187 宵越しの金貨は持たねぇ!それが冒険者
冒険者と書いて、ロクデナシと読む。
バトラーを倒した後に残っていた、いかにもな角とパッと見〈洞窟蝙蝠〉のものと大差無い羽根の、2種4つの素材。
それらは〈悪魔〉の討伐証明としてギルドに回収されたのだが、何故か俺が素材を売却したことになっていた。
「いや、えぇ…は?」
ヌッ…
「ふむ…おい、もう少し高くならんかったのか?
〈悪魔〉の素材だったら、かなり上位の呪具になるだろうに。」
わけが分からず混乱する俺の背後から明細を覗いたビルダーさんが、何がどうしてそうなるのか、素材の買取金額についてギルマスに文句を言う。
いや、ビルダーさん?
…確かに素材が高く売れるなら嬉しいが、俺はそもそも売ったつもりが無くて混乱しているのだが…?
て言うか「呪具」とか、材料からして不穏な物な予感がするんだが!?
「スマンが、お前さんらの『悪魔殺し』認定をする代わりに値切られてしまってなぁ…。
魔石が残っていれば認定もすんなりいって、素材買取額も倍は軽かったろうがな。」
ギルマスもギルマスで、なんか普通にビルダーさんに事情を説明しているし!?
『悪魔殺し』の認定?
ランクアップに1ヶ月もの時間が掛かった理由はそれか!?
ギルマスの話的にはバトラーの魔石が有れば楽だったようだが、バトラーの魔石は俺が『猪突猛進・落星』で消し飛ばした。
つまりギルマスが疲れていたのは俺のせいか!?
…スマン、ギルマス!!
あ、あと『猪突猛進』だがバトラーを仕留めた時の連鎖で“派生”した。
これで俺はユニークスキルを実質三連発出来るようになったが、『猪突猛進・落星』で〈巨象魔猪の骨槍〉の穂先のド真ん中に罅が入っちまったし、スキルで保護されていた筈の俺の両足の骨も粉々になった。
俺の足はアデリナが完璧に治してくれたが、槍の方は中々修復が進まずにいるので、『落星』は封印だ。
…まぁ、高所から突き下ろすという『落星』の挙動の関係上、使う場面も限られるので大した問題では無い。
(って、そうじゃない!)
「ビルダーさん…それとギルマス、違うんだ。」
「「何が違う?」」
恐る恐る話に割り込んだ俺に、見事に同調してビルダーさんとギルマスが訊ねてくる。
「えっと…バトラーは連合を組んで倒したから、素材を売った金は山分けだろ…?」
「「「「「「「いや、それは無い。」」」」」」」
ビルダーさんとギルマスに俺が答えると、今度は俺を除く執務室にいる全員が同調った。
「お前なぁ…、何で〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉の奴らが揃って突っ込んで逝ったか分かるか?」
と、ビルダーさん。
「え?そりゃぁまぁ…」
「そりゃ俺らも戦ったが、その報酬は貰ってるしな。」
外回り組パーティーその2リーダーが言う。
「で、でも─」
「正当な権利による成果を寄越せ、などと…あまり我々を見くびらないで貰いたいものだ。」
〈標準騎士団〉リーダーの言葉に、俺ははっとなるが納得いかない。
「」
「そもそも、だ。
ラストがトドメを刺していなかったら、俺達は奴をみすみす逃がしてたんだぜ?」
外回り組パーティーその1リーダーの言葉に、他のリーダー達も頷く。
「………。」
「でもどうしても気になるってんならさ、君の奢りで打ち上げでもしようじゃないか!」
何も言えなくなった俺に、〈迷宮探索隊〉リーダーの提案がトドメとなった。
「わかった…分かったよ、ちょっと良い店を紹介してくれ。
少し早いが新年祝いを兼ねてパーっとやろう!家族がいる奴は家族も呼べよ?」
「「「「おうっ!」」」」
「そうそう、そう来なくちゃ。」
どうやら、今年の新年祝いは賑やかになりそうだ。
「ふっ…。」
(…楽しみだな。)
大人数でのどんちゃん騒ぎを想像し、俺は口角が上がるのを自覚した。
「あー…俺も参加したいなぁ、はぁ…。」
そんなギルマスの呟きは、来る宴の話で盛り上がるパーティーリーダー達の騒ぎに掻き消されるのであった。
…尚、勝手に新年祝いの予定を立てたことに腹を立てたマリ姉達に色々と絞られたのは、俺も学ばないものだと自嘲せざるを得なかった。
─ 神域 ─
サワサワ…
爽やかな風が草を撫で、常に色を変える空に抜ける、とある神の領域。
サク…サク…
その領域の主である豊穣の神は、その世界に1本だけ生える果樹に向かって歩みを進める。
ドクン…ドクン…
その果樹の幹は2本の螺旋が絡むように捻れ、その枝には人間大の脈打つ真っ赤な果実が1つだけ生っていた。
ドクンッ!ベシャッ…
巨大な心臓のように見えるその果実は一際強く脈動すると、その重さに耐えかねた枝から外れ落下してしまう。
ズルッ…
「うぅ~ん…、久々に帰って来ました~。」
地面に落下し潰れた果実の中からは、赤い果汁に濡れた全裸の女性が出てくる。
その頭には羊のような巻き角。
サクッ…
「お帰りなさい、我が娘。
戦士の末裔はどうでした?」
果実から出てきた巻き角の女性に、ニュグラスは愛おし気な様子で歩みより、そう訊ねた。
「お母様、只今戻りました~。
ラストさんですか~?う~ん………。」
ニュグラスに挨拶を返し、巻き角の女性はおっとりと考え込む。
「ラストさんの子を孕むのは~構いませんね~。」
「あら?貴女のお目がねに叶って母は安心です。
でも…、母は貴女に強制はしたくないのです。」
「性格は~私としては好みなんですが~、戦士としてはもう少し好戦的な方が良いかと~思いまして~。」
「ふふっ、…それなら安心よ?
ほら、見てご覧なさい。」
そう言ってニュグラスは、記録水晶のようなもので、ラストがバトラーを仕留めた映像を巻き角の女性に見せる。
「あら~…、あらあら?」
「うふっ、何も問題はなさそうね?
…時を見て彼の元に行きなさい。
そして、戦士の血を増やすのです。」
フッ…
ニュグラスはそう言い残し、その場から消えて…否『転移』して行った。
「…もうっ、お母様のすかぽんたん…!」
ニュグラスに揶揄われたことに気付き、可愛らしく既にいなくなったニュグラスを罵倒する巻き角の女性。
しかしその場に残された巻き角の女性の頬は紅潮しており、それがニュグラスに対する怒りによるものでないことは、本人以外には明らかであった。
巻き角の女性…。一体何者なんだ!?
(バレバレでは?)と、FURUは訝しんだ。
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