216 婚約者たちとのひととき
Tips :怪異族
アルペジオ大陸から遥か東の海にある島国に住むモノ達の総称。
一応人類と分類されているが、その中には魔物と紛う姿のモノや魔物以上に異形のモノが存在する。
人間、獣人、ドワーフ、エルフ、そして魔物から進化する魔族。
これらの種族は創世の神々がある程度意図して発生した種であるが、怪異族は神々の意図が一切介在せず発生した完全なイレギュラーである。
その異形故に世界中で迫害を受けた彼らは自然、海に隔たれた島に集い、それぞれが異なる姿をする自ら達を怪異族と一つに纏め国を興した。
が、『古の勇者』が怪異族の島を訪れた際、怪異族の姿を見て「ヨウカイ」または「アヤカシ」と呼び、これ以降怪異族は『勇者』が認めた呼称として、自ら達の通称を「アヤカシ」と定めたのであった。
猫人族村の少女…ソーナに一通りの話を聞いた後、「絶対に話が終わるまで伺っていただろ!」というタイミングで戻って来たボスに案内され、今晩の宿に腰を据えた俺たち。
「ニーニャの母親か…。」
話を聞くにニーニャの母親は産まれたばかりのニーニャを連れて放浪していたようだが、どうやら鳥の手紙の内容は急を要することが書かれていたらしい。
そしてニーニャの母親は当時赤ん坊だったニーニャが、その過酷な旅に耐えられ無いと判断を下したのであろう。
それから一切の音沙汰が無いとなると…もう生きてはいない可能性が高いのだが、『火輪』という強力な魔法が使えるらしいニーニャの母親がそう簡単に死んでしまうとは思えない。
…おそらく、ニーニャを預けて行った先で、連絡を出せない何らかの理由があるのだろう。
(出来れば、ニーニャを再会させてやりたいが…。)
珍しく魔法を使える獣人…しかも使う魔法は強力で、見馴れぬ衣服の美女。
となれば、ニーニャの母親の足取りを追うことは、他に比べたらそう難しいことでは無さそうだ。
(…俺たちの目的の一つにしても良いかもな。)
今は理不尽な目に遭わないようこの国では貴族として扱われる Aランク冒険者を目指しているわけだが、今のペースからすると他の目標があった方が良い気がしていたところだ。
…まぁ、そうするのは他の皆の賛同を得る必要があるし、何よりニーニャの気持ちを無視してまで母親に会わそうとは思わない。
「それにしても…ソーナちゃん、ニーニャちゃんに凄く怒ってましたね。」
当人が居ない内に…というわけでは無いのだろうが、場所と先ほどまで聞いていた話もあって、どうしてもニーニャに関する話題が出る。
リタの何気ない呟きに、アデリナが続く。
「確かに…いくら嫉妬したとはいえ、身寄りの無いニーニャさんを「捨て子」とまで言うのは…些か過剰に思えます。」
教会の孤児院育ちで、今でも自分の稼ぎを孤児院の運営費用として寄付しているアデリナだ。
身寄りが無いことを「悪」であるかのように言っていたことに、珍しく不快感を滲ませている。
(…アデリナの気持ちも、分からなくも無い。)
だが実際のところ、孤児院出身者が就ける仕事というのはあまり多くは無い。
「冒険者名簿に名前の無い孤児は居ない」とまで言われることもある…と言えば、なんとなくは伝わるだろうか?
…まぁこれは、極一部の“裕福”な孤児院を除き、ほぼ全ての孤児院が「孤児に稼がせた小金を運営費用の足しとしているから」らしいのだが…。
だが口さがない連中は冒険者の地位の低さを、孤児院出身者のせいだと喚きたてる。
…本当はそういう奴らこそが冒険者の評判を貶めているのだが、そのことに本人達は気付けはしない。
それはさておき。
こうした孤児院出身者の内情を俺たちに教えてくれたアデリナだからこそ、ソーナの言葉を聞き逃せ無かったのだろう。
「いや、割とあれが普通の反応じゃないかしら?」
だが俺が考えたあれこれは、マリ姉が一言で両断してしまう。
「あの娘にして見れば、せっかく居なくなった筈のライバルが戻って来たのだもの。
感情のままに強い言葉を出すなんて、子供の喧嘩には良くあることでしょ?」
それには俺にも覚えがある。
あれは俺が4才か5才の頃…元クソ兄に山で取れた俺の分の果物を取られた際の喧嘩で、当然勝てなかった俺はヤツに向かって「死ね!」と捨て台詞を吐き、お袋に叱られたのだった。
(…なるほどな。)
猫人族からするともうすぐ成人になるというのにみっともないのだろうが、13は俺たちではまだ未成年だ。
ニーニャが怒ったり哀しんだりしたならともかく…そうでないなら俺たちは、子供の喧嘩での発言に一々目くじらを立てている大人となってしまうわけだ。
「でも………やっぱり、あんなに怒らなくても良いと思います!」
理解は出来てもやはり納得がいかないのか、リタがマリ姉に食い下がる。
「そうね。…これが普通の喧嘩ならね。」
「…え?」
(えっ!?)
マリ姉の言葉に、リタと俺の驚きが重なる。
リタはマリ姉が自分の言葉に頷いたこともあるのだろうが、俺と同様にこれがただの痴話喧嘩でないことにも驚いたのだろう。
「良く考えてみなさい。
村にニーニャと同じ年頃の住人は、他には今のところ長の息子とソーナの3人しか見ていない。
猫人族の慣習だと3人はもうオトナで、当然結婚相手が必要になるわね?」
(ニーニャが奴隷にならなければ…ってそうか!)
長の息子が好意を向けているのはニーニャであることは明らかで、そのままではソーナが余ってしまう。
しかしニーニャが奴隷として売られて行ったことで、必然的にソーナが長の息子の結婚相手になる。
「多くの夫婦がそうであるように、普通はパートナーは1人だけ。」
この国…というかこの大陸では、パートナーは一度に1人だけとは決まっていない。
しかし実際は1人のパートナーを養うので手一杯になってしまうので、後継ぎが必要な王族・貴族や生活に余裕のある者以外の大多数は一夫一妻となっている。
「せっかく好きな男と結婚して「次期長の妻」という立場までが手に入りそうな時に、それをひっくり返しかねないニーニャが戻って来たら…」
(…そりゃ焦って、何が何でもニーニャを排除しようとするだろうな。)
「でも…一緒に育ったニーニャちゃんが、せっかく戻って来たのに…あんまりです。」
一人娘のリタは兄弟姉妹というものに一種の憧れを抱いていたようだが、仲が悪い兄弟などいくらでも…それこそ俺は絶縁にまで至ったわけだが。
「妹が姉の婚約者を横取りするなんて話は、貴族の間では良くあることなのよ。
それもそうよね、結婚相手によってその後の生活の良し悪しが決まるわけなんだし。」
そう言ったマリ姉の目は酷く濁っていて、魔術学校では余程醜い愛憎劇を見せられたのであろうことが伺えた。
「まっ、その点私たちは幸いよね。」
「…確かに、その…全員分け隔て無く愛して下さいますし…。」
「はいっ!ラストさん、これからもよろしくお願いします!」
「お、おう…。」
婚約者3人による不意打ちに、俺は気恥ずかしさやら嬉しさやら愛しさやらで、まともな言葉を返すことができなかったことを悔やんだ。
何やらニーニャ抜きで良い雰囲気になってしまっていますが…?
相変わらず難産の説明回でした。
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