224 過ぎたるは
あけおめ
「(元)本業農民の本領、見せてやる!」…と意気込んだは良いものの、この村の畑で作物が育たなかった理由はあっさりと判明した。
というのも…
スンスン
「…こりゃ、土が腐ってるな。」
通りがかりに遠目に見た時は気付かなかったのだが、畑の近くに行くとツンとした臭いが鼻を突いた。
今は冬であり、畑の近くに来なければ問題無いのだろうが、逆に言えば暖かくなると悪臭が大変なことになるだろう。
「ねえ!何か分かった~?!」
(いや、もう既に…か。)
人間である俺が近くに寄っただけで臭いを感じるということは、人間より鼻の利く猫人族はそれより遠く…具体的に言えば今カティアが待機している場所辺りからでも異臭を感じるようだ。
…別に依頼したからといって、依頼人に俺の側に居ろと言うつもりは無い。
というより、通常の調査依頼は依頼人が調査出来ないから依頼が出されるわけで…。
今回のケースだと調査依頼としては珍しく、同行して貰った方が結果が出やすいパターンだったが…既に原因が判明した今構う話でも無い。
ただ…好き好んで悪臭に近付きたい者は稀とはいえ、「あそこだ」と示された場所から十数歩で「じゃあ、私はここで…」と言われたことに釈然としないだけなのだ。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
それはそれ、これはこれ。
…というわけで、早速調査結果をボスに報告。
依頼人はカティアだろう、って?
その依頼人いわく─
「…ちょっと何を言っているのか分からないから、あなたが長に説明してくれない?」
─とのこと。
俺としては何が分からないのかが分からないのだが、むしろ直接伝えられるならその方が早いし正確だ。
ということで、俺の説明…
(と言っても、別に大したことは言っていないのだが…。)
を聞いたボスの反応は─
「土が…、腐る…?」
─であった。
その反応はカティアの「ちょっと何言ってるか分からない」と同様の反応で、いや…昨年までは耕作を分からないなりに指揮していただけに、むしろカティア以上に困惑が強いそうだ。
「土って、腐る…のか?
落ち葉とかが腐ったやつが土なんじゃないのか?」
頭の中に星空が広がっていそうな唖然とした様子で呟くボス。
(それは知ってるんだな。)
俺はそう思いながらもボス…ついでに何回聞いても理解不能といった様子でしきりに首を傾げるカティアに、俺が子供の頃に親父に聞いた例え話を交えた説明をすることにした。
「ほら、泥乳とか乳塊ってあるだろ?
…知ってるか?」
作るのに手間が掛かる乳塊はともかく、泥乳は管理さえ間違わなければ乳を放置するだけでも作れる飲み物だ。
その手軽さから「農家の飲み物」とまで言われるほどに一般的なのだが…それはあくまでも大多数に過ぎないため、不安になった俺はつい2人に確認を取る。
「あの酸っぱくてドロッとしたやつだろ?
いくら辺鄙なとことはいえ、この村にも〈ヤク〉くらいはいるぞ?
…まぁ、もう少し遅かったら肉になってただろうがな。」
「私あれ苦手なのよね~…。」
馬鹿にされたと感じたのか少しムッとした様子で答えるボスと、本当に苦手なのであろう…耳を伏せて渋い顔をするカティア。
(まぁ、〈ヤク〉の乳はかなりクセがあるらしいって聞くからな…。)
基本的に「乳」と言えば、クセが無く仄かに甘い〈ミルコゥ〉の乳のことを指す。
まぁ…それはともかく、泥乳のことは知っているようで何よりだ。
「で…?
それと土が腐るってことに何の関係があるんだ?」
「土が腐る」というボス達的にはあり得ないことを説明されるかと思えば、いきなり飲み物の話をしだした俺。
そのことに加え馬鹿にされたと感じたとあって、少々不機嫌そうに話を促すボス。
「つまり土は泥乳と同じってことさ。」
せっかちなボスに応えるべく、まず結論から述べる俺。
「「???」」
それを聞いたボスとカティアの2人は、頭の周りに更に大量の疑問符を浮かべる。
「つまりだな─」
そんな2人に俺は、ただ放置した乳が「腐るもの」と「泥乳になるもの」の2パターンに分かれること。
…これはまぁ、事実確認だな。
そして落ち葉が土になるというのは、この2パターンで「泥乳になるもの」にあたること。
…これも細かいことを言えば違うのだが、今は「土が腐る」ことが理解できれば良いので置いておく。
落ち葉が土になるのは乳が泥乳になるより簡単であり、逆に土が腐るには相応の原因があること。
「待ってくれ!」
と…ここまで話したところで、ボスが俺の話にストップを掛けた。
「土が腐るってことは何となくは分かった。
だが…ラストの話だと、畑が駄目になったのは俺達のせいってことじゃないか!?」
身体能力が優れている代わりに頭を使うのが苦手と言われる獣人種だが、一介の農民である俺が理解出来ることが理解出来ない程「愚か」では無い。
むしろ俺の話を聞いて、畑の土が腐る程の「相応の理解」に心当たりを付けられるくらいに頭が回る。
これで獣人種の中でも「脳筋」と言われる狩猟種族なのだから、人間至上主義者の言う「愚かな亜人種はすべからく人間種が支配しなければならない」等の主張には呆れる。
(…むしろ、人間至上主義者の奴らが「愚か」なんだよなぁ。)
まぁ、だからこそ奴らは人間種の中でも少数派なのだが。
…その少数が貴族や金持ち、教会関係者に多かったりするのが更に厄介だ。
(…とはいえ、そんなことを俺が憂いても仕方が無いことなんだがな…。)
「…てことで、何か心当たりがあるみたいだが?」
世の中のことはお偉方に任せるとして、ボスにはさっさと吐いて貰おう。
「「てことで」って何がだ!?
いや、心当たりがあると言えばあれしか無いんだが…」
「で、「あれ」ってのは何だ?」
「心当たりがある」と言いつつ、何故か歯切れの悪いボスをせっ突く。
今は変に勿体ぶる場合じゃないだろう?」
「う~ん、でもあれは…」
「取り敢えず聞かせてくれないか?」
「あれ」とやらが原因にしろそうでないにしろ、まずは聞いてみなければ判断すら付けられ無い。
「………。」
そして悩みに悩んだ末、ボスはようやく「あれ」とやらの正体を口にする。
「………肥料だ。」
…なるほど、そうきたか。
ことよろ
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




