172 いつの間にやら勝ち抜き戦?
Tips :冒険者ギルドの決闘システム
粗忽者が多い冒険者ギルドにおいて、冒険者間のトラブルは日常茶飯事である。
だからと言って、私闘を容認していては利益より損害が大きくなるのは明らかである。
ということでギルド内での私闘は固く禁じられており、罰則も基本がランクの降格と重い。
しかしトラブルの解決のために、ギルドでは申請された決闘は例外として公認されている。
ギルドが私闘を禁じている手前一度許諾が降りた決闘には、申請された決闘内容に反していない限りという条件がつくものの他者の介入は認められていない。
この“他者”には、当然ながらギルドも含まれている。
※要は「ギルドで喧嘩するなら家主に伝えてね」っ
てこと。
ルールを課した以上、ギルド側も譲歩する必要が
あるわけですね。
目の前で行われた異常事態の衝撃からいち早く復帰したのは、やはりというか流石というかギルドマスターであった。
しかしまだ動揺が酷かったのか、ギルドマスターは通常では有り得ないミスを犯す。
「…ヒューバート、何故殺した…?」
尋常では無い威力の蹴りを披露したばかりのヒューバートに対し、ギルドマスターは普段冒険者達を説教する時のように『威圧』しながら咎め立てる。
「何故って…、それこそ何故なんです?」
ヒューバートは『威圧』を向けられたことに僅かに不機嫌な様子になりながら、質問には答えず逆にギルドマスターに尋ねた。
「っ、質問を質問で返すんじゃない!
今は私が貴様に聞いているんだっ!」
上司として…また貴族に連なる者として、一介の冒険者風情に嘗められプライドが傷ついたギルドマスター。
また以前よりヒューバートが重ねていた無礼もあり、遂に堪忍袋の緒が切れた。
「はぁ…、決闘の承認をしたのはギルマスでしょう?」
今回申請された決闘の内容は、男が決めたように「殺し有り」であった。
…確かに過程に残虐な行為があったが、ヒューバートは何らルールに反していないのだ。
残虐な行為に関しても特に禁じられてはおらず、むしろ男はヒューバートを痛め付ける気満々だったのは言うに及ばず。
咎められるべきは、ルールに反して決闘に介入しようとしてきたギルドマスターの方だった。
ヒューバートの言葉はそんな、ルールを定めた側のトップが進んでルール違反を犯すという事態を咎めていた。
貴族であるギルドマスターがヒューバートの言葉に含まれる意味に気付かない筈も無く、自身の失態を挽回しようとしたギルドマスターは取ってはいけない選択を口にする。
「貴様っ…、もう容赦はせん!
私を侮辱したこと、我が王国剣術を以て後悔させてくれる…!」
そう言うと、自らの剣を抜き放つギルドマスター。
ギルド職員が決闘をしてはいけないというルールは無い。
この瞬間、この一連のやり取りはギルドによる決闘への介入では無くなり、それでも異例となる決闘二連戦へと変貌したのであった。
─ ラスト視点 ─
決闘の承認をする側のギルマスが、一介の冒険者に決闘を仕掛けるという異例な事態。
しかし野次馬の冒険者達はアウトに限りないギルマスの行為に反発するよりも、いくらルール内とはいえ平気で人殺しを行ったヒューバートが制裁されることを期待した。
貴族のコネでギルドマスターに就任したとはいえ、荒くれ者の多い冒険者を抑えるために「全く戦えない」ということは許されない。
…極端に言えば武器を適当に振り回しているだけの冒険者よりも、しっかりとした剣術を習った者の方が強いのは当たり前のことだった。
実際ギルマスはそれなりに善戦したようで、ヒューバートの自己申告を信じるならば、全力の半分と全力の間くらい(つまり全力の7割強か?)の実力は発揮させたらしい。
…というのが、洩れ聞こえた野次馬冒険者達の話を繋ぎ合わせて把握した経緯だ。
そして現〈冒険者ギルド・ラビリンス支部〉のトップクラスの実力者であるギルマスが倒されたことで続いて挑む者がおらず、俺たちが到着した際のヒューバートの煽り口上に繋がる…というわけだ。
(いや、ギルマス何してんだ!?)
ヒューバートがどれ程の無礼を働いたかは知らないが、それでトップが倒されていては更に混乱を招くだけだ。
現に、ラビリンス支部の次の代表格候補に名が挙がるパーティーもちらほらと発見したが、互いに様子見をしているようで動きがない。
(協力し合えば、制圧出来そうなものなんだが…。)
最初は確かに決闘で介入不可能だったのだろうが、今のヒューバートは野次馬を煽るなどしていて明らかに暴走している。
こうなれば鎮圧しても構わないのだろうが、その判断を下し号令を掛けるギルマスが倒れたことが、ここで悪影響を及ぼしているのだ。
「やれやれ、何ぞ邪な気に呼ばれて来て見れば…。
いやはや、力に溺れた若僧が良く吠えるものよ。」
そう言って、尻込みしている冒険者達を押し退け、白い髭を伸ばした小柄な緑色の肌の老人がヒューバートの前に出る。
その老人の後ろには、老人の着ているものと揃いの胴着を着た体格の良い青年達が続く。
(どっかの道場の一行か?)
揃いの装備を着用する冒険者パーティーも珍しくは無いが、彼らは冒険者とはまた違った雰囲気をかもし出していた。
俺はてっきり冒険者達のみが集められたと思い込んでいたが、どうやら戦いを生業とする者も誘い出されているようだ。
「…老い先短い命なんですから、そんなに死に急がなくても良いんですよ?」
若僧と貶されたヒューバートは、貶してきた老人と同様に年の頃で貶し返す。
「このっ…!」
「師範様を馬鹿にするかっ!?」
「武を汚す粗忽者の分際で…!」
師を貶され、いきり立つ門下生達。
「鎮まれ、皆の衆。」
しかし老師は門下生達を収め、朗々と語る。
「理解しようともせん者に説く道は無し。
頭の無い輩は獣と同じ、なれば獣同様に躾るが道理。」
その言葉を乱暴に要約するならば、「口で言っても無駄だから、痛め付けてしまえ。」と言ったところか…。
老師の言葉を理解出来た者は顔を顰めるが、大半の冒険者達は頭上に疑問符を浮かべていたため埋没する。
(こういうトコ、なんだろうなぁ…。)
主に“貴族に”ではあるが、蔑まれることの多い冒険者。
そのことに文句を言う冒険者はそれ以上にいるわけだが、この光景を見ると自身も冒険者であるが「なるべくしてなった」と言わざるを得ない。
「まぁ、我らが武を披露するには丁度良い。」
俺がサンドフォックス顔になっている間に、老師の口上は佳境に入る。
「“八光不敗流”が四席、『無刀』ヨーグ…参るっ!」
次の瞬間、ヒューバートに緑の軌跡が迫った。
マスター・ヨーグ!?
※宇宙的念力は使いません。
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