閑話 side「勇者」その2
あれ?僕なんかやっちゃいました?
ラスト達〈白の大樹〉が〈迷宮都市・ラビリンス〉のゴタゴタに巻き込まれていた頃。
「勇者」一行は〈フラワーフィールズ王国〉と〈クレク連邦〉の国境に位置する、フラワーフィールズ王国貴族…ダイカーン子爵の治める〈辺境都市・カクタス〉を出発していた。
「いやぁ~、流石は「勇者」様。
おかげさまで手前共は餓えずに済みますわぁ。」
上機嫌で渡にそう言うのは〈カクタス〉で「勇者」一行に加わった、赤毛のショートヘアに日射しの強い地域特有の褐色肌の少女。
「カリンさん、僕はただ子爵と話せるように頼んだだけだよ。」
プルプル…
その謙虚な台詞とは裏腹に、渡は褒め称えられて顔がニヤケそうになるのを耐えている様子。
「それがアテには一番大変なんですわぁ!
交渉出来んことには、そもそも商売にならへん。」
本人曰く、岩窟人の血を色濃く引いた低身長で、ピョコピョコと大袈裟な身振りをするカリン。
バルンッ!
その本来は可愛らしい筈の動きに合わせ、その低身長には見合わぬ“巨”を越して“爆”になろうかという脂肪の塊が重く弾む。
平原に慣らされていた健全な青少年であった渡は、突如として身近となったそれに釘付けにならないように必死で目を逸らそうとする。
「おやおやぁ?
どうやら「勇者」様はご所望の品があるようで。」
タプタプ
しかし貴族と苛烈な交渉をこなすカリンに、渡のポーカーフェイスは児戯に等しい。
渡の視線と内心を即看破したカリンは、自分のそれを両手で寄せると、下から揺らして渡を誘惑する。
「っ!?
自分の身体は大切にしなくちゃダメだ!」
ガッ…!
渡は半ばパニックを起こし、カリンに掴み掛かってそう諭す。
「アテほど自分が可愛いモノはいないと自負してますがねぇ?
アテはそんな大事なアテ自身を「勇者」様になら好きにして貰って良い、と思うくらい慕っている…と「勇者」様に伝えたかった次第で。」
「そういうことか…。
…気持ちは嬉しいけど、僕以外にはもうそんなこと言っちゃ駄目だよ?」
困ったようなカリンの弁明を聞き、落ち着いた渡は「自分でなかったら危なかった」と言う。
「さて、それはどうでありんしょ?」
「どうって…、はぁ…。」
カリンの“是”とも“否”とも言わない返答に、渡は今後のことを思いタメ息を吐いた。
コソッ
「…で、どうします「勇者」様。
今なら初回限定、たぁっぷりご奉仕…させていただきますよ?」
カーッ…!
「っ~~!?」
艶やかな声で耳元で囁かれた刺激的な内容の言葉に、渡は頭から湯気を吹き出しそうなほどに全身を紅潮させたのであった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
フラワーフィールズ王国最後の街〈カクタス〉を出て数日後。
「勇者」一行は、クレク連邦に属する最初の都市国家〈マントポッド〉に滞在していた。
「こちらがフラワーフィールズ王国産、〈カクタス〉の麦になりますなぁ。」
〈マントポッド〉総督府の大備蓄庫。
そこでダイカーン子爵より仕入れた大量の麦を『異空間収納』より取り出して積み上げたカリンが、額の汗を拭う振りをして言う。
『異空間収納』とは、大量の荷物をその身一つで運べる商人垂涎のレアスキル。
このスキルにより、カリンは若くして商人として成功するに至った。
だが、そんなカリンを妬む者は多い。
「こ、これは…!?
ゴホン…いやぁ、流石は新進気鋭の若き女商人。
「勇者」様に口添えして頂けるとは、素晴らしい幸運だな!」
〈マントポッド〉総督府御用商人であるシュウキンもその1人であり、仮想敵国より軍需物資を仕入れるという難題をカリンに課した張本人だ。
失敗が確実だったそれを「勇者」の介入によりカリンが成功させたことで、本来自身が任された仕事を若輩者に押し付けたシュウキンは立場が揺るがされる事態に陥った。
因みに先ほどのシュウキンの言葉を要約すると、「今回は偶々協力を得られたのだろうが、どうせ「勇者」に身体を売ったんだろう?」となる。
まぁ…当人はそのつもりだった上に実際はそんなことをしていないカリンには、見当違いのことを得意げに話すシュウキンが滑稽に見えて仕方なかったのだが。
それはさておき。
進退の瀬戸際となったシュウキンは、一発逆転を賭け「勇者」一行に願い出る。
「「勇者」様…貴方の人柄を見込んで、一つ頼みをして良いでしょうか?」
「「勇者」様!待っ」
「僕に出来ることならね。
とりあえずその「頼み」ってのを聞かせてよ。」
渡から言質を取ったシュウキンは、裏の顔でほくそ笑む。
「実は〈マントポッド〉総督であるミイダス様が腕の良い傭兵を探しておりましてな。」
「傭兵?」
「兵」という言葉に不穏なものを感じた渡は、シュウキンに聞き返す。
「そう言えば「勇者」様は西から来たんでしたな。
私どもの言う「傭兵」とは、西で言う「冒険者」のようなもの…とお考え頂ければ。」
それならば、と渡はシュウキンに話の続きを促す。
「それで…「勇者」様ほど頼もしい人物は他にいない。
ご不快かと存じますが、何卒。
一回限りで構いません、是非ともミイダス様に協力して頂けませんかな?」
「…………、皆はどうした方が良いと思う?」
そう言って何度も頭を下げるシュウキンを見て、渡は仲間達に是非を問う。
「「勇者」様の御心のままに。」
「「聖女」様の御心のままに。」
「…どっちでも良い。」
しかし悲しいことに、「勇者」一行には誰かの意見に追従する者しかいなかった。
ただ1人、異世界人の渡を除いて。
「う~ん、…………。
そこまで頼まれたら断れないかな?」
「おおっ!真ですかな!?」
「うん、良いよ。
「勇者」として、困った人の頼みごとは断れないからね!」
「では早速契約を詰めましょうぞ!」
この1ヶ月後。
〈マントポッド〉は〈カクタス〉へと侵攻。
潤沢な兵糧を有する〈マントポッド〉軍に、ダイカーン子爵は籠城を断念。
徴兵で嵩増しした〈カクタス〉軍に全軍突撃を指示するも、光の柱に薙ぎ払われ一撃で壊滅。
戦力を喪失した〈カクタス〉は、〈カクタス〉側が降伏を決断する間も無く陥落。
〈マントポッド〉軍により、略奪の限りを尽くされたのであった。
えぇい、「勇者」の頭は軽石かっ!?
12:00にキャラクター紹介(抜粋)を投稿します。
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