190 リタ in〈白の大樹〉
Tips :〈ドゥーラクーン〉
今は亡き小国〈ドゥーラ〉固有の魔物。
青みがかった灰色の毛皮をしており、耳が頭部に同化していることから、別名「耳無青狸」。
性格はとある場合を除き、極めて温厚。
〈ドゥーラ〉の伝統菓子である〈ドゥーラ焼き〉が好物で、深く掘った穴の底に〈ドゥーラ焼き〉を置くだけで即日2~3体の〈ドゥーラ〉が捕れたらしい。
毛皮は肌触りが良く暖かで肉も旨いため、旧〈ドゥーラ〉領が帝国支配下となった際に乱獲され、現在では絶滅したと言われている。
現存する剥製の〈ドゥーラクーン〉の毛皮の色はもはや完全な青であり、これは最後まで乱獲から逃れた〈ドゥーラクーン〉に「恐怖で青ざめた色が定着したからだ」と揶揄されている。
鳴き声は「ニャー」。
「アイテムボックス?…使えないけど?」
by ドゥーラクーン
バーンさんが召されかけるという事件が起きたが、隠蔽に成功して無事に街の中。
色々と積もる話はあるが邪魔になるということで、俺たちは大通りをギルドへと連れ立って歩く。
「えぇ~~っ!!
皆さん Cランクになっちゃったんですか!?」
その道すがら、〈ラビリンス〉であったことの大まかな流れを話していて、リタの反応がこれである。
「せっかくもうすぐ Dランクだったのに、また離されちゃいました~…。」
シュン…
ああ…。
何故か悄気たリタの頭と尻に、伏せたケモ耳と力なく垂れる尻尾が見える。
出会った当初から人懐っこいワンコを思わせるリタであるが、門での件といい…何だかアグレッシブさが加わっているように思う。
そしてそれは気のせいではなく、その原因と思われることに関係するであろうことについて訊ねる。
「あ~…それでリタ、その格好は?」
と俺が訊ねた途端、悄気ていたリタは一転して自慢気に語り出す。
「よくぞ聞いてくれました、ラストさん!
この度…私はギルド受付嬢リタを改めまして、冒険者リタとなったのです!」
そう言ってリタは、自身の装備がよく見えるに両腕を広げた。
リタの装備は女性冒険者に多い軽装であったが、明らかにオーダーメイドのリタにジャストフィットした黒光りする軽鎧に、一見普通に見えるがよく見ると表面が砂のようにザラリとした革ズボン。
極めつけに、木目のような見たことのない紋様を剣身に画く黒刃のレイピア。
「ちょっ…!
コソコソッ(もしかしてそのレイピア、ダマスカス鋼製じゃない!?)」
リタのレイピアを見て大声を出しかけたマリ姉が慌てて口を塞ぎ、今度は小声でリタに確認をする。
(そんな馬鹿な…。)
近くにいたことで偶々マリ姉の質問が聞こえた俺は、内心でそう思った。
そしてマリ姉に突拍子も無いことを聞かれたリタは、一瞬キョトン?とした顔をした後笑みを浮かべ─
「はい!良く分かりましたね!?」
(ほら、そんなわけ…)
ん?今リタは「はい」って言ったのか?
しかもその後に続いた言葉から、聞き返す「はい?」でないことは確かだ。
「…って、ええぇえ!?」
ザワッ、ザワザワ…
「何だ何だ?」
せっかくマリ姉が堪えたにもかかわらず、俺が思わず出した大声で周りの注目を集めてしまう。
バシンッ!
「馬鹿ねぇ、何そんなに驚いてるのよ?
「勇者」の使っている剣がオリハルコン製なんて、少し考えたら分かることじゃない?」
ザワッ!
「今の話ってマジなのか?」
「俺に聞くなよ!」
「オリハルコンって実際していたのか?」
「…確かに、「勇者」が実在するってことは、「勇者」の武器が実在してもおかしくは無いな。」
ザワザワ…
俺の失態で集まった注目は、マリ姉の機転でどうにかその矛先を変えることができたようだ。
「コソッ(さ、今の内に逃げるわよ。)」
注目が逸れたとはいえ、その場に留まっていて良いことなど一つも無い。
気持ち歩みを早くして、そそくさとその場から離れる俺たち。
「ちょっと、気をつけてよ?」
「スマン、マリ姉…。」
「コソッ(リタもあまりそのレイピアを見せびらかさないようにね?)」
「は、はい!」
その際、大声を出して注目を集めてしまった俺と、自身の武器の希少さをよく分かっていなかったらしいリタは、迫真の笑みを浮かべるマリ姉に釘を刺されるのであった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
それからは何事も無く、ギルドにたどり着いた俺たち。
ツカツカ
「ちょっとギルマスと話せないかしら?」
「えっと…、ギルドマスターとの面会のご予約はありますでしょうか?」
ギルドに入るなりマリ姉はカウンターに真っ直ぐ歩み寄り、徐にギルマスとの会談を要求する。
新人らしい見たことのない顔の受付嬢はマリ姉の要求に、困惑しながらもおそらくマニュアル通りの受け答えを返す。
(街をスタンピードから救った英雄ってのも、こんなもんだよなぁ…。)
ギルドに入った時の反応の無さで薄々察してはいたが、スタンピード直後は「巨猪殺し」などと大層な呼び方をされても、1ヶ月も経てば記憶の彼方。
結局は最大の脅威が Dランク魔物2体の、時としていくつもの国を滅ぼすスタンピードとしては、極小規模なものでしかなかったということなのだろう。
ギルドから正式な称号が与えられる悪魔討伐すらも内々に済まされて終わりなのだから、勝手に持て囃された英雄の呼び名など…残る筈も無い。
まぁ…変に持て囃されても厄介事を押し付けられかねないので、むしろ英雄呼びが消えて良かったと言える。
「いいえ、無いわ。」
「…でしたら、面会のご予約をしていただき、また後日お訪ね下さい。」
ギルマスと話したいというマリ姉の要求は、当然ながら受付嬢に却下されてしまう。
…こういう時、通った名があると便利なのだろう。
(…惜しくなんて、無い。)
つい「通り名持ち」を羨んでしまったが、手順を守るのは大事なことだと思い直す。
それに呼び名が消えても俺が成したことは、俺が知って欲しい人達がちゃんと知っている。
「ラストさーん、これに名前の記入をお願いしまーす!」
カリカリ
「…ほいよ。」
俺が内心で負け惜しみのようなことを考えている隙に、ササッとパーティー加入手続きを終わらせるリタ。
このことについてマリ姉やアデリナ更にはギルマスにも説教を受けたのだが、どうせ遅かれ早かれだったのだから問題ないと思うのは間違いだろうか?
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リタ(冒険者の姿)
(キャラ紹介がカットなので、ここに置いときますね^^)
※書類に名前を書く時は、しっかり内容を確認しましょう。
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