183 必死
Tips :〈チックポックリッチキン〉
別名〈臆病地走鶏〉。体高2~2.5m、体重130kg前後の白い羽毛で首の長い鳥系魔物。
鳥系魔物であるが翼は小さく飛ぶことは出来ず、代わりに鐘一つ(30分)で50kmもの距離を駆ける強靭な脚を持つ。
鳥系魔物では最大級の体躯を誇るが、別名が示す通り非常に臆病で、外敵が近づくと卵を産み落とし囮とし、その健脚を用いて逃走する。
チックポックリッチキンに気付かれぬよう背後から近づき、気付かれるまでの距離を競う「チキンポックリレース」という遊びがある。
この際産み落とされた卵と、驚き過ぎて死んでしまった個体の肉は、スタッフに美味しく頂かれる。
「止めろ下さい、死にました。」by 被害鶏一同
邪悪なるモノを滅するには銀製の剣が必須。
特に〈吸血鬼〉退治のお噺では、鉄や鋼の武器では有効打になり得ないというのは有名だ。
「ぐっ、ああぁ…ゴボッ!」
ボタボタッ…
しかし実際のところはというと、銀製の剣でなくとも十分に有効打たり得るらしい。
鳩尾から肺を貫通し左肩、背後から真っ直ぐ心臓目掛けて…の2ヶ所を刺されたバトラーは真っ赤な血を吐いた。
よく無慈悲で冷酷な人物を「血も涙もない〈悪魔〉」と揶揄するが…
ググッ…ブシュッ…!
「へっ!〈悪魔〉のくせに人間みたいな血だな?」
(「人間みたいな血」?………はっ!)
心臓に突き刺した剣の刃を更に深く埋め込みながらバトラーを嘲る〈殺戮野犬〉最後の1人の言葉を聞き、俺の脳裏にスカーと青騎士リーダーの最期の光景が過った。
「今すぐ離れて下さいっ!」
俺が口を開く前にそう発したのは、アデリナだった。
「あん…?」
「それは無理な相談というもの…っ、何を!?」
しかしアデリナの警告を聞いた〈殺戮野犬〉最後の1人は呆け、〈青き血の騎士〉最後の1人は首を横に振って“ご高説”を垂れようとした。
が、次の瞬間─
「舐めるな、下等生物ごときがっ…!」
グサッグサッ!
「がぁっ!?」
「くはっ…!?」
人間…いや、まともな生物であれば致命的な傷を負いぐったりとしていたバトラーが突然機敏に動き、黒い刺が〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉の最後の1人をそれぞれ貫いた。
油断…?いや、そうでは無い。
腐っても実力者である2人はリーダーを含め自分たちの仲間の悉くを殺した〈悪魔〉を、死にかけであっても十分に警戒していたと言える。
黒い刺の伸びる起点である手足は当然のこと、ヒューバートが失った手足の代わりにして以降行われていない影からの攻撃にも備える徹底ぶりだった。
ならば何故、2人共に易々と致命的な攻撃を許してしまったのか?
「んなトコからとか…!?有り、かよ…。」
「こんなところで…!私はっ、わたし…は……。」
事切れた2人を貫く、黒い刺。
それはバトラーの左肘と右膝辺りから伸びており、バトラーが2人から受けた攻撃を前後左右を反転させて再現しているかのようであった。
(…いや、弄んでいるのか…!)
偽の吐血で致命傷を装い「倒せる」と思わせてからの、自分が受けた攻撃に似せた方法での殺害。
殺された当人は決して知ることは無いが、端から見ていた俺たちには、バトラーの意思がはっきりと伝わってくる。
“お前達の攻撃は大したものでは無い。”
ドクンッ…!
俺がそう感じたことを正解だとでも示すように刺が脈動し、刺された死体は干からびる。
ズル…
そしてバトラーは自らの身体に刺さったままであった剣を引き抜くと、血の一滴も流れないポッカリと穴が空いた傷口を回復させ─
「………む、傷が再生せん…?」
また振り出しに戻るかと、どうすればバトラーを倒せるのかと、軽く絶望が俺たちの間に過った。
しかし何らかの糸口を得られればと様子を伺うも、バトラーの身体に空いた穴に変化は訪れなかった。
「…聖水か、小癪な…!」
罠に嵌めた下等と蔑む生物の思わぬ置き土産に、忌々し気に吐き捨てるバトラー。
〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉の置き土産と言ったものの、単にアンデッドと戦った際の残り香のようなものであろう。
言うなればバトラーの自滅であるが、〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉が独断専行しなければ発覚はもっと遅れていただろう。
そして連合を組むパーティーの大半はダンジョン探索を主としているとは言え、御守り代わりに〈聖水〉を持っていないメンバーはいない。
それは〈ラビリンス〉の冒険者の精鋭全員が悪魔に対して有力な手段を持っていることと同義で、つまり─
「全員で畳み掛けろっ!!」
「「「「「オオオオッ!」」」」」
こうなる。
「このっ…、下等生物共があアアァッ!!」
グワァッ…!
バトラーは手足を分裂させ更には背中からも黒い触手を生やし、連合メンバーの人数以上の数を以て俺達を迎え討つ姿勢。
しかしバトラーの上げる雄叫びは真に迫っており余裕などは感じられず、逆に俺達に対する恐れを含んでいるように感じるのは気のせいでは無い筈だ。
「「「ハアアァッ!」」」
ドスッ…!ブスッ!
矢が、槍が、〈悪魔〉の身体を穿つ。
「「「オオオオォッ!」」」
ズパッ!ザンッ!
斧が、剣が、〈悪魔〉の触手を断つ。
「アアアアッ!?」
〈悪魔〉は苦痛の声を上げながらも、削れた身体を触手で補う。
しかしその行為は、むしろ身体が削られるペースを早めるだけだ。
「『火球』ッ!」
ボシュッ!
「スゥ…」
パシュパシュッ…!
ボォオオッ!
「ぐぁっ、目が!?熱いぃぃっ…!」
ニーニャに目を撃ち抜かれ、マリ姉の魔法で燃やされ、バトラーはその場で火を消そうと転げ回る。
「ヨシッ、止めだっ!」
ビルダーさんの号令で、欠片の油断も無い精鋭達が〈悪魔〉に殺到する。
その中には当然、俺もいた。
ギラッ…!
聖水に濡れる誰かの武器の刃が、使い手の殺意を反射する。
次の瞬間─
「クッ…、『アアアア』ァッ!!」
ドンッ!
バトラーが苦し紛れに放った、何らかのスキル。
全周囲に放たれた衝撃は間近に迫っていた俺達を押し下げ、俺達とバトラーの間に数mの空白地帯を作った。
今回のTips は何故かふと浮かんだネタです。
特に深い意味はありません。
次回、決着。
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