193 だが断る!
少し遠出していて、執筆が遅れました。
すみません、そして…
【祝、通算200話達成!!】
ガバッ!
「ラスト君、虫のいい話なのは分かっている。
だがこの通りだ、ベア…拐われた村の女達を助けて欲しい…!」
ファムさん自らの案内で部屋に落ち着いた途端、ドゲザをしたファムさんの懇願だった。
ドゲザは「この首を斬っても構わない」という意味合いの最上級の謝意を示すものらしいが、こういった場合はどういった意味合いになるのかと、俺は明後日の方向に思考を飛ばそうとする。
ペシンッ…!
が、それも叶わず。
マリ姉にでも言い含めれていたのだろう。
俺の意識を強引に連れ戻したのは、俺の隣にピタリと寄り添って座るニーニャの尻尾による殴打だった。
ペシペシ、ペシペシンッ…!
「~♪」
ただマリ姉の誤算は、ニーニャが楽しくなってしまい、いつになく幼気なニーニャの様子にマリ姉を含め〈白の大樹〉全員が和んでしまったことだろう。
「あ~…、頭を上げてくれ。」
ガバッ!
「それじゃ…!」
俺の言葉を聞き、その言葉を待っていたと言わんばかりの勢いと期待に満ちた表情で顔を上げるファムさん。
もし俺が断っても、アデリナが間を取り持ってくれると目論んでいた癖に…。
だから俺はファムさんの期待を裏切る、ファムさんが思ってもいないであろう言葉を続けた。
「いや…とりあえず今日のとこは休ませてくれ、今話を聞いても頭に入らん。」
「…そうか、ではまた明日に。」
スク…
事実、俺たちは昨日は寒空の下で野営してきたわけで、しっかりとした休養は必要だ。
そして一瞬にして失望に沈み、立ち去ろうとするファムさんに忠告を一つ。
「あまり常識から外れた時間は止してくれよ?」
「そんなこと、分かってる…!」
バタンッ!
「「「…………。」」」
「……~♪」
ペシペシ…
暫しの沈黙。
再び動き出したニーニャの尻尾が、俺の背中を叩く音だけが静かに部屋を満たす。
「あの…ラストさん、…何故あのようなことを?」
俺が態とファムさんを怒らせたことに、やはりと言うか…アデリナが若干咎める意思を含んで尋ねてきた。
…まぁ、アデリナの性格を考えると叱られても不思議ではなかったが、理由を尋ねてくれるあたりに場違いな考えだとは思うが、アデリナの俺への信頼を感じて嬉しくなる。
だがアデリナに答えたのは、俺たちの中で一番冒険者歴の長いマリ姉だった。
「ここに来るまでに、ラス君がこの村でどんなことをされたのかは話したでしょ?」
「はい…。」
「獲物の横取りだけじゃないなんて、元ギルド職員としてだけで無く、私自身としても許せません!」
「……ん、ボソッ(一緒…。)」
マリ姉の確認するような言葉に、俺を咎める雰囲気だったアデリナは顔を俯かせてしまう。
リタは頬を膨らませて、「私、怒ってます!」と可愛らしく示す。
ニーニャも言葉少なに頷いたものの、頷くまでの間と、聞き取れなかった呟きが気になった。
「本来ならこの村に私たちが滞在すること自体、ギルドの制裁に反するのよ?」
通過するだけならばともかく…滞在となるとギルドを通さず直接依頼する機会を与えることとなる。
なので、依頼拒否を主な制裁とするギルドとしては冒険者に罰則は無いものの…やはり余り良い顔はされない。
「今回はあくまでも、“偶々”討伐対象がこの近くに居るってことで黙認されてるの。」
これが許されるのであれば、制裁対象の A村の依頼を制裁対象外の B村が代理で出せる…なんてことをさせる程ギルドは甘く無い。
依頼にランクを付ける依頼内容の精査で、そういったズルは弾かれる…らしい。
…加えてそれが故意だった場合、先の例だと B村もギルドの制裁対象に加わる。
ならば何故、今回の依頼が見逃されたのか?という理由が…
「それにこの依頼の依頼主はミレット伯爵。
厳しい言い方だけど、たかが数人の農民の為に依頼を失敗するわけにはいかないのよ。」
冒険者ギルドの信条には「国家権力に阿ることは無い」とあるものの、各ギルド支部が点在するのは何処かの国だ。
それに貴族の依頼を突っぱねるよりも、多少の便宜を図った方が利益が大きいのは誰でも分かることだろう。
その上でギルドの許容可能なギリギリが、「盗賊団の討伐」なのだ。
おそらく…ミレット伯爵の代理で、この依頼を出したのはミレット伯爵令嬢のサラ様だ。
サラ様とは僅かな時間話しただけではあるが、サラ様に数人とはいえ領民を切り捨てるような非情さは感じられなかった。
勿論伯爵代理としてそういった判断を下すことは多々あるのだろうが、依頼に人質の保護が言及されていないということは“そういうこと”だ。
「それで、ラス君がファムさんを態と怒らせた理由なのだけど…」
と、流石にこれは自分で説明しろとの視線。
「あー…、なんと言うかな…?」
単なる嫌がらせ…ではなく、一応俺なりにちゃんとした理由はある。
ある…のだが、改めて説明するとなると難しい。
「えっと…、この村は俺が住んでた村だろ?
てことは大体が顔見知りで、纏め役のファムさんには家族で世話になったわけだ。」
俺の拙い説明を、特に真剣に聞くアデリナ。
「んで、知らない奴に無茶言う奴はあんまりいないだろ?」
俺としてはむしろ、知らない奴にズケズケと頼みごとをする奴の気が知れない。
「でも、知ってる奴でも喧嘩とかしていたら、頼みごとをするのも気まずいだろ?」
「…、!」
〈白の大樹〉だと俺が良くその状況に陥るのだが、自身が加入する際のことを思い出したのか「府に落ちた」という反応をするアデリナ。
名付けて、「突いて駄目なら、退いて構えよ作戦」。
しつこく頼み込まれるなら、頼む気を無くさせれば良い。
作戦は見事に成功し、俺たちは余計な枷を着けずに済んだ!
…まぁ、マリ姉がアデリナにした説明をファムさんにすれば良いだけの話ではあるのだが…。
俺も人ってことさ。
記念すべき200話目がこんな話で良いのか?という疑問。
…ま、しょうがないか!
(難産でした…。)
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