184 周り 巡り 大回リ
Tips :『超三筋一体』
〈筋肉同盟〉モスキー・セップス・サイ3人のユニークスキル。読みは『スーパーマッスルフュージョン』。
その名の通り3人の身を一つの巨人(約6m)と化する奥義…という触れ込みだが、ぶっちゃけただの三人肩車。
しかし筋肉を侮る無かれ。
ふざけてる見た目ではあるがスキルとして昇華されているだけはあり、謎の強靭さと個々の時の約10倍のパワーを発揮する、奥義というに相応しい形態となっている。
このスキルの前身としてモスキーとサイによる『筋肉合身』(マッスルフュージョン)があるが、この形態は最大パワーが3倍が精々であり接合部が脆かった。
俺達とバトラーの間に出来た空白。
それはこの戦いにおいて、俺達が総出で抑えていたバトラーが、数秒の間完全にフリーになるということを意味していた。
(やられた…!)
いくらバトラーが強いとはいえ、数秒で全滅させられるような俺達では無い。
だが無傷で凌げる程甘い敵ではないのは痛いくらいに理解しており、1人2人の犠牲は覚悟しなければならない。
俺は浅ましくも自分がターゲットにされないことを祈りながらも、バトラーの攻撃に備え集中する。
だがそうしたのは俺だけに限らず、バトラーに迫っていた全員が似たようなものであった。
しかしそれは生物としての根本に根差した「防衛本能」(というらしい)による行動で、「人は誰しも自分の身が惜しい」等と非難されるものでは無い。
群れが生き延びるために1体が自ら犠牲になるという習性の魔物も多いが、俺達は味方であっても群れでは無い…ということだ。
そして生物として正しい行動は、戦いにおいて正しい行動とは限らない。
誰もが攻撃に備え、犠牲が自分にならないことを祈る。
バサッ!
「「「「「っ…!?」」」」」
結果として、「生き延びたい」という願いは全員が叶えた。
「ぐっ…、やってくれたな…!」
そう言って憎々しさを隠そうともせず、俺達を見下ろすバトラー。
俺達の攻撃が届かない上空に留まるバトラーの腰の辺りからは、〈洞窟蝙蝠〉のような羽根が生えていた。
(飛べたのか!?)
バトラーが空を飛んだ事に驚く俺であったが、実のところバトラーが浮いている高さは二階建ての建物の屋根より少し上くらい…地上から大体7~8m辺りだろうか?
十分〈ハンターボウ〉の射程内ではあるし、全力で跳べば刃が届きそうな前衛メンバーもいる。
しかし距離や攻撃の密度という点で、防がれてしまうであろうことは分かりきっている。
だが見たところ、バトラー側も身体の補修や羽根の形成で精一杯のようだ。
片や攻撃は全て防がれ、片や攻撃手段すら無い。
攻撃自体は可能なこちらが有利に思えるだろうが、俺達の目的を考えるとその考えは誤りだ。
「ワレをここまで追い込むとは…。
良かろう、誉めてやる。」
パチッ、パチッ
そう言って空中で拍手をするバトラーは、地を這う下等生物を嘲る笑みを再び浮かべていた。
この変化は不味い。
(何か…、奴に届く武器は─)
コツッ、カラカラ…
「っ…!」
俺がわたわたしている間にも、睨み上げるビルダーさん達に向かってバトラーは語る。
「だが所詮は下等生物…、空をも居場所と出来るワレらを殺すことなど─」
ヒュッ、パリンッ!
段々と熱を帯びる語り口に冷や水を浴びせるように、横合いから飛んで来た瓶がバトラーにぶつかって割れる。
ポタポタ…
「っ!…何の真似だ?」
一瞬顔を強張らせるも、すぐに表情を消したバトラーは下手人に問う。
「ちぇっ、〈回復薬〉は効かないのかよ…。」
下手人である…(確か)〈迷宮探索隊〉のメンバーの男は、バトラーの問いを無視してつまらなそうに呟く。
その呟きから彼が何を意図して、バトラーに〈回復薬〉を投げつけたのかが分かった。
「ふん…、小賢しい。
目の付け所は良かったが…この程度の薄い神気、ワレらには通用せんな。」
………、本当にそうだろうか?
もしバトラーの言っていることが本当だとして、それを態々教えてくるだろうか?
効かないことをアピールしてこちらの士気を下げるよりも、効いている振りをして回復手段を無駄に消耗させる方が有効ではないか?
それに散々聖水を掛けた武器で攻撃されても呻くくらいだったバトラーが、不意に瓶をぶつけられただけで表情に出るのだろうか?
一度疑えば、次々と浮かんでくる疑念。
ただ、バトラーの言葉を嘘だと断じ切れない理由もあって…
(〈回復薬〉に神気なんてもんが入っているのか…?)
〈回復薬〉を始めとしたいわゆる魔法薬は、基本的に素材の持つ効果を魔力で限界以上に引き出したもの…と言われている。
だが〈毒薬〉や〈麻痺薬〉といった素材の持つ効果の延長線にある魔法薬と比べ、〈回復薬〉はともかく〈ハイポーション〉や〈エリクサー〉の効果は異常だ。
しかし、瀕死の重傷を瞬時に癒したり、欠損部位を再生したりなども、神請魔法と同じ力が作用しているとするならば納得だ。
それに〈回復薬〉についてバトラーが溢した「薄い神気」という言葉、…やけに具体的ではないか?
「まぁ…ここまで虚仮にされて癪ではあるが、この場は退いてやろう。」
不味い、バトラーが逃げる気だ。
ヒューバートを操っていたことから、この街の一連の騒動はバトラーの暗躍があったのは確定だ。
色々な偶然が重なり〈悪魔〉が暗躍した割には被害が軽く済んだように思えるが、不作で情勢が不安定な今、〈悪魔〉が暗躍したらどれ程の被害になるかなど想像もしたくない。
「おいっ、逃げんのかよ!」
「っ、…戦略的撤退というものだニンゲン。
魔王様復活の暁には、今見逃されたことを後悔してもし切れぬ絶望と苦痛を味わうことだろう。」
バサ…
ポーションを投げた彼が挑発して留めようとするも、バトラーはそう吐き捨てると飛び去ろうとする。
フワッ…
その翻きによるものか、白夢の中の幻か。
甘い果実の匂いが過る。
(“ニガスナ”)
逃ガスカッ!
その瞬間、俺は脳裏に響いた音と衝動に従い、手にしていた魔槍をその背中に向かって投げた。
「『回転運動』ッ!」
伏線回収キターーーッ!!
そして微妙に締まらねぇ~…、えぇ…?(困惑)
次回の更新は10/20予定になります。
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