22 これが現実…!
この国の憲兵は警官と兵士を兼ねた役割を持っています。
「さて、事情は一通り分かったな?」
納得はしてないが理解はしたので、俺は頷いた。
「それじゃ一応規則なんでな、ほれ。」
入門時お馴染みのカルマストーンを出す憲兵長。(今どっから出した?)
規則だと前置きしたのは、この状況だと俺がニーニャを不正に連れていると疑っていると、俺に誤解させないようにだろう。
「ラストはOKだな、そっちの…ニーニャだったか?も頼むな。」
ニーニャに向けた言葉だったかも知れない可能性が急浮上したが、俺の善良さは憲兵長も分かってくれている筈だ。(詰所に連行したのが憲兵長だということからは目を逸らす。)
「ん?…ん。」
首を傾げ、とりあえず俺の真似をしたというように(実際そうなのだが…)、カルマストーンに手を触れるニーニャ。
カルマストーンは特に反応しない。
「…良し、ニーニャは借金奴隷で確定だな。」
「っ!?」
これまで借金奴隷であることを前提に話をしていたので、憲兵長がニーニャを疑っていたという事実にギョッとする。
「何を驚くことがある、ラスト。
犯罪に大人も子供も無いんだぜ?」
この街ではそんなことは滅多にないらしいが、大きな街では孤児がスリ等の軽犯罪を働き、罰金を払えず犯罪奴隷落ちなど日常茶飯事だ、と憲兵長に教えられた。
「これでニーニャの仮の主人はラストだな。
ラスト良かったな、仮とは言え美少女奴隷の“ご主人様”になれるなんてな。」
「通っていいぞ。」と憲兵長はなんでもないように入門を促すが、ちょっと待って欲しい。
「俺がニーニャの仮の主人?
何でそうなる!?」
別にニーニャの主人がいやとかではなく、むしろ憲兵長が言った通り、ニーニャの主人になれたらこの上ない幸運だと思うが…。
「何でって…、ラストは冒険者だろ?」
憲兵長は、俺が分かっていないことが分からないといったように確認してきた。
「さっきギルドカード見せただろ?
それがどうしてニーニャの主人云々になるんだよ?」
哀れな者を見るような表情の憲兵長に、俺はムッとしながら応える。
「なら説明されなかったか?
『依頼外の拾得物は、原則拾得物を発見した冒険者の物となる』って。」
確かに聞いた覚えはある、あるのだが…。
「いや、保護した子供を拾得物とは言わないだろう!?」
この街では〈初心者の森〉で、ゴブリンに襲われている子供を保護したという話が稀にある。
その子供が冒険者のものになるなど、保護された子供とその子供の親が可哀想だ。
「その場合は親御さんが謝礼を払っているのさ。」
「つまり格安での買戻しってわけだな」と憲兵長。
子供を助けた冒険者と、子供を助けられた親の感謝を示す行動が、憲兵長の言い方だと一気に即物的な行動に成り下がってしまった。
まあ、憲兵長も本気でそう思っているわけではなく、理屈上ではそうなるということを言っているのだ。(…だよね?)
「理屈はそうなんだろうが…。
ニーニャも俺みたいなのが主人とか…」
「嫌だろう?」という言葉を濁す。
自分で言っても傷つくのに、ニーニャに肯定されたら、それこそ首を括りたくなってしまう。
それに心情的な理由以外に、街で最安値の宿を拠点としている俺が、人一人の面倒など見ている経済的余裕などないということもある。
「…そうだ!
ここで預かってくれないか?」
そうする者は極稀だが、拾得物を不要と言って、持ち主に返るよう詰所に預ける者もいる。
奉公として売られるニーニャには悪いと思うが、貴族の奴隷となって“飼われる”方が贅沢できることだろう。
「それを言われると弱るんだが…。」
ニーニャを拾得物扱いで俺に所有権があるのなら、俺もニーニャを拾得物として詰所に預けることを断れない。
一定の期間持ち主が現れなければ物は処分されるが、人のニーニャは自由になれるだろう。
(ニーニャには残念ながら、ニーニャほどの美少女なら持ち主が現れないなんてことは無いだろうけどな。)
手放しておいて何をと言われるかも知れないが、優しい金持ちに買われることを願う。
「う~ん…、ならいっそのこと本人の希望を聞いてみるか!」
俺はニーニャを詰所に預け、詰所に持ち主が来て、ニーニャは金持ちに買われる。
それで本来の流れに戻るというのに、憲兵長は話を掻き回す提案を思いつく。
(この憲兵長あっての部下かよっ!?)
ジョンのせいで苦労しているとずっと思っていたが、憲兵長も若い頃は今のジョンのように、当時の憲兵長を苦労させていたのだろう。
「というわけで、ニーニャ。
君はどうしたい?」
存在も定かではない先代憲兵長(苦労人)に思いを馳せるも、現憲兵長は容赦なくニーニャに訊ねた。
(ヤメロ~ッ、俺が死ぬ!)
先ほど敢えて濁した罰なのか、突き付けられる非情な現実を予感し、内心で悲鳴を上げる。
「…ん!」
ぎゅ…
「え?」
「ほぅ…、決まりだな?」
面白いものを見たと言いた気に顔をニヤつかせて言う憲兵長。
対する俺は予想だにしない事態に、ニヤける憲兵長に何も文句が出せなかった。
「…ご主人?」
固まった俺に、俺の服の裾を握りながらそう呼び掛けてくるニーニャ。
「……お、おう…。」
俺、ラスト。
女たちに嫌悪されること15年。
街で冒険者をしていたら猫耳美少女の奴隷を手に入れました。
パキンッ…
「「「あ。」」」
俺が内心で感動に打ち震えていたところで、ニーニャの〈隷属の首輪〉が二つに割れて落ちる。
「…こりゃ奴隷契約を解除しやがったな?」
それを見て忌々しげに言う憲兵長。
「解除?」
聞き返したわけでもない、俺の口から零れた呟きに、憲兵長は丁寧な説明をする。
「借金奴隷の扱いはさっき説明したと思うが…」
基本的人権の保証、だったな。
「んで仮にニーニャが生きていて、」
助けられて良かった。
「誰かさんが証人になって、ニーニャの扱いについて俺達に通報したとする。」
意図的に危害を加えたら重罪になる。
俺も気をつけなければ。
「そうなるとニーニャの所有者は破滅するな。」
そうだな…って、まさか!
「そうならんようにニーニャを奴隷じゃなくする。
「偶々馬車に同乗していた少女が囮役をかって出てくれました。」ってな?」
……………。
…つまりニーニャは既に奴隷ではないと。
俺は一市民を善意で保護しただけだと。
ニーニャは拾得物扱いされず、俺について来る必要など無い、と…。
「へへっ…。」
(…短ぇ夢だったぜ。)
冒険者のルール等の説明は7話と8話の間に行われたと思って下さい。
奴隷から解放して告白?
無いんだなぁ、これが。(ぶっちゃけ面倒)
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