169 汚染
Tips :〈古代の童話の羊皮紙片・起〉
古代の遺跡やダンジョンの宝箱から稀に発見される劣化した羊皮紙の一部。
劣化により判読が困難なものがほとんどであり、古代文明の研究者や遺物コレクター以外には売れず、冒険者には価値の無いゴミとして棄てられることも多い。
この羊皮紙片に書かれているのは、どうやら童話の一部らしい。
以下が判読された部分から復元された内容。
『あるところに、世界一大きく立派な王様が治める国がありました。
ある時その国に狂暴な魔物が現れ、多くの村が滅びました。
困った王様は“魔物を倒した者には、どんな望みも叶える”と御触れを出しました。』
マリ姉の知らせを受けて急いで装備に身を包み、〈白の大樹〉はギルドへと街を駆けた。
その道中に職人ギルド直営店があったので、ダンジョンで喪失した〈薄金の大盾〉の代わりに〈薄鋼の盾〉を購入。
防御面積が小さくなったにもかかわらず、むしろ重量を増したことに不満が残る。
しかし総鋼製なだけあり防御力はかなり高く、繋ぎとして考えるなら上々だ。
途中、やけに大荷物だったり荷車に家具を満載した住民とすれ違ったが、ギルドが見えてくる頃には、まるでギルドのある一帯がもぬけの殻になってしまったように人の気配が無くなっていた。
おそらく、ギルドで起こっている騒ぎに危険を感じ逃げ出しているのだろう。
つまり途中ですれ違った大荷物の人々は、財産を持ち出して避難が遅くなった住民ということだ。
にしても、一帯の住民が根こそぎ避難するような大事が起こっているにもかかわらず、遅れて避難してきた人々が無事というのも変な話だ。
そして何より、「ギルドで大変なことが起きている」という話を又聞きしただけでマリ姉のあの焦り様は不可解だ。
(…っても、俺も焦ってんだよなぁ。)
マリ姉の様子に違和感を覚えているにもかかわらず、当の俺も「急いでギルドに向かわなければならない」という謎の焦りを感じている。
そしてギルドに急行するという俺の判断に、ニーニャやアデリナも疑問を覚えた様子は無い。
自ら危険に出向こうとするなど、普段の俺の思考では無い。
焦りが大部分を占める頭の片隅で、冷静な俺が原因はギルドにあると警告を発している。
(くそっ、一体ギルドで何があるってんだ!?)
そう、俺は内心で毒づく。
そして問題のギルドが見えてきた。
「ん?…、うぅん?」
遠目から見てなんとなく分かってはいたことだがギルドの入り口前まで近づいても、ギルドの建物の外観からは特に異常が見受けられなかった。
外から見ても異常が無いのであれば、ギルド内で何か…例えば大量殺人が起きていたりというパターンが想像出来る。
しかしここまで近づいてもニーニャが何も言わないあたり、ギルド内で惨劇が起きている可能性も低い。
むしろギルドからは大勢が集まっている気配が感じられ、もぬけの殻となった街の一角の中では異様な雰囲気だ。
………だからといって一大事と言って良いかは、俺には甚だ疑問だったが…。
「…行きましょう。」
(えっ!?ちょ…。)
そう言って、意を決した様子のマリ姉が入り口に向かう。
大概が冒険者活動歴の長いマリ姉の意見に従うとはいえ、マリ姉がパーティーの行動を決めるのは珍しい。
切羽詰まっている状況ならまだしも、慎重にならざるを得ないこの状況でのマリ姉の専行。
普段ならパーティーで相談するようなことであるにもかかわらず、アデリナやニーニャまでもがマリ姉に従う様子に、流石の俺も違和感を見逃すのは難しい。
「待ってくれ!
…アデリナ、状態異常解除の魔法はあるか?」
「え?…はい。
我らの迷いを晴らし給え、『明瞭』」
突然制止を促した俺のオーダーに、アデリナは戸惑いながらも神請魔法を行使する。
パァ…!
アデリナが祈りの印を組む手から光が飛び出し、俺・マリ姉・ニーニャ…そしてアデリナ本人の頭に命中する。
スゥ…
途端に、頭に掛かっていた靄が消え失せ、思考がはっきりとしたのが分かった。
そしてその感覚は、より重度だった3人には衝撃的だったのだろう。
「嘘…。
………まさか、『洗脳』?」
「…いえ、『思考撹乱』の類いですね…。」
「むぅ…、変な感じ。」
本来そういったことに耐性のある筈のマリ姉とアデリナの魔法使い組は愕然とし、そういったことに疎いニーニャは単純に奇妙がっている。
「しかし、これでギルドで起きている異常がはっきりとしたな?」
誰が何の目的でそんなことをしているのかは不明だが、程度はともかく『洗脳』のような真似をするなど立派な敵対行為である。
結果は同じであっても、敵に誘われるのと自らの意思で突入するのとでは大違いだ。
「…でも、一体何時から?」
洗脳が解けたことで無謀な突入は避けられたが、代わりにいつもの癖が出てしまっているマリ姉。
「マリ姉、それは後にしてくれ!」
おそらく知らせを持って来た頃には既に影響されていたのだろうが、今はそれを論じていても仕方ない。
俺たちは既に敵が誘っていたギルド前にいるのだ、何時直接的な攻撃をされるか分からない。
「…っ、ええ…そうね!」
「「…っ!」」
俺が注意したのはマリ姉だったが、ニーニャとアデリナも気を引き締めた様子。
本来街中ではあり得ない、完全なる臨戦態勢。
「…よし、行くぞ…!」
俺は皆を見渡してそう言うと、盾を構えながらギルドのドアをソッと開けた。
そしてそこには…っ!
「すみません~、ギルドは本日臨時休業になります~。
…って〈白の大樹〉の皆さんでしたか~。」
ガランとしたギルド内。
ポツンと一人カウンターに座ったメリィさんが、いつもの様子で俺たちを迎えたのであった。
異常の中にある通常ってある意味ホラーじゃね?
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




