閑話 牙と角
総話数200話記念的な?
時は、ヒューバート討伐戦時。
異形と化したヒューバートへ、連合が総攻撃を仕掛ける際の一幕。
…………………。
…………。
…。
「…む、此処は…?」
白一色の空間にぽつん…と、甲冑と呼ばれる板金鎧とは異なる趣の鎧を身に着けた…いわゆる「武者」が佇んでいた。
その武者の下顎からは2本の牙が生えており、厳つい顔や巨躯…更に甲冑の上に被せた毛皮という格好は、まさに“猪武者”というのが相応しい。
しかしその容姿に反して、状況を把握しようと忙しなく周囲に視線を巡らせる猪武者。
「坊や、此処はハジメテかしらン?」
そんな猪武者に、低めの女らしき声がネットリとした口調で話掛けて来る。
「っ、何奴!?」
不意を突いた自身以外の声に、猪武者は身構えて警戒を顕にする。
「あら?見た目に似合わずビビりなのネェ…。」
警戒する猪武者の前に悠然と現れたのは、キラキラと光を乱反射するロングドレスに身を包んだ麗人。
クスクスと口元を隠して上品に笑う麗人の頭には、時折スパークを散らせる角が二枝。
「ほざけ!面妖な格好をしおってからに!」
笑う枝角の麗人に「臆病だ」と馬鹿にされたと思ったのか、猪武者は「怪しい格好をした奴を警戒するのは当然」と憤る。
「格好なんて好き好きでしょうに…、青いワァ…。」
憤る猪武者に対し、枝角の麗人は肩を竦めて「呆れた」とアピール。
どうやらこの二人は、枝角の麗人の方に軍配が上がるようだ。
「くっ…、貴様の相手をしている暇など…!」
苦し紛れっぽく言う猪武者だが、この空間に来る直前の記憶では、自らを使う主人は強敵と相対していた。
主人と仰ぐにはまだまだ未熟なため、姿が見えない今、心配で堪らない猪武者。
「はぁ…、落ち着きなさいナ」
「落ち着いて居られるかっ!某の使い手は大地の礎の末裔ぞ!?易々と失われてならんのは、貴様だとて分かろう!?」
枝角の麗人が言葉を言い切る前に食って掛かり、まくし立てる猪武者。
必死な猪武者のその形相は、詰め寄られた枝角の麗人に久しい“被食の恐怖”を呼び起こさせた。
「分かった!分かってルから離れてチョウダイ!?」
「っ!?…済まん。」
枝角の麗人が本気で恐怖していることを感じとり、枝角の麗人を放した後頭を下げる猪武者。
しかしそのおかげか、猪武者は落ち着きを取り戻せたようだ。
「…此処から戻る方法は存じているか?」
そして気まずくなった雰囲気を押し退け、猪武者は自身よりもこの白い空間に詳しいらしい枝角の麗人に尋ねた。
「ンモゥ、せっかちさん。
だけど…戻るもなにも、ワタシ達が存在出来るのは此処だけよ?」
「っ!?、…嘘を吐くな!」
枝角の麗人が言った思いもよらない答えに、再び取り乱し始める猪武者。
「嘘じゃないワァ、最後まで話を聞きなさいナ。
見ての通り、ワタシ達が居るトコは果てなんて存在し無いの。」
「不思議よねぇ?」と枝角の麗人。
しかしそれを言うのであれば自身達が未だ存在するのはおかしいと、猪武者は枝角の麗人の言葉の続きを神妙に待つ。
「だからぁ、近寄り過ぎるとお互いの居場所がくっついてヒトツになっちゃうのヨ。」
枝角の麗人の言葉に頷き、一応の納得を得る猪武者。
「だがっ…、だがそれでは困るのだ!」
しかし納得出来たからと言って、現状を変えたい…というより元の状態に戻りたい欲求は解消されない。
むしろ状況の把握が出来たことで、心の余白となった部分が染まり不安が大きくなる始末だった。
「いつも通り、「外が見たい」と思えば良いじゃない?…ホラ。」
そう言った枝角の麗人の指差す先に、いつもラストに見せていた気怠げな雰囲気のなりを潜め、雷を纏う角礫弓から鉄球を連射する中年男の後ろ姿が映る。
「おおっ!」
見える範囲や映る人物が異なれど、まさしく求めていたものを目にして喜びの声を上げる猪武者。
「某も早速…、フンッ!」
その気合いに意味があるのかはともかく。
猪武者の前にも、枝角の麗人が出したものと同様に映像が映る。
「あら…、中々カワイイこじゃなぁい。
…でもワタシの趣味には合わなさそうネ。」
猪武者の出した映像に映るラストを見た、枝角の麗人のコメントだ。
「ボソッ…(…貴様の趣味は悪そうだ。)」
使い手を貶されたように感じた猪武者は、そう呟く。
「このヒトの魅力は見た目じゃないワァ。」
しかし猪武者の呟きは聞こえていたらしく、枝角の麗人は己の使い手について語る。
「自慢なのだけど、ワタシって群れで脚が一番速かったノ。
そんなワタシがね?群れで一番のノロマも捕まえられないヒトのオスに捕まえられちゃったノヨ!
ワタシスゴく胸がドキドキしちゃって、運命感じちゃったワァ。
それでネ?あのオトコはそんなワタシの心臓を射抜いたノ!
そんなのもう両想いじゃナァイ!」
目を潤ませ頬を染めて話す枝角の麗人を見て、全身の毛が逆立つ悪寒に襲われる猪武者。
熱くなった頬に手を当ててクネクネと身体を動かす枝角の麗人からそっと目を逸らし、猪武者は彼が彼となった当初からずっとそうしていたように、己の使い手の姿を凝視するのであった。
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以下イメージ画↓
牙
角
「牙」はケモ度が高いし、牙が描画されず。
「角」は衣装と角に不満…。
※2025/11/28 「角」の画像変更しました
敢えて言おう…“だが♂である”!
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