17 推し売り
武器を換え、換え…
意を決して民家(?)に踏み入れた俺は、そこが民家などでは無く、倉庫のような建物であることが分かった。
何故そう考えたかといえば、この一見民家の建物は入り口から入ると、玄関には広すぎる土間となっており、壁にはフックが等間隔に設置され、見馴れない形状の…恐らく武器とみられるものが掛けられていたからだ。
それらは波打つ歪んだ剣や巨大な鎌、二つや三つに分かれた棒、片端に取っ手のように木の棒が横に飛び出した鉄の棒2本。
見た目は魔銃のようだが箱のような部品や銃床の上にレバーがついたものに、弓身の両端に滑車がついた弓まであった。
(〈コンビに屋〉の在庫品か?)
立地的にも、ガンキンが不法侵入(?)したことからも、その可能性が急浮上する。
ガタッガタガタ
物音のした方を向くと、入り口と反対側の壁だと思っていたところが、横にスライドし開くところだった。
暗がりで分かりにくかっただけで、どうやら向こうにもスペースがあったようだ。
「おいラスト、手伝え!」
戸が開いたところからガンキンが顔を出し、俺を呼ぶとすぐにまた引っ込む。
(まったく…、説明くらい先に─)
内心でぼやきながらガンキンが引っ込んだスペースへと向かった俺だが、そこで見た光景に圧倒され一瞬思考が止まる。
ギラリ
暗がりで良く見えなくても、開けっ放しの入り口からの僅かな光の反射から、何らかの金属製品があることが分かった。
「ほれ、これを向こうに持って行きな。」
この暗がりでも目が見えているらしいガンキン(流石ドワーフといったところだ)に、2本の棒を押し付けられた。
「刃は握るなよ、指の2本や3本は簡単に落ちるからな。」
そんな危ない物を暗がりで持たせるな!
手に持つ感触は刃物どころか金属ですらない木製の棒だが、ガンキンの注意に棒を握る力が弱々しくなる。
(…って、それじゃダメだ!)
最初に握った時点で、今掴んでいる部分が安全であることは証明されている。
しかし、ここで俺がビビって手を滑らせようものなら、指が落ちるどころではない惨事が起こり兼ねない。
そう思い直した俺は、渡された棒(恐らく槍)を握る手に、しっかりと力を入れた。
カタカタ
「何モタモタしてんだ、早く行け。」
自身も何かを持っているであろうガンキンが、未だに棒を渡された場所に居る俺を急かす。
「ああ、今出る。」
棒を何かに引っ掛けたりしないように気をつけて、暗がりから土間へと摺り足で向かう。
「んじゃ、適当に並べな。」
慎重に土間へと出た俺に真昼の道を歩くかの如くピッタリついてきたガンキンが、何事もなく無事に土間へと出れたと一息つく間もなく、次の指示を出してくる。
(ったく…、説明もなけりゃ人使いも粗─)
キラリ
「おおぅ…!」
いよいよ一言言ってやろうかと考えが浮かぶも、何気なく見た並べた棒の先の輝きに、思わず感嘆の声が出た。
暗がりから持ってきた棒、この先についた金属の穂先。
それは思ったとおりに槍であったが、俺が持つ槍とは別物であることが素人目にも理解出来る。
だからといって物語の勇者が持つ剣のように黄金に輝いているわけでも、王家や貴族が家宝とするような華美な装飾がなされているわけでも無い。
むしろ見た目は良く言えば質実剛健、単純に言えば兵士の持つ量産品と変わらないシンプルさだ。
「何惚けてやがる、この程度数打ちの量産品だぞ?」
俺の感覚も捨てたものでないことが分かったが、並ぶ名品の数々(と言っても4本だが)をこの程度と言い切るガンキン。
物作りのドワーフと言われるだけあり、長年一級品を見てきたのだろう。
こういった人間と異なる感性が、根強く残る人間と亜人という人種の区別を生み出したのだろう。
「ま、お前さんの使ってる槍に比べたら、職人の槍はどれでも業物さ。」
どうやら感性がずれていたのは俺“も”だったらしい。
それは置いといて、ガンキンの言葉を噛み砕くと、それだけ一人前の職人と見習いの作品には差があるということだ。
(特に“これ”は投げ売りされてたやつだしな…。)
コンビに屋には確か、10万ゴールドほどで鉄製の槍も売られていた。
それが見習いの作品の本来の価格なのだろう。(そりゃ感覚も狂う)
「さて、好きなモンを選びな。」
「いや…俺は〈コンビに〉で売ってるので良いんだが?」
今使っている槍が限界を迎えたのは、そもそもの耐久性の低さと雑で過剰な使用によるものだ。
槍の扱いに慣れ、経済的にも余裕が出来た今、これまでのように根を詰めるつもりは無いので、見習い作鉄製の槍で十分だ。
見習い作の槍ですら、今まで使用していた槍の10倍の値段だというのに、それより上質だという職人作の槍など、数打ち品といえどどれ程の値段になるか分かったものじゃない。
「言っただろ?見習いの槍は間に合わせだって。
粗鉄の槍なんぞ槍と呼ぶのも烏滸がましい…。
それに買い換えを考えたらこっちの方が、最終的に安く上がる。
手前の命を預ける武具が上質で困ることなんかないぜ?」
そうか…俺は槍(のような物)で魔物を狩っていたのか…。
この事実を客観的に見ると、この一ヶ月俺は随分と自殺行為を重ねてきたらしいことが理解出来た。
(…幸運だったのかもな。)
今現在こうして大した怪我もなくいられることはそうとしか思えなかった。
…しかし今後もその幸運が続くとも思えない。
「命の値段…か。」
己の命を預ける武具の値段は、言い換えれば「己の命にどれだけの値段を掛けれるか?」という問いへの答えだ。
当然ケチれば対価は命になるわけだし、掛け過ぎても身の破滅に繋がるという難しい問題だ。
そしてガンキンは、俺の命は10万では足りないというヒントを示した。
これが武具商人だったら俺は信じないだろう。
だがガンキンは職人だ。
「…なあ。
ガンキンは俺の命にいくらの値を付ける?」
ヒントを信用するなら、いっそのこと任せて仕舞えば良い。
「そうだな…。
安く見積もって30万、アフターサービス付きでな。」
本当にガンキンは職人のくせに商売が巧い。
まだ換えな~い
因みに見慣れない武器
フランベルジュ、ウォーサイズ、ヌンチャク、三節棍、トンファー、マガジン、火縄銃、コンパウンドボウ
です。
ロマン武器スキーな作者。
次回 第18話『新たな武器』
お楽しみに!
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