231 長い夜の始まり
Tips:〈ヤク〉
家畜化された魔物の一種。原種は山岳地帯に数体の群れを作り生息している。
毛皮や肉(雌からは乳)を得る他、〈ミルコゥ〉ほどでは無いが足腰が強く、山地では〈ミルコゥ〉に代わる労働力としてや騎獣として利用されている。
体色は白っぽいグレーであり、雄は頭に2本の角があるが、草食であり性格は基本的に穏やかで争いを避ける傾向にある。
基本的に番は雄雌共に一生に1体と添い遂げるため、「夫婦円満」「永遠の愛」の象徴としても親しまれる。
…もし徒に番と引き離そうとするならば、その者は〈ヤク〉が野生で生き残ってきた理由を知ることになるだろう。
リタが買おうとした壺は〈幸せの壺〉なんかでは無く、むしろ持ち主に災難を引き寄せる呪いが掛かった〈不幸の呪壺〉であることが判明した。
このことにより、買い物をしていた村人達は一斉に広場から逃げ、監視をしていた男連中は「ほら見たことか!」とダマルを制裁しようと詰め寄る。
ダマルは骨董商に騙されたと主張したが、ボスは即刻の退去を叩き付けた。
これには口出しするわけにはいかない俺は、ダマルに詰め寄るボス達が斬られることの無いよう、護衛の男を牽制していた。
「ジャムールッ、助けろ!」
「旦那、それは自業自得だってもんだ。」
身の危険を感じたダマルが護衛…ジャムールに助けを求めるが、意外なことにジャムールは静観の構えだ。
俺はてっきり「大義を得た」とばかりに嬉々として斬り掛かって行くかと思っていたのだが…。
俺がジャムールに感じた危機感は、俺が奴にビビり過ぎだったとでもいうのか…?
「ひぃいぃ!」
…っと、そろそろ本気めにボス達が殺人者になってしまいそうなので、俺は仲裁に入ることにするのだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
仲裁の結果、ダマルは詫び金代わりに全ての商品を猫人族の村に置いて、翌日の昼までに村から出て行く…ということでその場は治まった。(※壺はアデリナが『解呪』済み)
他にも村を出禁という条件もあったりするのだが、元々今回が最後のつもりであったダマルには大したこと無いようだ。
しかし、ダマルの持ち込んだ商品の中には小粒の宝石を使用したアクセサリーなどもあり、今回のような件の詫び金としてはかなりの高額になってしまったようだ。
だが俺が思うに…今回の件だけで無く畑の件やボッタクリの件を合わせると、丁度良いかそれでも少し軽い罰になるのではないだろうか。
そして罰と言えば…
「あぁ゛~…。」
借りていた空き家の自分に割り当てられた部屋にて、俺は脱力して壁に寄り掛かりアンデッドのような呻き声を漏らしていた。
何故俺がこんなに打ちひしがれているかと言えば、それはダマルから押収した品々を、取り敢えずボスの家に運び終えた時になる。
──────
ドサッ…
「ふぅ…、これで最後か…。」
「おう、助かったぜラスト。」
希望する物がある者には目録に控えた上で持って行って貰ったとはいえ、錬成肥料を始めとして誰も希望しなかった品はかなりの数に及んだ。
その量は村の共有資材倉庫に収まらず、アクセサリーなどの貴重品はボスの家の鍵付き倉庫で厳重に、保存食糧や薬品などの早めに消費する必要のある物や頻繁に出し入れする物は、村の空き家の各部屋に仕分けて保管されることとなった…と言えば想像がつくだろうか?
