166 野生の筋肉×3が現れた! ~予感~
今回もTips 無し!
俺のメリィさんへの報告を遮り、ビルダーさんを勧誘してきたのは3人の筋肉。
一見細身の優男に見えるが、全身の筋肉が鍛えられていることが分かるロン毛がセップス。
太ももや脹ら脛といった、下半身の筋肉を鍛えていることが目立つ束状髪はサイ。
ビルダーさん並みの筋肉、腕の筋肉だけなら上回るであろう丸刈りがモスキー。
俺たちが訊ねてもいないにもかかわらず、彼らは謎のポーズを取りながらそう名乗ったのだった。
「おう、お前らか。
相変わらず仲間が集まらんのか?」
(何だ?コイツら…)と俺が思う間も無く、彼らを知っているらしきビルダーさんは軽く挨拶をする。
一時期クランの頭を張っていただけあって、見た目からして《絶対正義の力》に所属していたであろう〈筋肉同盟〉とは知り合いのようだ。
「あん?」
しかし向こうは勧誘した相手に軽んじられたとでも感じたのか、軽く凄んでビルダーさんを威圧する。
いくら傷が無くなり若返っていて俺の貸したシャツをぴっちり着ていても、元自分たちが所属していた団体のトップに気づかないなどあるのだろうか?
(………あ~…、しょうがないか…うん。)
初見の時を思い返してみると、今と比べるとビルダーさんと〈筋肉同盟〉の関係性では気づけ無いとの結論が出る。
何故なら、初見時と現在のビルダーさんを比べた時、蛮族の頭領から爽やかマッチョ中年へと印象がかなり変わっているのだ。
「…それで~、〈絶対正義の力〉がどうかしたんでしょうか~?」
俺がビルダーさんと〈筋肉同盟〉のやり取りを見てそんな風に思っていると、メリィさんが俺の用件を聞き返してきた。
既に報告がされているとは言っても、複数の筋からの報告で情報の確度を高めるのは必須ということだろう。
しかし残念なことに、俺が今からする報告は先に報告された内容と正反対になる内容なのだ。
「俺たち〈白の大樹〉は〈絶対正義の力〉と合同でダンジョンの探索中、〈絶対正義の力〉メンバーのハッチ・ウッド・ヘルトゥス3人の裏切りにあった。」
「ええっ!?」
話の切り出しから、いきなり先の報告と大きく違っていたのだろう。
メリィさんの出した驚愕の声にいくらかの注目を集めたことを感じながら、俺は人形スライムたちのことを除き、ダンジョンであったことを順に話していく。
「わっ、ちょっと待って下さい~っ。」
ガサゴソッ
淡々と話される全く異なる報告に、慌ててメモとペンを用意するメリィさん。
「…ど、どうぞ~。」
「─────────────────────。」
とりあえずの記録の用意を完了したメリィさんに促された俺は、最初から先ほどよりもゆっくりと報告をした。
時折マリ姉やアデリナが補足したりしていたので要点は押さえられてはいるだろうが、それでもメモは複数枚に及んだ。
「───以上だ。」
カリカリカリカリ、カリ
「………ふぅ~…。
ご報告ありがとうございました~…。」
ヘロヘロとカウンターに突っ伏すメリィさん。
その様子を見て若干の罪悪感を覚えなくもないが、それも受付嬢の仕事なので頑張ってもらう他無い。
それにギルドではこの後、相反する報告についてどう情報の裏通りをするかについて頭を悩ませることになるだろう。
しかしそんなことは、一冒険者である俺が考えることでは無い。
それよりも今俺たちが考えなければならないのは、ギルドからどう脱出するかである。
今は俺たちの報告を耳にして静まりかえったようなギルド内だが、それが解けたら報告に信頼性を持たせるため話した〈エリクサー〉に関して、職員・探索者問わず根掘り葉掘り聞き出そうとしてくるのは明らかだ。
ビルダーさんを蘇生させるために使用済みで現物はもう無いとメリィさんには報告したが、万が一諦めの悪い奴にまさぐられでもして〈エリクサー〉が見つかったら大変面倒なことになる。
下手したら国と国の争いになりかねない。
「伝説の蘇生薬」の発見とは、それだけの衝撃があるのだ。
今俺たちが持っている〈エリクサー〉を取られて終わりという単純な話ならまだしも、アデリナの件があるので今はまだ国やらに目を付けられるわけにはいかない。
それに…、ダンジョン帰りで皆も疲れている。
(どうやれば穏便に退散できる…?)
不思議なことに今は謎の膠着状態にあるため、こうして考え事が出来ている。
しかしこれは、森で殺戮熊と人が互いに不意に遭遇したようなもの。
この場合、逃げ出す側の人は俺たちである。
少しでも身動ぎをすれば、次の瞬間待っているのは死だ。
待っていても向こうが正気になれば同じこと、時間は俺たちの味方じゃない。
かと言って俺たちに出来ることはなく、最終手段は結局面倒事だ。
(何かこう…良い感じに、近くでトラブルでも起きないもんか?)
その俺の願いが届いたのだろうか?
ギルド内に併設された酒場、その奥の席で騒ぎが起こる。
ダンッ!
「ふざけんなよっ!
これがおれ達3人合わせた分け前だと!?」
テーブルを叩き割る勢いで叩き、いきり立った男の手には銀貨が3枚。
一人あたり銀貨1枚の分け前とは…余程成果が振るわなかったか、報酬を分配する奴がまともじゃない。
(だが今は都合が良い…!)
報酬の分配という自分たちにも降りかかるトラブルであるからか、俺たちを伺っていた探索者の注目が移る。
職員もギルド内でのトラブルということで、後始末を考えて嫌な顔をしたり、ハラハラと心配そうな様子でトラブルを起こしたパーティーを見ている。
「(皆、今のうちに…!)」
俺は小声とハンドサインで、マリ姉たちにギルドからの退去を促す。
(誰だか知らんがグッジョブだ!)
トラブルの切欠となった分配人はもちろんのこと、騒ぎを起こした男に俺は今だけは感謝する。
そういうスキルでも使っているのか騒ぎを起こした男に妙に注目が集まっており、感情のまま喚いているように見えて、その実アピールの上手い男だ。
(去らばっ…!)
トラブルの行方は気になるものの、今は戦略的撤退が優先だ。
…ということで俺たち〈白の大樹〉は、無事ギルドを脱することが出来たのだった。
「“〈白の大樹〉は”」?
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