213 若者の居ない村
休日より平日の隙間時間の方が筆が進む件
村人達と一緒にセイザをさせられアデリナに叱られた後、積み上げられた麦の分配がこの場で行われることとなった。
俺たちが運んで来た食糧は1人につき1袋ずつ配られるらしく、そこに大人と子供の区別は無いようだ。
だから、長と村人のこんな会話も聞こえてくる。
ガヤガヤ
「おっ、お前のとこは4つで良かったか?」
「ああ。子供が産まれるのはまだ大分先だよ。」
「…大丈夫そうなのか?」
「はは…。
…この食糧が無かったら不味かっただろうなぁ。」
「そうか。…ま、しっかり食わせてやれよ!」
今配給される食糧を取りに来た男二人組の片割れは妻が妊娠しているらしく、もし俺たちが素直に村人達に追い返されていたら…と思うとゾッとしない話だ。
そしてそのこととは関係無いのだが、今食糧を取りに来た村人が男二人組であったように、どうやらこの村では、どちらかが兄弟姉妹の夫婦同士で家を共有するのが普通らしい。
…まぁ、100人近くの住人が居たスマト村でも親夫婦と息子夫婦が同じ家で暮らすのが普通だったと考えたら、そこまでおかしな風習でも無い。
家を建てるのは重労働で、かなりの時間も掛かる。
ましてや男手が10人程しかいないこの村では、家造りにばかり手を掛けては生活が成り立たない。
だからなるべく大きめの家を建て、基本的に2組…場合によっては親夫婦・子の夫婦2組の3組で暮らしているのだろう。
リタの混乱となった「大きめの家」は、こうした理由と獣人のパワフルさによって成り立っているわけだ。
(…にしても─)
俺は一息入れるついでに、住人達を見渡す。
こうした独特な暮らし方をしている猫人族の村だが、俺は「変わった風習」で方の付かない不思議な点に気付く。
(若者がいない?)
若者と言っても俺に突貫してきた青年を始めとして、その青年よりも明らかに年下の子供は、何人かが家の中から顔を覗かせている。
しかし突貫青年より上の年代となると、途端に親世代か老人になってしまう。
ありていに言うのであれば、労働の中心となるべき「若衆」がこの村には存在しないのだ。
開拓村などでは年代が偏ってもおかしくは無いのだが、その偏りというのも元の村や街から溢れた「若者」しかいないという、この村とは真逆の状態になるわけだ。
「…ん?どうかしたのか?」
「あ、いや…少し気になったんだが─」
俺がこの村の状態を訝しんでいることを察したわけでは無いのだろうが、丁度この村の長であるボスが俺の様子を伺ってきたので疑問を尋ねることにした。
「ああ…、若い奴らは街に出稼ぎに出てる。
…筈なんだがなぁ。」
こんな山間の村でも人間の村と然程変わらぬ暮らしをしている猫人族達ではあるが、人間の多くの村がそうであるように村では得られない物…主に鉄製の刃物なんかは村の外から得ていることだろう。
そして人間の村では作物を売った金が使われるわけだが、自分たちの分すら無いのに金に換える物があるわけが無い。
そこで街に出稼ぎに出るという手段は、人間の村でも行われている自然なことだ。
「筈…?」
だがその後に続いた言葉に、俺はどういうことかと聞き返す。
「いや、この村のやつらも薄々は分かってるんだ。
…出稼ぎに出た若い奴らの殆どが、村に戻って来ない理由なんて。」
(ああ…、そういう…。)
人間の村の若者も、栄えた街に憧れる者は多い。
ましてや不作一つで全滅の危機に陥るような村で暮らしていたのならば、街での豊かな生活を知って尚、不便なこの村に戻って来たい若者はそういないだろう。
(もしかしたら、俺たちの本拠や〈ラビリンス〉で擦れ違っていたりしてな?)
若者の方が街で仕事を得やすく、独り身であれば村から離れて暮らすことへの忌避感も薄い。
あわよくば、街で嫁ないし旦那を見つけて戻って来れば、村も発展する。
(大方、ボスの狙いはそんなとこか?)
狙いは悪くないと思うが…それが悉く裏目に出てしまったことに、余所者ながらに同情する。
「ん?…おいおい、誤解しないでくれよ!
村から追い出したことを「出稼ぎ」って言ってるんじゃないぞ?
…確かにちょいと強めに頼みはしたが、馴染みの行商に街での仕事の紹介をちゃんとお願いしてるんだぜ?」
しかし俺の同情した顔をどう受け取ったのか、焦ったような様子でボスはそう言う。
…だが、依頼では無くあくまで“お願い”であるため、その馴染みの行商が押し付けられた若者をどうしようが勝手だ。
そしてそんなことが無かったとしても、行商人に街での働き口の伝があるかも疑問だ。
「それに…戻って来たやつらから騙されて奴隷になりかけた話とかを聞いて、街に行くやつらには十分注意するようには言ってる。」
俺に納得した様子が無いため、ボスは苦し紛れなことを言う。
おそらく…ボスは出稼ぎに出た若者達も、きちんと気に掛けていると言いたいのだろう。
「あ~…何か悪いことを聞いたみたい─」
色々と突っ込み所はあるものの、村人達が納得していることに余所者が口を出すのはおかしい。
また、気になったことを世間話のつもりで聞いたら、村やボスに取ってはあまり良くない話だったと知り、俺は話を切り上げようとした。
が、ボスが顔を伏せながら言った次の言葉に、リタが思わず突っ込んでしまったことで話の流れが変わる。
「…もし戻って来ない奴らが奴隷にされてることが分かれば、直ぐにでも助けに向かうだろう。」
「え?ニーニャちゃんは奴隷だったって…。」
ついでに言うなら、魔物の囮に使われて、俺が居合わせなければ危なかった。
「ぅえ?…あ~っと、それはだなぁ…」
さすがに村人の少女まで知っていることを「知らなかった」とは言えないのか、目を泳がせて冷や汗までかき始めるボス。
「その娘が捨て子だからに決まってるでしょ。」
ボスの代わりにそんな答えを言ったのは、今まさに俺が思い浮かべていた、この村で最初に会った少女。
「何…?それはどう─」
「ニーニャ!?ニーニャじゃないか!
良かった、戻って来たんだな!」
今度は何だ!?
…てことは、年末年始ヤバいのでは?
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




