176 第2.5形態
お久しぶりです!
本日よりぼちぼち更新を再開していきます。
(期間が開き過ぎて自作を読み返す作者の図)
即席で結成されたレイド、その作戦会議…というよりは行動方針の擦り合わせに掛かった時間は僅か数分。
…もしくは、ヒューバートへの攻撃が止んだため、方針の擦り合わせくらいしか出来なかったというのが正しいか。
「「「「「はぁ…はぁ…。」」」」」
その間攻撃を続けていた八光流の一行は、体力を使い果たし荒く息を吐いている。
しかし戦闘における数分というのは決して短い時間では無く、その間攻撃を続けられた彼らは称賛されるべきだろう。
「はぁ…はぁ…、…殺ったか?」
「…あれだけの攻撃だ、肉片一つ残らんだろう。」
「ふっ…、我々の本気にかかればこんなものだ。」
「だが強敵だったのは事実。
この後は、汗を流して冷えたエールで乾杯だな!」
「…俺、帰ったら師範の娘さんに告白する。」
…まぁ、称賛を受けるのも生き延びられたらの話。
よくもここまで見事に、フラグというものを乱立させられたものだ。
「…こりゃ無駄だったかもな?」
ただ、レイドメンバーの誰かがそう呟くくらいには5人組による攻撃は凄まじかったのも確かである。
その威力たるや、下手な軍隊であれば簡単に殲滅されていたことだろう。
…だが敵は人の軍隊では無く、最低でも Cランクの魔物である。
………、ムクリ
「………、んん…?」
案の定、もうもうと立ち込める土煙の中で影が揺れる。
そして土煙が落ち着いて薄れてくるに従い、その影が人形をしていることが分かってきた。
「んなっ…!」
「馬鹿な!」
「あり得ない…!」
「立ち上がった…だと…!?」
自分たちの予想に反した結果に、八光流一行は口々に驚愕の言葉を漏らす。
サッ
「(チッ、…今の内に動くぞ。)」
サササッ…
対して、この結果をある程度予想していた俺たち冒険者連合は、舌打ちをしたビルダーさんの合図を受け素早く散開。
カチャ…サッ、サッ
「(〈標準騎士団〉、配置完了。)」
サッ、ササッ
「(〈迷宮探索隊〉、位置に着いたぞ!)」
流石はベテランのビルダーさんも認める、実力派パーティー。
特に〈標準騎士団〉はどうやっているのかは不明だが、鎧に金属部分があるにもかかわらず立てた音は僅かであった。
「ラス君、この辺よ。」
「分かった、合図を出す。」
サッ、サッ
先に配置の完了した2パーティーに遅れること数秒、俺たち〈白の大樹〉もヒューバートの背後に着いた。
一番遠回りの配置だが、一番ヒューバートの不意を突き易い場所を譲って貰った形だ。
ビルダーさんを含む〈筋肉同盟〉は、一番危険な正面に留まった。
流石に真正面からは外れているが、それは作戦上無意味だからであり、決して漢気が損なわれるものでは無い。
スウ…
各パーティーの配置完了の合図を受け、ビルダーさんが左腕の拳を上げる。
事前の打ち合わせでは、この10秒後に一斉に遠距離攻撃を仕掛ける予定だ。
「カウント、9…8…」
アデリナによる静かなカウントダウン。
「スー…、ハー…」
4パーティーの内唯一攻撃魔法を使えるため、最大火力を期待されるマリ姉は緊張を解すために深呼吸を。
スチャ…
「………。」
ニーニャはいきなりの実戦となってしまうが、入手したてのダンジョン産魔猟銃を膝立ちで構える。
グッ
俺も遠距離からの一斉攻撃後、すぐに飛び出せるように足に力を込める。
「…、5…、4…」
あと3秒。
ボヒュッ…!
「「「「っ…!」」」」
もうすぐ攻撃…といったタイミングでかなり薄まった土煙を吹き飛ばし、黒い何かが飛び出す。
その何かが伸びる先には、体力の回復を図る八光流一行。
ドスッ…!
「がっ!?、はぁっ…!」
…ドォオォンッ!
一人が腹を突き刺され、そのままの勢いで修練場の壁に突っ込んで行った。
「トゥライッ!?」
自信家な性格が災いしてか、トゥライという名の彼は反応出来ずに犠牲となった。
だがそれだけでは終わらない。
ボヒュッ!
「2…、1…ッ」
バラッ
もう1本の黒いそれが上に向かって飛び出すと、その先端が細く5本にバラける。
サッ!
「(射てっ!)」
ヒュルッ!
ビルダーさんが腕を振り下ろすのが早いか、バラけたそれがしなるのが早いか。
パシュッ!
ヒュヒュッ!
空気の抜けたような発射音と同時に魔力弾が着弾し、続いて三方向からの矢。
バシンッ!
「ぅばっ!?」
「…うわぁあっ、腕があぁ!!」
叩きつけられた黒い鞭は、また一人を頭の先から股にかけて真っ二つに別つ。
…もう一人、幸か不幸か即死を免れはした者がいるが、片腕が肩口から千切れ飛んでいて、処置をしなければそう時間を置かず死ぬことだろう。
「っ…!」
思わず駆け出そうとするが、これから起こるであろう戦闘を優先しグッと堪えたアデリナ。
そんなアデリナを視界の隅で捉えつつ、万を持してマリ姉の『火球』が命中する瞬間を見守る。
ボンッ!
見事命中した『火球』の爆風が、薄まりながらもしつこく残っていた土煙を吹き飛ばす。
ブワッ…!
「「「「っ~!?」」」」
そして姿を現したヒューバートを見て、その悍ましさに俺達は総毛立った。
ウゴウゴ…
僅か10数秒で腕利き2人の命を奪い、1人に致命傷を負わせた黒い何か。
ヒューバートの手足の位置で蠢くそれは、『魔化』したヒューバートの攻撃手段である影が実体化した触手であった。
手足だけに限らず胴体や頭の一部も実体化した影に置き換わっていることから、八光流一行の攻撃で致命傷に近いダメージを受けたことが伺える。
しかし…。
「アァ…イマノハイタカッタ、イタカッタナァ…。」
そう片言で呟き、ケタケタと嗤うヒューバート…だったモノ。
ダメージなど無いかのようなその様子を見て、絶望を滲ませた声で誰かが呟いた。
「不死身だってのかよ…、この…バケモノがっ…!」
最早、魔物から逸脱した“それ”。
バケモノという罵倒が案外的を射た言い方だ…などと、俺は現実感の無い頭で思ったのだった。
期末…計画遅れ…追い込み…残業…
ウッ、アタマガ…
『達成出来ない計画など、無計画と同じ!!』
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