168 「AorB ?」に「All !!」って答える奴
Tips :〈ハンターボウ〉
主に冒険者が使用する、対魔物を想定したショートボウの一種。
森林や洞窟などでの取り回しが考慮されており、弓幹は60~1m未満と非常に短い。
最大射程は10mと弓というのも烏滸がましい短さだが、前衛との連携や使い手の練度を理由に5m前後で立ち回るのが冒険者達のベターとなっているので問題は無い。
諸々の長さを捨てた代わりに弓幹は〈ショートボウ〉に比べ3倍程の太さになっており、射程内であれば十分に魔物を殺傷可能な威力が出る。
また万が一接近された際には棍棒としても使える程に頑丈であり、弓幹の先に槍の穂先を付けて短槍として使用している剛の弓使いも存在する。
〈ハンターボウ〉使いに「〈ショートボウ〉で良くね?」は禁句である。
………禁句である!
… … … … … … …。
… … ォン… 。
…。
「…ん?」
どこか遠くから轟音が聞こえてきたような気がして、ふと目が覚める。
ふにっ
「んっ…、スゥスゥ…。」
………隣にはアデリナが生まれたままの姿で、まだ寝息をたてている。
カーテンから洩れた陽の光に照らされ髪がキラキラと輝く様は、アデリナの美貌と相まって宗教画のような神々しさを感じる。
…アデリナを除くと部屋には俺しかいない、というのもそう感じる理由かも知れない。
マリ姉とニーニャはどうしたって?
昨晩はダンジョンから帰還した疲れがあるだろうということで、マリ姉とニーニャには別室で休んで貰ったのだ。
あ~…一応弁明しておくと、アデリナとは“必要に駆られて”である。
より詳しく説明するならば、アデリナの“魔化”対策だ。
アデリナに掛けられた『魔化の呪い』というのは魔力を消費することで効果を現し、アデリナは〈サキュバス〉と化することで消耗した魔力を回復し人間に戻る。
(〈サキュバス〉が吸収するのは正しくは“精気”というらしいが、説明はまた今度。)
以上を踏まえて、アデリナはダンジョンで、ビルダーさんを蘇生するために大量の魔力を消費した。
ダンジョンマーケットやギルドでは耐えていたようだが、宿の部屋に入ったところで魔化の兆候が出たのだ。
そうなるととても休めたものではなく、責任を取ると言った手前、協力を拒否するなどあり得ない。
勿論、ヤるからには精気だけでなく愛情も込めさせて貰った。
〈サキュバス〉なアデリナも結構だが、やはり恥じらいながらも俺を受け入れるアデリナは最高に愛おしかった。
というか、アデリナに限らずマリ姉やニーニャもその都度最高に愛おしさを感じている。
(…リタは元気にしているだろうか?)
ふと、今は離れているもう一人の最愛に思いを馳せる。
そろそろ冬も真っ只中になる、寒さで風邪など引いていなければ良いのだが…。
春になれば一旦リタの待つ〈ベビーリーフタウン〉に帰る予定ではあるが、一度思い浮かべてしまうと会いたくなる。
早く春にならないかと意味も無く気持ちが急くが、この時の俺はアデリナの紹介という重要なことが頭からすっぽ抜けていたのであった。
「んっ…、ぅう~ん…。」
俺が起きてしばらく。
眠っているアデリナに悪戯したい衝動に耐えていると、艶かしい声を出しながらアデリナが起き上がる。
「おはようさん、アデリナ。」
しかしアデリナはまだ寝惚けているようで、起き上がったことで身体にかかっていた毛布がずれ落ちたことに気付いていない。
このまま無防備なアデリナを眺めていたいが、その気持ちをグッと堪えながら声をかける。
「ラストさん…?
…あっ、おはようございます…。」
ササッ
声を掛けられ目が覚めたのか、尻すぼみな挨拶を返しながらも、手繰り寄せた毛布で身体を隠すアデリナ。
羞恥で肌をほんのり紅に染めながらもこちらをチラチラと伺う初心な仕草をするアデリナを見て、俺は何故男が女性に清純を求めるのかの真理の一端を理解したような気がした。
「………あ~…、調子はどうだ?」
アデリナの様子に釣られたのか、質問一つするだけでもギクシャクしてしまう。
慣れの問題かに思えるかも知れないが、リタの時はここまで緊張した覚えは無いので、やはりアデリナの雰囲気が関係しているのだろう。
じゃあリタが清純では無かったのかというと、そういうことでは無い。
リタは清純さよりも、緊張を感じさせない人懐っこさが魅力として大きいのだ。
貴族が清純を尊ぶからといって、平民がそれを真似たところで滑稽というもの。
そもそも清純を尊ぶ筈の貴族の男が娼館に通いつめたり、隠し子だ何だといった騒動が絶えないあたり、清純であることは魅力の一つでしかないと行動で証明しているようなものだろう。
結局俺は娼館の世話になる必要は無くなったが、貴族でさえ篭絡するアレコレを体験出来ないのは少し惜しいような気もする。
(…あれ?アデリナと初めてシた時はかなり─)
「はい、問題無いみたいです。」
とここで俺の質問に対するアデリナの返事により、とっ散らかっていた思考が中断される。
とりあえず、アデリナの魔化の兆候は治まったようで一安心だ。
「そうか…。」
先ほど思いついた「〈サキュバス〉なら本能的に、プロのお姉さん方の技を身につけているのではないか?」という説の確認は、残念ながら暫くお預けのようだ。
…いや、魔化する程に魔力を消耗するということは、誰かがそれだけ怪我をするということで、間違っても待ち遠しく思ってはいけない。
それにアデリナ自身は魔化することを良く思っていないことは明らかで、興味本位で頼むのは今の段階ではデリカシーが無さ過ぎる。
「…どうかしましたか?」
俺から邪なものでも感じたのか、怪訝そうに訊ねてくるアデリナ。
「いや、なんでも無い。
…それより今日空いてるか?」
誤魔化す時は「自分に疚しいことなど無い」といった態度が重要だ…と、子供の頃酔ったおっちゃんらに聞いたことを実践するのは今。
ついでに、アデリナの今日の予定を訊ねてみる。
今日はダンジョンから帰還した翌日のため、〈白の大樹〉は休養日だ。
普段だとアデリナは教会に行くことが多いようだが、思い切ってデートに誘ってみるのはどうだろうか?
やむを得ずという切欠ではあったものの、親睦を深めて不都合なことは無い筈だ。
決して、話を逸らすための出任せでは無い。
………、俺に疚しい考えなど無いっ!(キリッ)
「…えっと、まあ…特に用事はありませんね。」
俺の努力(?)が功を奏し、また都合の良いことにアデリナの予定は空いていたようだ。
まぁ…予定を空けてくれた感じもあるが、せっかくなので遠慮はしない。
「えっと…じゃあ、この後俺と──」
ドンドンドンドンッ!
「「っ!?」」
俺がアデリナに「街を歩かないか?」と提案しようとしたところ、部屋のドアが激しく叩かれる。
「ラス君、アデリナ、起きてる!?
ギルドが大変なことになってるみたい!!」
尋常では無く焦ったマリ姉の声。
どうやらアデリナとのデートはお預けになってしまったようだ。
四章もいよいよ大詰めです。
(ここまでで60話ってマジ…?)
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




