165 迷宮悲喜交々
Tips 無しです。
プロットの空白が難産過ぎる…。
ダンジョン入り口からしばらく歩くと、冒険者ギルド〈ラビリンス〉支部の建物が見えてくる。
ギルド非公認の2つのクランが幅を利かせていた際は溜まり場扱いだったギルドだが、クランが解体されたことで正常な姿を取り戻しつつあった。
しかし今遠目から見る限りだと、〈第6層〉の解禁によるダンジョンアタックラッシュの影響もあってか、人の出入りが激しく慌ただしい雰囲気だった。
ギルドに入っていく中には、戦利品らしき物を抱え笑顔のパーティーと、成果を得られず悔しげなパーティー、人数を欠き暗い顔のパーティーの大体3パターン。
ギルドを出ていく中では、明らかに長期の活動を見越した荷物を持った装備の整ったベテランパーティーか、装備とも言えないような粗末な装備の…おそらく孤児などの貧しい出の子供のパーティーが“おこぼれ”を狙ってダンジョンへと出立して行く。
(………、…止そう。)
孤児パーティーのメンバーの体格とあの装備では、ゴブリン1体に遭遇しただけでも危険であることは明らかだった。
俺は呼び留めようか迷った末、黙って彼らを見送る。
彼らは危険を承知で、放置されているとはいえ“獲物の横取り”という、ルール違反スレスレの行為を選んだのだ。
そんな彼らの末路は、無事に素材を得て帰って来る、素材を得られなかったが無事に帰って来る、素材を得たが誰かを欠く、素材を得られず誰かを欠く、全滅の何れかだ。
痩せ細った数人の子供を無理矢理止めることなど容易いが、その場合無事に素材を得られた可能性を俺の一存で潰すことになる。
そうなると俺は彼らに対して、何らかの責任を取らなければならないだろう。
仮に彼らが独り立ちするまで面倒を見ることになってもマリ姉たちは何だかんだで協力してくれるのだろうが、俺たちも目的がある身でそんな面倒を負ってなどいられ無い。
非情に思えるかもしれないが、こういったことには軽い気持ちで手を出してはいけないのだ。
「…ん、どうした?」
後ろを見たまま立ち止まっていた俺を、ビルダーさんが見咎める。
「いや、彼らの無事を祈ってた。」
「無事って…?チッ、バカガキ共がよ…。」
一瞬何のことか分からなそうな顔を見せたビルダーさんだったが、俺の視線を追い孤児パーティーの背中を見つけると、苦々しい顔をして悪態を吐いた。
…その悪態が本当に向けられた先は、果たして言葉通り孤児パーティーだったのか?
答えはビルダーさんの心の内に秘められ、俺には知る由も無い。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
ギィ…、ザワザワ…
冒険者ギルドお馴染みのスイングドアの蝶番を軋ませて中に入ると、大勢が集まっている場所特有の喧騒に迎えられる。
しかしいつもであれば、ここ最近のトラブルの中心である俺たちに視線を向けるパーティーがいくつかはいるのだが、今の出入りの激しさでは一々気にしていられないのか俺たちに向く視線は無かった。
「次の方どうぞ~、…あら~ラストさんたちでしたか~?」
空いた受付に滑り込むと、そのカウンターでは丁度メリィさんが働いていた。
慌ただしいギルド内において唯一のほほんとしているメリィさんの様子を見て、他の受付には数人並んでいるにも関わらずここが空いていた理由を察する。
「帰還報告と、少ないが素材の売却を頼む。」
ダンジョン内の道中、取れる魔石も小さく討伐報酬も微々たるものであるゴブリンなどは放棄されていたが、オークの魔石やゴーレムのドロップ品などが棄てられていることはさすがに無かった。
魔石はともかくゴーレムのドロップ品であるインゴットは荷物になってしまうが、遺物は確実に手に入るわけではないことを考えると当然のことだろう。
俺たちもその例に漏れず、数本の鉄インゴットと中サイズの魔石を持ち帰ってきていた。
俺たちは我先にと突入して行った先発組のおかげで魔物が掃討された中の探索となったのだが、長時間の探索で戦うこととなった、新たに発生したらしきゴーレムのドロップ品である。
「探索の成果はどうでした~?…って、聞くまでもなさそうですね~。」
作業をしながら遺物は見つかったかと訊ねてきたメリィさんだったが、俺たち…特に装備が明らかに変わったマリ姉を見て答えを察したらしい。
「ああ、マリ姉の装備一式と魔猟銃を見つけた。」
正しくはアデリナのメイスもそうなのだが、発見した遺物の報告の義務は無いため、また3つも遺物を得たとなるとやっかみが酷くなりそうなので、目立つ〈白魔女シリーズ〉と魔猟銃だけの報告に留める。
…まぁ、装備一式に高価な武器の魔猟銃はどちらか一つでも大当たりの部類になるため、メイス一つを隠したところで…という話だが。
「遺物を2つもですか~!?
…それはそれは~、おめでとうございます~。」
俺の報告に驚きで目を丸くするメリィさんだったが、すぐになんとも気の抜ける祝福をしてくれた。
この切り替えの早さが受付嬢としての意識故かマイペースな性格故かは、俺には後者のように思える。
それはさておき。
入手した遺物から話を逸らすのも兼ねて、もう一つ…多分ギルドとしてはこちらの方が重要であろう報告をするとしよう。
「…それと、合同で探索していた〈絶対正義の力〉についてなんだが…。」
「それについては報告が上がっていますね~…。
…そう言えば、そちらの方は何方でしょうか~?」
俺が話を切り出すと、やはりハッチの野郎が報告していたのか残念そうにするメリィさん。
しかしダンジョン帰りに見知らぬ人物を連れている俺たちを見て、訝しげな表情をして訊ねてくる。
「ああ、そのことなんだが─」
「アンタ、良い筋肉してるな!
どうだい、アンタも〈筋肉同盟〉の仲間にならないか!?」
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