161 復…、活……?
Tips :〈洋上都市国家ルーイェ〉
アルペジオ大陸西端沖のとある火山島に、マーマンにより建てられた単一種族国家。
〈科学主義国家サイエンスフィア〉所属の実験鉄甲艦〈プロト・ホエール〉により近年発見された。
火山島であるため農作は自国の消費が賄える程度だが、柑橘類の栽培や漁業ついでに真珠の養殖が盛ん。
またここ数年は〈魔導国家ワイスマンス〉を経由しない海上輸送の中継地としても栄え始めている。
住民の間では、「ルーイェは一定周期で浮上と沈没を繰り返している」と伝えられている。
故に今は海上都市国家なのだ、と。
モデルは当然…
おそらく“それ”は、俺たちがもう少し冷静であれば気付けたことなのだろう。
しかしそれは既に起こってしまったことであり、今は未熟を嘆いている場合では無い。
………。
…とか深刻そうに語ってはいるが、実を言えば些細と言えば些細なことでしかないのだが。
結果として、一度原形の無くなったビルダーさんの身体は、外見的には心配していたような欠損なども見当たらず、完璧に人の姿を取り戻したと言える。
ただ…一目見て“蛮族”という印象を与える身体中にある古傷までもが癒されたからか、もうすぐ冒険者が現役を退く40手前といったビルダーさんが30前後まで若返ったように見える。
もしこれが本当に若返っているとして、筋肉が全く衰えているように見えないあたり、随分と都合の良い若返りだ。
これで記憶などにも問題がなかった場合、ビルダーさんは“引退間近の経験を持った肉体的にも仕上がった冒険者”となることだろう。
何故俺がここまで詳細にビルダーさんの身体について語れるのかって?
…まぁ、それはマリ姉とアデリナが悲鳴を上げた理由でもあるのだが…。
考えてみて欲しい。
人の身体が原形を留めないほどに潰れた時、身に着けていた装備はどうなるか?
金属鎧は当然のこと、ある程度柔らかい革鎧も破壊されてしまうことだろう。
衣服として使えそうなのは、鎧下に着る布の衣服くらいだろう。
そこでビルダーさんの格好を思い出して欲しい。
ビルダーさんは上は素肌に直に革鎧、下はパンツを履いてないことは無いだろうが、ズボンは金属補強された革製のものだった。
というわけで、ビルダーさんの装備でまともに残ったのはパンツ1枚のみ。
そしてさすがの神請魔法でも、肉体を元に戻せても装備の状態までは戻せないようで…。
つまり、はっきり言ってしまえば─
蘇生されたビルダーさんは“全裸”だったのだ!
………とまぁ、こんなオチである。
アデリナはともかく、マリ姉は慣れているだろうと言いたいところだ。
が…いくら慣れていようが、不意を突かれては悲鳴の一つも上げるだろう。
俺も村にいた頃、夜中に便所に行って脱走していたスライムを踏んづけた時なんかは、翌日村で会う人会う人に睨まれるレベルの悲鳴を上げた。
因みに、スライム脱走の原因は、俺の前に便所を使った奴が便所穴の蓋をしていなかったからだった。解せぬ。
それはさておき。
ちょっとした事故があったが、マリ姉もアデリナも悲鳴を上げはしたものの既に落ち着いた。
「ん…、ぅん?………俺は、確か…。」
そして目を覚ますビルダーさん。
「ビルダーさん、とりあえずこれを。」
「お?………、あぁ…。」
まだ頭が混乱しているようなビルダーさんに、俺は自分の荷物から毛皮を渡す。
血塗れになってしまうが仕方ない。
落ち着いたとはいえ、マリ姉たちの前でビルダーさんをそのままにしておくわけにはいかない。
ニーニャもいることだし…って、今更とか言ってはいけない。
「ビルダーさん、どこまで覚えていますか?」
混乱がある程度治まったとみたアデリナが、俺が渡した毛皮を腰に巻いたビルダーさんに訊ねる。
「俺は…奴らに、ラストが俺を…。
…そうだ、俺は…死んだ筈じゃ?」
思い出すのにやや時間がかかりはするものの、大まかには記憶にも欠損は無いようだ。
俺はマリ姉とアデリナと視線で相談する。
「…ビルダーさんに助けられた後、俺たちはこの奥で宝物庫を見つけて───」
マザーら人形スライム達のことは勿論のこと、アデリナの『死者蘇生』についても広く知られると面倒なことになる。
アデリナの『死者蘇生』に関しては一度大勢に見られているが、タイミングもあってか『大回復』あたりと勘違いされている節がある。
あの時近くにいたビルダーさんには『大回復』以上だとバレているだろうが、さすがに原形を留めていない状態からほぼ完全に蘇生出来ることまでは想像もつかないだろう。
ビルダーさんには悪いがそこは他人。
幸い『エリクサー』という伝説の蘇生薬の現物があるため、複数見つけた内の一つを使用したことにしてそれらしい説明をした。
「………そうか、…重ねて迷惑をかけた。」
何やら腑に落ちないといった様子のビルダーさんだったが、結局は俺たちの言い分を飲み込み頭を下げる。
「いや…そんな、…俺たちの方もビルダーさんに助けて貰ったんで。」
俺は慌ててビルダーさんに、頭を下げる必要が無いと伝える。
説明は誤魔化したが、これは紛れも無い本心だ。
あの時ビルダーさんに助けて貰わなければ、今俺たちは全員生きてここにいない。
迷惑というのはハッチら元〈絶対正義の力〉メンバーのことだろうが、奴らに関してはきっちりケジメをつけさせていた。
貸し借りという話だと諸々を含めて、良くてお互い様といったところだ。
「…そうか、………なら迷惑ついでに一つ良いか?」
ばつが悪そうにそう言うビルダーさんに、俺は頷く。
用件を聞く前に頷くのもどうかとは思うが、ビルダーさんの様子から無茶は言われないだろうと確信している。
「………、何か履くものないか?」
「「「………。」」」
「………。」
…スッ
俺はビルダーさんに、そっと予備のシャツとズボンを渡したのだった。
履いてんだろ?(片方の靴だけ)
…感想欄に鋭い?読者さんが居ましたねw
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