを拒絶するため無理矢理考えを止めようとする俺だったが、そんな努力はカティアが続けた言葉の衝撃によって粉砕されることとなる。
「あ、それとソーナからの伝言。
『私の家は知ってるわよね?
私の部屋は二階に上がって一番目の部屋だから。
今晩、鍵は閉めないでおくわ。』
…だって、キャー!大胆っ♪」
カティアが興奮して騒ぐが、その声は俺には遠く聞こえるのだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
…そして気付いた時には、俺は仮の自室で呻き声を上げる置物と化していた。
「ぁ゛~~~…、はぁ…。」
そして気付いてからはなんとなくでゾンビ状態を続けながら、時折こうしてため息を吐いている。
マリ姉達がショックを受けて固まる俺に何かを言っていたような記憶があるが、なんと言っていたかまでは覚えていない。
俺が自失している時に言うのだからそこまで大事な内容では無いだろうが、確かめようにも今は真夜中だ。
おそらく慰めの言葉かなんかだとは思うが、万が一3人の内誰か1人にでも「幻滅したので婚約は無しで」とか言われていたら…。
…いや、それでも俺の元に残ってくれる誰かが居るのなら、「立ち直れない」等と弱音を言っていられないだろ…!
そうして自分を奮い立たせた俺だったが、…ひとまずもう遅いので明日に備えて眠ることにした。
モゾモゾ…
「………。」
ゴソゴソ…
しかしベッドに寝転がり毛布を被ったは良いが、疲れてはいる筈なのに一向に眠気がやって来ない。
…いや、実は理由は既に分かっていたりするのだが─
ギンッ!
─自分に活を入れたのは良いが、ムスコまでもが奮い起ってしまっていたのだ。
確かにここ暫くはお預けだったが、何も今このタイミングで欲求を主張しなくても良いだろうに…。
「はぁ…。」
俺は虚しさにため息を吐きながらも、このままでは眠れないので仕方ない。
自分で欲求を処理しようとした俺だったが、そこでふと最低な考えが浮かぶ。
(確か…二階の最初の部屋、だったか?)
─────
下衆なこと極まり無い思いつきなのだが、やはり俺は頭がおかしくなっていたのだろう。
容姿が似ているソーナをニーニャとして抱こう、などと…。
俺はそれでニーニャへの想いを吹っ切ってちゃんとソーナに向き合えるし、俺に誘いをかけたソーナも恥をかかずに済む。
マリ姉達もソーナが自分たちに加わることを認めているようなことを言っていたので、誰も損をしない素晴らしいアイデア…だと本気で思ったのだ。
─────
ゴソゴソ…
そうと決まれば、下着1枚という寝る時の格好から着替えるのは早かった。
ギィ、ソロリ…ソロリ…
シャツとズボンというラフながらも外に出られる格好となった俺は、マリ姉達を起こさぬように玄関へと向かう。
(しかし、こう…あれだな。)
女たちに人気の恋物語では恋人達が夜中に逢引するシーンが必ずと言って良いほど入るのだが、物語の恋人達が夜中に逢引する理由が分かったような気がする。
ドンドンドンドンッ!
「っ!?」
しかしそんな俺の浮かれ気分は、玄関の戸を叩く激しい音により吹き飛んだ。
「誰か起きて!大変なんだ!!」
外から聞こえてきたのは、焦ったようなクソガキの声だった。
「…チッ。」
(こんな時間に何の用だよ…。)
悪戯にしては声に真剣みがあるし、同じ家に居るであろう父親でなく、態々俺たちを頼って来るとは只事では無い。
…それはそれとして、これからの「お楽しみ」を邪魔された苛立ちから俺は舌を打った。
ドンドンドン!
「ねえってば!聞こえないの!?」
再び戸を叩く音とクソガキの声。
………、ガラ…
「…ったく、一体どうしたってんだ?」
俺は少し間を空けてから戸を開けると、あたかも「今起きて来た」ということを装い不機嫌さを全開にしながらクソガキに用件を訊く。
「あ!…なあ、こっちにニーニャは居る?」
出てきた俺を見て一瞬「うげ…」という顔をしたクソガキであったが、意を決した顔で訊いてきた内容は俺を困惑させた。
「はぁ?…ニーニャならそっちに居るだろ。」
(クソッ…、当てつけか?)
カティアに伝言を寄越させたのだから、こいつが知らない筈は無い。
クソガキの演技に、俺はまんまと騙されたわけだ。
「そ…それはそう、なんだけど…。
違う、そういう話じゃ無いんだ!」
呆れて引っ込もうとする俺を、チャトランが必死に引き留める。
なんでも、今から少し前にトイレに起きたチャトランだったが、小便のあとふとニーニャの泊まる部屋を覗いたところ、ニーニャの姿が無かったのだと言う。
チャトランは家中を探し回ってニーニャが居ないことが分かると、ニーニャが抜け出したのではないか?と思い、ボスの制止を無視してこちらに訪ねて来たそうだ。
…我ながら、パニックになって要領を得ないクソガキの訴えを、よく突っ込みを我慢しながら最後まで聞いたものだと思う。
しかし話を聞き終えた時点で、時間切れのようだ。
グイッ
「わわっ!?」
「コラッ!朝まで待てと言っただろう?」
ようやくお出ましのボスが、チャトランの首根っこをつまみ上げて息子を叱る。
…しかしボスよ、まず最初に叱ることが息子が自分の言いつけを無視したことか?
「…ラストも済まないな、こんな遅くに。」
「ちょ…、離してよ父さん!」
ジタバタ
と思えば…チャトランをつまみ上げたままで、ボスが俺に謝罪をしてきた。
いくら親とはいえ、チャトランは猫人族の基準では成人している筈なのだが…息子に甘いにも程がある。
「…とりあえず謝罪は後にしないか?」
しかし人が1人行方不明となっている現状、今は問答をしている時間が惜しい。
…謝罪は事が落ち着いた後で、チャトラン本人にしっかりとして貰うことにしよう。
ザワ…、ザワ…
「それに…、ほら。」
「なんだなんだ?」
「誰が騒いでいる!」
「またトラブルか…?」
時間を弁えずにチャトランが騒ぎ立てていたため、耳の良い獣人である村人達が続々と起き出して来ていた。
「おい、ありゃラストじゃないか…?」
「ああ…それとボス、にチャトラン?」
「…チッ、これだから人間種は。」
そして昼間の行商の件のこともあり、騒ぎの中心が俺とボス(とチャトラン)であることに気付いた一部の村人が険呑な雰囲気となる。
「みんな、一旦落ち着け!
…まず、こんな夜中に騒がせて済まない。」
だが、息子の話によると…どうやらニーニャが居なくなってしまっているようだ。
…それとおそらくだが、ラストは多分関係していないだろう。」
しかし流石「長」と言えば良いのか…ボスは一喝で村人達を黙らせると、今起きている事態の共有を手早く済ませてしまう。
実に不安になる俺へのフォローがついでのように行われたが、俺へ向けられる敵意が和らいだのであれでも効果はあったようだ。
「居なくなったのがニーニャ1人だけとは限らん。
各自、他に何かおかしなところは無いかの確認と、俺への報告を速やかにするように。
以上、解散!」
ボスの締めの号令で各々行動に移る村人達。
これで他に何事も無く、ついでにニーニャも見つかれば良いのだが…。
…少々ラストの擁護をば
ラストは聖人君子では無いですし、成人していても思春期真っ只中の男ですから…。
(むしろ、世界観的にはかなり誠実な方だったり…)
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