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農家のデブ三男、兄に実家を追い出されて街で冒険者始めたらモテ始めました!?  作者: FURU
4章  迷宮都市と越冬

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178 此れにて一件…

Tips:〈賢者の搭〉

 〈魔導国家ワイスマンス〉に聳え立つ、珍しい登板型のダンジョン。

 主に出現する魔物は〈スライム〉や〈ポルターガイスト〉等の魔法生物系、〈ゴースト〉や〈ワイズマミー〉等のアンデッド系。

 ドロップアイテムは各魔物の素材に加え、魔法が封じられた〈スクロール〉や〈魔導書〉。

 このダンジョンがあったから〈魔導国家ワイスマンス〉が出来たとも云われ、元は大陸中の書物を蒐集していた魔導士の住処だったというが…。

 ヒューバートへのトドメという、任された大役。

 連合メンバーのその信頼を俺は…、裏切ってしまった…?


「おおっと、手が滑った。」


 そう言って弓を下ろす男の「してやったり」という顔を見ても、何故が怒りが湧かなかった。


「下がれラスト!」


 唖然とする俺に、ビルダーさんから指示が飛ぶ。


「っ!」

ズバッ、バッ!


 反射的に跳び退った俺は、せめてもの土産として槍を振るう。

 神気を纏った穂先は実体化した影を然程の抵抗も無く斬り裂き、ヒューバートの左触腕を落とすに至る。


「アアアアッ!?」


 両腕を根元から失い、身体を仰け反らせて叫ぶヒューバート。

 

スゥ…

 

 地面に落ちた触腕は、ダンジョンの魔物を倒した時のように解けるように消えてしまう。

 …どうやら、元が実体の無い影であっても、無限に再生するといったことは無さそうで、一先ず安心だ。


「ラスト、良くやった。」


 と…俺がヒューバートの様子を観察していると、いつの間にか近寄って来ていたビルダーさんに声をかけられた。


「ビルダーさん…でも、俺…すみません。」


「気に」

「へっ!チョーシ乗ってっから外すんだろ?」


 頭を下げた俺に何かを言いかけたビルダーさんを態々押し退け、顔にでかい傷痕のある厳つい風貌の男が俺を鼻で嗤う。


「スカー、それはお前の手下のせいだ。」


 革鎧の肩にトゲを生やした集団を後ろ指で指し、珍しく敵意満載のビルダーさんがそう断言した。


「そりゃすまねぇな?

 だから…、オレらがセキニン取ってあいつをブッ殺してやんよォ!」

ダッ!

「「「「「「ヒャッハー!」」」」」」


「抜け駆けは許さんぞ!

 手柄は高貴なる我らのものだ、〈青き血の騎士(ノーブル・ナイツ)〉我に続けぇ!」


「「「「うおおおっ!」」」」

ガチャガチャ


 スカーという名前らしい傷痕顔の男を筆頭に、スカーと似た格好の集団ともう1パーティー。

 無駄に装飾の凝った装備の容姿だけは整っている、貴族出身者で構成されたらしきパーティー。


 この2パーティー12名が、両腕を失い死に体の手柄(ヒューバート)へと殺到して行く。


「ちっ、〈殺戮野犬(マーダードック)〉の奴らめ…!」


 苦々しい顔で、そう吐き捨てるビルダーさん。

 …どうやらあの2パーティーが、ビルダーさんが「実力はあるが難有り」として連合から除外したパーティーなのだろう。


グシャッ、ドカッ!

「ガアッ、ウグッ…!」

「オラオラ~ッ!どうしたバケモン、弱いぞ!」


ズバッ、ブシュッ…!

「イギッ!?グゥゥ…!」

「我の剣の錆となること、光栄に思って死ね!」


 ビルダーさんの見立ては正確で、戦いの様子を見れば一目瞭然だった。

 痛めつけることが目的かのようなそれは、戦いというよりも集団暴行(リンチ)というものであった。


「邪魔だ、退けぇ~ッ!」

「貴様らこそ去ね!」


 そしてたった一つの功績(パイ)をめぐり、争い始める〈マーダードック〉と〈青き血の騎士〉。

 7対5と〈青き血の騎士〉がやや不利かに思われるが、〈殺戮野犬〉はスカーのワンマンに近いらしく、スカーがヒューバートに掛かりきりの今、押されているのは〈殺戮野犬〉達の方だった。


「グ…、グラァアアァッ!!」


 そんなこと(仲間割れ(?))をしているうちに、圧力が弱まったヒューバートは力を振り絞って咆哮を上げた。


ズルズルッ…!


 するとヒューバートの足に変化が現れ、今は失われた腕同様…いやそれ以上の本数に分かれた。

 その姿は話に聞いて想像する、海に存在するという〈多足海魔(スキュラ)〉のようであった。


フッ…


 土煙を残し、その場から姿を消すヒューバート。


「なっ、消えた!?」

「何処だ、何処にいる!?」


「上だっ!」


 狼狽える〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉に、見かねたビルダーさんが警告を発した。

 ヒューバートは強靭な十数本の脚を使い、一瞬で空高くまで跳躍していたのだ!


「上だ、って…」

「どうしろというのだ!」


 ビルダーさんの発した警告にも、空高くの標的に対する手段が無い2パーティーの動きは鈍い。

 対する俺達…連合メンバーは、嫌な予感を感じ取り即座に端に退避する。


 この行動が明暗を分けた。


ヒュッ…、ズドドドドッ!


「ぐぇ!」

「ガハッ…!」

「うっ…!?」

「「「ギャアアッ!」」」


 ヒューバートの鋭く伸びた脚が、空から修練場へと広範囲に渡り突き刺さる。


 〈殺戮野犬〉の2人と、〈青き血の騎士〉の1人が運悪く鎧の隙間を貫かれ、そして未だに何も出来ずその場にいた冒険者から3人。

 合わせて6人が犠牲となった。


 しかし、元より満身創痍のヒューバートの足掻きもこれで終わり。

 性格に難があろうが実力者であることに変わりは無く、〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉に全ての脚を叩き折られたヒューバート。


「ヒュー…、ヒュー…、ナ…ンデ?。

 ボクハ…カハッ!サイキョウ二…ナッタノ…ニ。」


 四肢を失い地面に転がったヒューバートは、虚ろな目でうわ言を呟く。


「雑魚は雑魚だから雑魚なんだ、よっ!」


 ヒューバートにトドメを刺そうと、ナイフを振り下ろすスカー。


キンッ!

「その役目は我のものだが?」


 スカーのナイフを剣で弾いたのは、〈青き血の騎士〉リーダー。


「あ?高潔な騎士サマが獲物の横取りか?」


「それは此方の台詞というもの、…野犬に道理は分からんか?」


 互いのパーティー名を指し、挑発し合うリーダーの2人。

 ヒューバートとの戦いで更に1人減った〈殺戮野犬〉と〈青き血の騎士〉のメンバー達も睨み合いを始めた。


「待て、ヒューバートの身柄はギルドが預かる。」


 そこに割って入って来たのは、メリィさんに支えられたギルマスであった。

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