ざっくり言えば、デカい倉庫と家一軒が丸々満杯になったってことだ。
この量が入るということは…ダマルの持っている「魔法の袋系アイテム」は〈収納袋〉であることがほぼ確実なのだが、流石に商品では無いそれも押収するのは野盗のやっていることと変わらなくなってしまう。
それはさておき。
俺は何も、好意でこの量の品々を運搬したわけでは無い。
これも当然依頼として受けたことで、なんならアデリナが壺の呪いを『解呪』したのも依頼扱いにさせて貰った。
『解呪』の件は事後受託になったが…依頼となった分、アデリナは『広域浄化』で呪いの残滓も残さずしっかりと浄化していた。
そして、俺たちがどれ程この村で直接依頼を受けていたか覚えているだろうか?
俺 →・狩りの獲物買い取り(オーク、ウルフ等)
・畑の不調の原因調査
・畑の再生作業の指導
・大量の物品運搬
マリ姉 →・魔法の実演
・魔法の指導
・畑の再生作業の裏方仕事(料理手伝い)
アデリナ →・治療
リタ →・猫人族の村近辺の魔物レポート作成
・畑の再生作業の裏方仕事
…と、滞在期間に対してかなり多く、アデリナの治療なんかは依頼料が高くつく。
因みにニーニャもチャトランの面倒を(半ば強制的に)見ていたり、各作業をしたりもしていたのだが、ニーニャはボスに(元)村人としての業務として押し切られてしまっていた。
ボスに抗議しようにも、同じ作業をしていても直接依頼は個人で受けたことになるので、ニーニャが了承した以上はどうにもならない。
何故ボスがそんなことをしたのかと言えば、ニーニャを除いても俺たちが受けた依頼の報酬が、村にある金では払え無いからだ。
厳密に言えば払えなくも無いのだが、金で払ってしまうと村の金が無くなってしまうそうだ。
そうなると村に無い物を街で買う時に困る。
…そして、ここからが俺がゾンビ化している理由に関わってくる。
金で払え無いならば他のもので払うことになるわけだが、幸い(?)ダマルから詫び金として押収した大量の品々があった。
その中には価値の高いアクセサリー類が含まれており、俺たちはあまり多くの物品を貰っても困るし、猫人族の村ではアクセサリー類は持て余す。
という互いの都合により報酬の一部をアクセサリー類にすることにした。
だがマリ姉達はともかく、俺にアクセサリーは必要無い。
まぁ…マリ姉達も何故か3人ともが換金用と割り切って、価値の高そうな物を幾つかさっさと選んでいたのだが…。
それはそれとして。
アクセサリーの権利を持て余した俺は、ボスにより報酬をナシにされたニーニャにアクセサリーの権利を譲ったのだが…その途端─
「じゃあ僕がニーニャに似合うやつを探してあげるね!
ほらニーニャ、一緒に行こう!」
「あっ!ちょ…」
─と、俺が止める間も無く、ニーニャはあっという間にクソガキに連れて行かれてしまったのだ。
ニーニャが構わなければ、俺が選んでやりたかったのに…。
物品の運搬にかなりの時間が掛かったこともあり、既にアクセサリーを選び終えたマリ姉達と共にボスの家からお暇することになった。
まだクソガキとアクセサリーを選んでいるニーニャは、アクセサリーを選び終わり次第戻って来るだろう。
この時の俺は、疑いもせずそう思っていた。
…………………。
…………。
…。
(なんか随分時間が経って無いか?)
しかし外が暗くなってもニーニャは戻って来ず、俺たちは先に夕食を摂っていた。
コンコン
「っ!」
バッ…!
その時聞こえたノックの音に、俺は弾かれたように玄関に向かった。
ガチャ
「ニーニャ、随分と時間が…」
俺はニーニャを心配していたことを話しながら、玄関のドアを開けた。
しかしそこに居たのは─
「はぁ~い、カティアでした♪」
─おどけた調子の、ボスの家に居候しているカティアだった。
「それで、お待ちかねのニーニャなんだけど…」
ドクンッ!
嫌な予感に、俺の心臓が一際大きく跳ねる。
「今晩はあっちで泊まるって。」
ピシッ!
そんな音を幻聴し、俺の世界は停止した。
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