178 此れにて一件…
Tips:〈賢者の搭〉
〈魔導国家ワイスマンス〉に聳え立つ、珍しい登板型のダンジョン。
主に出現する魔物は〈スライム〉や〈ポルターガイスト〉等の魔法生物系、〈ゴースト〉や〈ワイズマミー〉等のアンデッド系。
ドロップアイテムは各魔物の素材に加え、魔法が封じられた〈スクロール〉や〈魔導書〉。
このダンジョンがあったから〈魔導国家ワイスマンス〉が出来たとも云われ、元は大陸中の書物を蒐集していた魔導士の住処だったというが…。
ヒューバートへのトドメという、任された大役。
連合メンバーのその信頼を俺は…、裏切ってしまった…?
「おおっと、手が滑った。」
そう言って弓を下ろす男の「してやったり」という顔を見ても、何故が怒りが湧かなかった。
「下がれラスト!」
唖然とする俺に、ビルダーさんから指示が飛ぶ。
「っ!」
ズバッ、バッ!
反射的に跳び退った俺は、せめてもの土産として槍を振るう。
神気を纏った穂先は実体化した影を然程の抵抗も無く斬り裂き、ヒューバートの左触腕を落とすに至る。
「アアアアッ!?」
両腕を根元から失い、身体を仰け反らせて叫ぶヒューバート。
スゥ…
地面に落ちた触腕は、ダンジョンの魔物を倒した時のように解けるように消えてしまう。
…どうやら、元が実体の無い影であっても、無限に再生するといったことは無さそうで、一先ず安心だ。
「ラスト、良くやった。」
と…俺がヒューバートの様子を観察していると、いつの間にか近寄って来ていたビルダーさんに声をかけられた。
「ビルダーさん…でも、俺…すみません。」
「気に」
「へっ!チョーシ乗ってっから外すんだろ?」
頭を下げた俺に何かを言いかけたビルダーさんを態々押し退け、顔にでかい傷痕のある厳つい風貌の男が俺を鼻で嗤う。
「スカー、それはお前の手下のせいだ。」
革鎧の肩にトゲを生やした集団を後ろ指で指し、珍しく敵意満載のビルダーさんがそう断言した。
「そりゃすまねぇな?
だから…、オレらがセキニン取ってあいつをブッ殺してやんよォ!」
ダッ!
「「「「「「ヒャッハー!」」」」」」
「抜け駆けは許さんぞ!
手柄は高貴なる我らのものだ、〈青き血の騎士〉我に続けぇ!」
「「「「うおおおっ!」」」」
ガチャガチャ
スカーという名前らしい傷痕顔の男を筆頭に、スカーと似た格好の集団ともう1パーティー。
無駄に装飾の凝った装備の容姿だけは整っている、貴族出身者で構成されたらしきパーティー。
この2パーティー12名が、両腕を失い死に体の手柄へと殺到して行く。
「ちっ、〈殺戮野犬〉の奴らめ…!」
苦々しい顔で、そう吐き捨てるビルダーさん。
…どうやらあの2パーティーが、ビルダーさんが「実力はあるが難有り」として連合から除外したパーティーなのだろう。
グシャッ、ドカッ!
「ガアッ、ウグッ…!」
「オラオラ~ッ!どうしたバケモン、弱いぞ!」
ズバッ、ブシュッ…!
「イギッ!?グゥゥ…!」
「我の剣の錆となること、光栄に思って死ね!」
ビルダーさんの見立ては正確で、戦いの様子を見れば一目瞭然だった。
痛めつけることが目的かのようなそれは、戦いというよりも集団暴行というものであった。
「邪魔だ、退けぇ~ッ!」
「貴様らこそ去ね!」
そしてたった一つの功績をめぐり、争い始める〈マーダードック〉と〈青き血の騎士〉。
7対5と〈青き血の騎士〉がやや不利かに思われるが、〈殺戮野犬〉はスカーのワンマンに近いらしく、スカーがヒューバートに掛かりきりの今、押されているのは〈殺戮野犬〉達の方だった。
「グ…、グラァアアァッ!!」
そんなことをしているうちに、圧力が弱まったヒューバートは力を振り絞って咆哮を上げた。
ズルズルッ…!
するとヒューバートの足に変化が現れ、今は失われた腕同様…いやそれ以上の本数に分かれた。
その姿は話に聞いて想像する、海に存在するという〈多足海魔〉のようであった。
フッ…
土煙を残し、その場から姿を消すヒューバート。
「なっ、消えた!?」
「何処だ、何処にいる!?」
「上だっ!」
狼狽える〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉に、見かねたビルダーさんが警告を発した。
ヒューバートは強靭な十数本の脚を使い、一瞬で空高くまで跳躍していたのだ!
「上だ、って…」
「どうしろというのだ!」
ビルダーさんの発した警告にも、空高くの標的に対する手段が無い2パーティーの動きは鈍い。
対する俺達…連合メンバーは、嫌な予感を感じ取り即座に端に退避する。
この行動が明暗を分けた。
ヒュッ…、ズドドドドッ!
「ぐぇ!」
「ガハッ…!」
「うっ…!?」
「「「ギャアアッ!」」」
ヒューバートの鋭く伸びた脚が、空から修練場へと広範囲に渡り突き刺さる。
〈殺戮野犬〉の2人と、〈青き血の騎士〉の1人が運悪く鎧の隙間を貫かれ、そして未だに何も出来ずその場にいた冒険者から3人。
合わせて6人が犠牲となった。
しかし、元より満身創痍のヒューバートの足掻きもこれで終わり。
性格に難があろうが実力者であることに変わりは無く、〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉に全ての脚を叩き折られたヒューバート。
「ヒュー…、ヒュー…、ナ…ンデ?。
ボクハ…カハッ!サイキョウ二…ナッタノ…ニ。」
四肢を失い地面に転がったヒューバートは、虚ろな目でうわ言を呟く。
「雑魚は雑魚だから雑魚なんだ、よっ!」
ヒューバートにトドメを刺そうと、ナイフを振り下ろすスカー。
キンッ!
「その役目は我のものだが?」
スカーのナイフを剣で弾いたのは、〈青き血の騎士〉リーダー。
「あ?高潔な騎士サマが獲物の横取りか?」
「それは此方の台詞というもの、…野犬に道理は分からんか?」
互いのパーティー名を指し、挑発し合うリーダーの2人。
ヒューバートとの戦いで更に1人減った〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉のメンバー達も睨み合いを始めた。
「待て、ヒューバートの身柄はギルドが預かる。」
そこに割って入って来たのは、メリィさんに支えられたギルマスであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




