211 第一村人発見!からの…
Tips:『キャプテン・ラックマン』
数多ある英雄譚の中で『傲運』と語られる、『古の勇者』が現れるより遥か昔に実在した大海賊。
本名不詳の彼は、元はしがない漁師の青年であった。
しかしある日彼は不幸なことに、海底ダンジョン出現による渦潮に巻き込まれ海に沈んだ。
だがそれが彼の伝説を支える遺物の船、〈赤龍号〉を得る切欠であった。
海底ダンジョンから生還した彼は村の仲間達と〈赤龍海賊団〉を結成。
彼らの乗船である〈赤龍号〉は悠々と空を行く竜のように魔物を寄せ付けずに海を駆け、立ち塞がる他の海賊団の船や軍船を粉砕した。
また船長である『キャプテン・ラックマン』自身も「未来を見通す義眼」により、あらゆる戦闘で英雄と同列に語られるに相応しい活躍をしたと云われる。
だが傲った彼はついに運に見放され、名も無き漁村で捕らわれた。…故に彼の異名は『傲運』なのだ。
「俺の幸運はレッドドラゴンじゃ無ぇ。…なぁ?
“ルビア”」
彼の処刑後、あらゆる海賊団や国が〈赤龍号〉を捜索したが、現在になってもまだ〈赤龍号〉は発見に至っていない。
そんなこんなで、いよいよ猫人族の集落の目と鼻の先まで来た俺たち。
ここまで来れば村人の1人や2人見掛けそうなものだが、寒くて家に籠っていたりするのか未だに住人を見掛けていない。
(冬とは言え、こんなに活気が無くなるのか?)
人間の村なら冬場でも外出する者は僅かでもいたのだが、だからと言ってこの村の状況を異常と判断するのは早計だ。
そもそも住人の数が人間の村の半数にすら届かず、ニーニャがそうであるように猫人族が寒さを苦手としているなら、人間以上に外に出ることは無いだろう。
(でもそれだと困るんだよなぁ。)
俺たちが領主名義の依頼で運んできた食糧。
この食糧の受け取り証明をするのはこの村の長ないし纏め役なのだが、どの家を訪ねたら良いのかが分からない。
最後の手段としてニーニャに聞くという手もあるが、やはり住人に訊ねた方が確実だろう。
どの家を訪ねるか周りを見渡した、丁度その時。
ギィ…
「うぅ~、寒…。」
俺が顔を向けていた反対側から木の軋む音が聞こえたのでそちらを見ると、ニーニャと同じ年頃の少女が寒さに震えながら顔を出した。
(同じ年頃っていうか…、色が違うけどニーニャに似ているな?)
白髪に碧眼という「静」を思わせるニーニャとは正反対に、淡い金色の髪であったり朝焼け色の瞳と「動」を思わせる色を持つ少女であった。
「えっ…、…人?」
彼女の普段の性格が俺のイメージ通りであるかどうかは、今は残念ながら…俺たちを見て戸惑う少女からは伺い知ることは出来ない。
「…何よあなた達、こんなとこに何の用?」
おっと、警戒されてしまったようだ。
…確かに彼女からすると、見知らぬ男…しかも異種族の男が無言で自分を見つめてきているという状況だ。
あまり余所者の来ない秘境的な村の少女からすると、この付近にもいるであろう魔物よりも、俺の方がよほど恐ろしかったりするのだろう。
そう考えると、警戒しながらも俺たちの正体や目的を探ろうとする彼女は、中々に負けん気が強い性格であることが伺えた。
「俺たちは冒険者だ、怪しい者じゃない。」
既に警戒されてしまっているため、後ろ暗いことなど無いと示すように、俺は Cランクと書かれたギルドカードを見せながら身分を明かす。
「俺たちは─」
「冒険者がどうしてこんなとこまで来るのよ!?
魔物なら他のとこにもいるじゃない!?
わたしたちの獲物を獲らないでよっ!」
そして用件を伝えようとしたところ、「冒険者」という言葉に過剰な反応をする少女。
(ちっ、…失敗したな。)
C ランクに上がり忘れてしまっていたが、本来冒険者という者達の評判は「荒くれ者」「根無し草」「万年金欠」と碌なものではない。
寒さと飢えで参っている相手に、俺は「自分たちはロクデナシだ!」と誇示してしまったというわけだ。
「ソー、落ち着いて。」
怒鳴る少女の誤解を解く以前の問題として、どうすれば宥められるかと俺が四苦八苦する前にニーニャが前に出て声を掛ける。
(ナイスだ、ニーニャ…!)
見知らぬ碌でなし男が何を言ったところで聞き入れられることは無いだろうが、知り合いの言葉ならいくらか伝わるだろう。
その点ニーニャは元々この村で暮らしていたことに加え同性で年頃も同じという、これ程少女の説得に適した者は他のメンバーにいない。
住民の数が数十人しかいない村であるならば、全ての住人同士は知り合いなのだ。
…まぁ、約1名少女の説得を成功させられそうなメンバーがいるが、今回はニーニャに任せよう。
そして少女が落ち着いたら、改めて用件を伝えることにしよう。
「あんたニーニャなの!?
…っ!そういうことね…!」
だが事態は思わぬ方向に転がり、ニーニャの姿を見留めた少女は、俺をキッ…!と睨むと叫んだ。
「ニーニャの身体で味を占めて新しい奴隷を捕まえに来たのね!?このクズッ!」
(どうしてそうなった!?)
「どうしてそうなった!?」
事実とは正反対の酷い言い掛かりに、俺は思わず少女にツッコミを入れる。
いや、本当…。
俺はいつの間に、これ程までにこの少女の信頼を失ったのだろうか?
「なんだ、なんだ?」
「余所者が来た…。」
「人攫いだって?」
「え?いつもの商人じゃないのか?」
ザワザワ…
いくら家の中に籠っていたいとはいえ、表でこれ程騒げば住人達が次々に顔を出す。
「(これ…、不味くないですか?)」
「(ちょっとラス君っ、何で誤解されるような言い方をしたの!?)」
多数の猫人族に囲まれつつある状況に、リタは不安げな顔で呟き…マリ姉は「どういうつもりか」と俺に詰め寄る。
「(い…いや、そんなつもりじゃ…)」
ザワザワッ、ザワザワ…
俺は咄嗟にマリ姉に言い訳をしようとするが、マリ姉を落ち着かせたところで現状が変わるわけでは無い。
今説得するべきは、徐々に憶測や誤解で騒めきが大きくなっている猫人族の方だ。
(あぁ…もう、滅茶苦茶だ…!)
各々が好き勝手に話しガセが飛び交うこの状況では、何を言っても焚き火に新たな薪をくべることにしかならない。
何か、一旦周りを黙らせる方法は無いだろうか?
(マリ姉に魔法を使ってもらうしか…)
と、そんな物騒な考えが俺の頭を過ったその時─
「ボスが帰って来たぞ!」
─と、誰かが叫んだ。
「何?本当か!?」
「ボス!」
ザワザワ
その言葉を聞き、先ほどまでの警戒や不安といった騒めきは、歓喜や安心といった雰囲気に変わっていく。
周りの言葉を聴く限りでは、どうやら不在だったこの村の長が戻って来たらしい。
これでようやく次の話へと進めそうで、俺たちとしても一安心だ。
…だが、気になる点が一つ。
(村の長の呼び方が「ボス」って…。)
裏の一味かよと思うも、たかが呼び方一つに文句は言うまいと堪えた俺であった。
まぁ…“猫”人族、ですし?
(Tips だけで一作書けそうな予感…。)
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