226 帰還延長
アップ完了
カティアの依頼は無事完了ということで、その日の晩。
「なぁ、ちょっと良いか?」
「ねぇ、少し良いかしら?」
「あの、ご相談があるのですが…。」
ボスから新たに依頼されたことについて皆に相談しようと声を掛けたところ、同じタイミングでマリ姉とアデリナの声が重なった。
「「「………。」」」
そして互いに話す順を譲り合うことで訪れる沈黙。
この時点で互いの用件には想像がつくのだが、無言で行なわれる順番の押し付け合いを破ったのは3人の内の誰でも無く─
「あ、じゃあ私からも良いですか?」
何らかのメモを書き終え、顔を上げたばかりのリタであった。
「「「どうぞ?」」」
「ええっ!?」
俺たちが謎の牽制をし合っていることになど気付いていなかったリタは、不意に異口同音に発っせられた言葉の圧に曝されて戦慄いた反応をしたのであった。
…………………。
…………。
…。
とまぁ、そんなことが最初にありつつ…。
───
リタの用件は、猫人族の村周辺にいる特有の魔物…つまりは〈山林狼〉のことなのだが。
この〈山林狼〉は生息地の関係で近縁種である〈森林狼〉より資料が少ないらしく、素材の実物は勿論のこと、猫人族の村の狩人の話もそれなりに重要な資料になる…とのこと。
冒険者ギルドの仕事には「魔物の情報の収集」が含まれているらしいが、新種や希少種等の魔物の情報は冒険者から齎されることが多い。
そこで冒険者ギルドではより多くの情報を得るため、一部魔物の情報に報奨金を出しているそうだ。
リタの話によると〈山林狼〉も対象らしく、なるべく多くの情報を纏めたいとのことだ。
…リタは密かに〈白の大樹〉で一番ランクや経験が低いことを気にしているようだが、こうした元ギルド職員としての貢献はパーティーに取って得難いものだと改めて思う。
───
リタが話したことで謎の牽制の必要も無くなり、マリ姉とアデリナも次々に用件を上げた。
───
マリ姉の用件は、生活魔法なら使える素質のある村人の上達がマリ姉の思っていた以上に早く、今の状態では何かの拍子に魔力を暴発させる危険性が非常に高くなっているらしい。
それでは当初のマリ姉の意図とは真逆となってしまうため、何か一つでも魔法を習得させなければならない…とのこと。
当初のマリ姉の予定では魔力の制御だけを教えるつもりのようだったが、つい興が乗ってしまった結果らしい。
…取り敢えず俺の気持ちとしては「何やってんだマリ姉!?」であり、責任を取ってその村人にしっかりと魔法を習得させて欲しいものだ。
───
そしてアデリナの用件だが、これがある意味で一番厄介だった。
なんでも、アデリナが治療の経過を観察したいと言っていた患者の1人が、どうやらこの村を拓いた立役者で先代の長らしい。
…なんともタイムリーというか、お察しの通りボスの親父さんである。
そのボスの親父さんなのだが彼はどうやらこの村の猫人族にとって、彼ら(または祖父母・父母)を率いて〈大深森林〉を抜けてこの地に導いた「英雄」らしい。
〈大深森林〉と言えば…「原初の大森林」「エルフの国が存在する」「大深森林の先には獣人の楽園がある」「不用意に踏み入れたら帰れない」など様々な逸話に欠かないだけはある、この世界の南に存在する広大と言うのも烏滸がましいほどに超広大な原生林…らしい。
嘘か真かは別として…ボスの親父さんは若い頃に受けた傷により、例の件で息子に早々と長の座を明け渡していたようだ。
そしてアデリナが言うには、食糧不足やそれ以前からの不養生が祟って身体がかなり衰弱していた…とのこと。
老人など他にも治療が必要な村人がいる中で、その患者達自身に自分たちの治療より先代長の治療を懇願されたとあっては、アデリナとしては放っておくことは難しいのだろう。
───
そして俺が新たにボスから依頼されたことというのが、「畑の再生作業の指導」だ。
ボスは新たに畑を開墾するつもりのようだったのだが─
・腐った土地を放置すると、村の水源である川が汚染
されること。
・今から急いで作業をすれば、今年の作付けの時期に
ギリギリ間に合わなくもないこと。
─を伝えたところ、ボスに土地の改善の方法を必死に乞われたのだ。
───
この時の俺は、ボスに余計なことを言ってしまった…と思っていたのだが。
どうやら俺たちは、もう暫く猫人族の村に滞在することになるらしい。
「すまんニーニャ、それで良いか?」
滞在の延長は既に決したこととはいえ、〈白の大樹〉ではメンバー全員の意見を聞くのがパーティー方針だ。
特に用件が無い…それどころかチャトランの絡みに辟易としているニーニャには悪いと思うが、今回は暫し辛抱して貰いたい。
「………ん、分かった…。」
返事までにかなり葛藤したことが伺える間の後、本当に渋々といった様子で頷いたニーニャ。
…若干濁ったように感じる瞳になったニーニャに、俺はなるべくあのクソガキを近付けないようにしようと思うのであった。
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