170 元凶を探せ!
Tips :『魔王』の封印
『古の勇者』により討たれたとされる『魔王』。
しかし実際は完全に滅ぼすには至らず、『古の勇者』は自らの武具を触媒に、『古の魔女』と『古の聖女』の協力を経て『魔王』に強固な封印を施した。
しかしいくら強固な封印とて、時の流れの中で劣化は避けられない。
そこで『古の勇者』たちは封印の上から、星の魔力の流れ…いわゆるレイラインの魔力を利用した、封印を自動修復する魔法を重ね掛けしたのだった。
この二重の封印は『魔王』復活の糧となる穢れた魔力をも遮断し、いずれ『魔王』を完全に滅する。
………筈であった。
ギルドに入って来る前は確かに多数の気配を感じたのだが、実際ギルド内にいたのはメリィさんただ一人。
「…や、やあ、メリィさん。」
ひとまず普段通りに挨拶をしてその場を濁そうとした俺だったが、謎のプレッシャーに口が上手く回らない。
結果として、心掛けとは正反対な態度となってしまう。
「はい、おはようございます~皆さん方~。」
しかしメリィさんは気にする様子を見せず、俺がそうしたかったように、普段と変わらない挨拶を返してきた。
「…おはよう、メリィさん。
ところで、他の職員はどうしたのかしら?」
俺がアテにならないと察したマリ姉が前に出て、ストレートな質問をメリィさんに投げ掛ける。
マリ姉は剣呑な目を隠そうともせず、メリィさんに警戒していることを伝えていた。
「それが~…あちらで決闘が始まって直ぐ、一部職員を除いて皆さん逃げ出してしまいまして~…。」
その一部の職員…この支部のギルマスを始めとした元冒険者の職員も決闘が行われる修練場に行ってしまったため、日常業務が滞っている。
…と、メリィさんは困った顔で話した。
また、メリィさんは俺たちのように後からギルドに訪れた冒険者に同じ説明をしているようなのだが、話を聞いた冒険者たちは揃って修練場に向かうのだとか。
もう明らかに、洗脳の影響を受けている。
…そう考えると普段と変わらない様子のメリィさんが怪しく思えるのだが、洗脳を解除した俺たちに再び洗脳の影響がでる様子は無く、メリィさんが犯人である可能性は低い(?)
しかし今は“犯人が誰か?”よりも、犯人の“目的が何か?”が重要だ。
「(………、どう思う?)」
可能性は低いとはいえ、犯人かもしれないメリィさんの前で堂々と相談するのも何か違う。
というわけで、せめて小声で皆に意見を求める。
「(…市民の皆さんは逃げ出して、冒険者の皆さんは逆にギルドに集まっていますね?)」
いち早くそのことに気づいたのは、アデリナ。
「(…でも何で冒険者を集めるのかしら?)」
目的に言及するのは、当然ながら(?)マリ姉。
………確かに、洗脳で冒険者をギルドに集めてまでして、一体何をしようというのか?
「(…どっかに攻め込んだりするつもりか?)」
「(なら普通に傭兵を雇えば良いじゃない。)」
半ば冗談とはいえ、俺の意見はすぐさまマリ姉に否定される。
「(いや…、傭兵を雇う金が無いとか…ゴニョゴニョ)」
一応それらしい理由を挙げてみるが、戦争するにはそもそも頭数が足りなさ過ぎる。
「(………生贄、でしょうか…?)」
アデリナがぽつりと、恐ろしいことを呟く。
「(そんな馬鹿な…、………マジで?)」
アデリナのお茶目な冗談だと笑い飛ばそうとする俺だったが、こういった時バッサリと切ってくるマリ姉が真剣に考え込んでいるのを見て、俺はマリ姉がその可能性を高く考えていることを察した。
“生贄”と聞けば邪悪な儀式がイメージされるが、邪悪といえば『魔王』が思い当たる。
「(………、それって不味いじゃんか!?)」
『魔王』復活が予言され、異世界の「勇者」までもが召喚されているのが現在だ。
まさか、『魔王』が封印された地でもない〈ラビリンス〉で復活の儀式(?)を行うとか、犯人は色んな意味で馬鹿ではないか!?
しかし万が一を考えたら、今すぐ阻止に動いた方が良いのではないか?
「(ええ、それはそうね。)」
「(大勢の人々の犠牲を看過することなど出来ません!)」
「(悪い人?…やっつける!)」
完全にそのつもりだと断定してしまっているが、まぁ…街規模の洗脳などをしている時点でまともではないことは確かだ。
逃げて済む話なら明らかな危険に飛び込むことなど無いのだが、これは洒落にならない。
阻止できるなら阻止に動いた方が、結果的には安全なのだ!
…と、俺は自分に言い聞かせ、推定“『魔王』復活を目論む悪人”が罠を張る(と思われる)、冒険者ギルド〈ラビリンス〉支部修練場に、仲間と共に踏み込むのだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
踏み込む…とは言いつつも、実際は罠を警戒して慎重に動く。
通い慣れたギルド内でソロソロと行動していると、なんだか自分たちが罪を犯しているように錯覚してしまう。
が、今はそんなことを気にしている場合ではない。
(これは任務、これは任務、これは任務。)
心の中でそう繰り返すことで、修練場の入り口に着く頃にはしっかりと心構えが完了していた。
「(…良し、行くぞ…!)」
入り口で一旦止まり、合図で一斉に修練場に侵入する俺たち。
「って、何だぁ…?」
侵入と同時に攻撃されることを覚悟していた俺は、隙間が見当たらない冒険者の人垣に面食らう。
パッパパッ
俺は思わず“集合”のハンドサインを出す。
「(…なぁ、これって俺たちの勘違いか?)」
素早く集まって来た皆に、早速俺は訊ねた。
「(………、それらしい“仕掛け”は無いみたい。)」
「(…邪気は多少濃く感じますが、異常という程では…。)」
マリ姉は魔法的に、アデリナは神職的にそれぞれ問題が無いことを確認した。
…そう言えばメリィさんは決闘がどうとか言っていたが、この人垣は単なる野次馬だとでも言うのか!?
「(じゃあ、本当に俺たちの勘違いだったのか?)」
だとしたら、俺たちに掛かっていた洗脳系の魔法は何だったというのか?
ピクッ
「何か…、嫌な感じ。」
ここでニーニャの直感に反応があった。
「あれ、もう終わりですか?
たかが元荷運びに手も足も出ないとか、散々見下してた癖に悔しく無いんですかぁ?」
直後聞こえた、煽り文句。
ザワッ…
(っ!、これは!?)
同時に感じた悪寒。
…この決闘はどうやら“まとも”なものでは無かったようだ。
主人公VSヒューバート(イキった姿)
ファイッ?
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