167 ハインリッヒ? ※別視点
あああぁ~っ!?予約ミスってたあぁ~っ!
というわけで、Tips (←?)
Tips :〈マーカス・ロングボウ〉
弓幹の両端にリム(滑車)が付いた新型弓。
公的文書に初めて使い手として記された憲兵の名から取られた通称が、正式名称となった。
特徴は何と言っても弓幹の両端のリムであり、これにより軽い力で威力の高い矢を射つことが出来る。
その威力は条件にもよるが、〈ショートボウ〉の※直射対人殺傷距離であれば金属鎧すら貫通する。
従来相性の悪い重装歩兵を完全に無力化するポテンシャルを秘めていたが、生産性や整備性がかなり悪化しているため程々の普及に留まった。
しかし配備先が弓の名手や精鋭弓兵部隊だったりと他の要因が多分に関わるものの、〈マーカス・ロングボウ〉により討たれた将や強者は数知れず。
とある世界でコンパウンドボウと言われる弓に酷似している。
※本作独自の概念
平均的な人間の男性弓兵が真っ直ぐ狙った際、一般的な布の服を着た人間を殺傷可能な最大距離。
〈ショートボウ〉だと大体30mくらい?
射ち下ろしや曲射はまた別で、直射が最短。
ラスト達、〈白の大樹〉がそそくさと去った後のギルド内。
報酬の分配に憤慨していた男のは、ラスト曰くの「まともじゃない分配者」が自身の怒りをそよ風程度にも感じていない様子を見て、その怒りのボルテージを上げていく。
「────ッ!────ッ!
────────ッ!」
男は口汚く分配者を罵るが、野次馬となった探索者達は罵倒には「聞くに堪えない」といった様子を見せるも、それを抜きにすれば分配者よりも男に同情する雰囲気だ。
そのことに己の有利を確信してか、男は再度テーブルを叩き更なる挑発の言葉をかける。
ドンッ!
「さっきから黙り決め込みやがって、今更ビビってんのか?」
「………。」
分配者──元荷運びで現在は悪魔使役者を自称するヒューバートは、何も言わず…かといって恐れた風でもなく男を冷めた目で見上げる。
ヒューバートの使役する〈悪魔〉も同様に、ピクリともせず主人の後ろに控えたまま。
「ぅ…何か言ってみろよ、オラァッ!」
ガンッ、ガシャーンッ!!
どちらか、はたまた両方か。
気圧され一瞬辟易ろいだ男は、そのことを誤魔化すようにテーブルを蹴り飛ばす。
食事しながら報酬の分配を行おうとしたのだろうか?
ほぼ手付かずで冷めていた料理が散乱し、温くなった酒が床を濡らす。
ザワリッ!?
暴力沙汰一歩手前の行動に、巻き込まれまいと僅かに遠巻きにする野次馬達。
一部に乱入の隙を伺う好戦的な者が見受けられるのは、探索者含む冒険者が「粗暴」と蔑まれて然りといったところか。
「………。」
「………、フゥ…。」
ピリピリとした一触即発の空気の中、「面倒だ…。」と言いたげな気の抜けたタメ息を吐くヒューバート。
そして今までの沈黙を破り、漸く口を開いた。
「“貰えるだけありがたいと思えよ、愚図が。”」
開口一番、ヒューバートが放った言葉は罵倒だった。
その物言いに、男は自分が挑発していたことなど忘れて食って掛かる。
「テメッ、誰が─」
「自分が言ったことだろう?」
しかしヒューバートは男の言葉を遮り、男が言ったことを言い返しただけだと宣う。
「……ハァ?」
勢いが削がれた男は散々吐いた罵倒を思い返すも、その言葉には思い当たらず侮蔑を含ませながら首を傾げる。
「“雑魚のくせに逆らうな。”」
「“お前の代わりなんか、いくらでもいる。”」
「“探索者止めちまえ。”」
「“ゴブリンの方が役に立つんじゃないか?”」
「「「「「………。」」」」」
何かをなぞるようにヒューバートの口から次々に飛び出す言葉に、ポカンと口を開けて呆ける野次馬達。
“何かをなぞるように”?それもそうだ。
何故ならばこの心を折らんとする数々の罵倒…これらは荷運び時代、ヒューバートが〈ラビリンス〉の探索者達に実際に投げ掛けられたこれらなのだから。
ここで誰かが頭を下げていれば、この後起こる災禍はギリギリ回避されたのだろうか?
しかし日頃から冗談交じりに罵倒し合う冒険者達にそんなことが分かる筈もなく、ヒューバートから得体の知れない不気味さを感じて嫌悪感を募らせる。
ただの野次馬でそうなのだから、罵倒の対象となっている男3人の心情は如何ほどか?
そして…遂に引き金となる言葉が、ヒューバートの口から放たれた。
「“文句があるなら相手になるぜ?”」
「乗ったあぁっ!!」
報酬の分配の件に加え、口を挟む間も無く罵声を浴びせられ怒りの限界を迎えていた男は、ヒューバートが口を滑らせたと思い込み即座に叫んだ。
(偶然悪魔を従えて調子に乗りやがって…!
“身の程”ってのを教えてやるっ!)
「っ…ふぅん、…本当にやる?」
男が内心で気焔を上げていることなど気付いていないかのように、ヒューバートが男に問う。
余裕を見せるヒューバートだったが、男は目敏くヒューバートが一瞬動揺していたことに気付いていた。
「ったり前だ、ナメ腐りやがって!」
確かに〈悪魔〉には敵わない。
そんなことは、いくらイラついたところで分かっている。
だからこそ先ほどまでは、いくら罵倒されようとも歯を喰い縛って耐えていた。
だが、もう我慢する必要は無い。
(おれは短気だが、伊達に探索者やってねぇんだ!)
男は短気故に数多の喧嘩を経験してきた。
そしてダンジョンで遺物を手に入れ、調子に乗る他の探索者もそれなりに見てきた。
(こういう奴は決まってポカをやらかすんだ…!)
突然力を手にした奴は、真正面からはどうやっても敵わない。
しかし力に頼り切り故に、探せばいくらでもボロが出る。
「………、はぁ…良いよ。」
男が決して降りないと理解したヒューバートは、渋々といった様子で勝負を了承した。
(よしっ、こいこい…。)
男はまず第一段階をクリアしたことに歓喜し、続いてヒューバートが自ら“やらかす”のを期待する。
「じゃあどうやって勝敗を決める?
なんなら、そっちが決めたルールにする?」
(よし、勝った!)
考えうる最高のパターンを引き、男は勝利を確信する。
しかし男はナメられて怒り狂っているという表情を崩さず、プライドやら何やらを捨て去った条件を口にする。
「なら…、おれとお前の1対1の殺し有りだっ!
命乞いなんか聞かねえ、精々後悔して死ね!」
男が勝てないと思っているのは、あくまでもヒューバートの使役する〈悪魔〉だ。
〈悪魔〉さえいなければ、ヒューバートは以前と変わらず雑魚のまま。
しかし3対1ならともかく、1対1の上他ならぬヒューバートがルールを決めて良いと言ったのだ。
形式上は対等な条件のため、ギルドが介入出来ないギリギリを突いたルールだった。
力に溺れたバカが、ポカをやらかして死んだ。
男とヒューバートの勝負は、そんなありふれた結末の一つとして埋もれる。
…筈だった。
世界の一大事は何気ない日常の事件から始まる…。
的な?
オリ武器考えるの楽しいです♪
次回のTips は〈ハンターボウ〉です。
コラそこ、「また弓?」とか言わない!
お楽しみに!
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