160 神にも出来ることと出来ないことがある
ここ最近ROMってました。
ネタ切れのためTips はナシです。
気になることがあれば、もしかしたらTips になるかも知れませんよ?(←露骨な感想稼ぎ)
………。
さて…じきにここは、ダンジョンから切り離される。
勿論、ショゴちゃんならば俺たちがここから出たことを感知できる筈で、独立した空間に取り残されるなどという事態にはならないだろう。
しかし、俺たちが掘ったここに繋がる隠し通路の入り口はそのままのため、あまり時間を掛けても他の探索者パーティーが来てしまうかも知れない。
そしてそのパーティーは、俺たちや人形スライム達とトラブルを起こす可能性が高い。
時間を掛けても良いことなど無く、素早くここを脱出するに越したことは無いのだ。
だが、その前にやりたいことが一つ。
「…アデリナ、いけそうか…?」
俺は闘技場の地面に残る乾きかけた血溜まりの側に膝をつき、アデリナに振り向いて訊ねる。
俺のやりたいこととは、つまり“ビルダーさんの蘇生”だ。
「………はい、…ただ…。」
暫し瞑想した後、俺に頷くアデリナ。
とりあえずは“蘇生不可”とならなくてホッとするが、何かを言い淀むアデリナの様子から、何かしら問題があるのだろうと察する。
「アデリナ、これは俺がアデリナに無茶を言っているんだ。
だから、何か問題があるなら教えて欲しい。」
マリ姉やニーニャに比べると、アデリナは付き合いがあって無いようなものだ。
二人ほど意思は伝わりにくく、性格もあってか遠慮がちなアデリナ。
だからこういう時は、はっきりと言葉にして伝えなければいけない。
「……御魂はこの場に留まっていたので、蘇生自体は可能です。
ただ…肉体の損傷が激しく、時間もかなり経過してしまっているので、肉体と魂…そのどちらにも不都合が生じる可能性が高いです。
…ですので、このまま神々の御許へと送った方が良い場合もあります。」
………肉体は、まぁ…原形を留めていない時点で、何処かしらに欠損が残ったりするのだろう。
魂となると…、………思いあたるのは記憶喪失とか性格が変わるとかだろうか?
欠損は最悪〈エリクサー〉でも何でも、後からどうにかする方法はある。
しかし記憶喪失となると、程度によってはアデリナの言う通りで、性格に関しても蘇生前と全く違うとなると、それはもはや別人だ。
そもそも、人は一度死んだらそれまでなのが基本なのだ。
それを手段があるからと言って、我が儘で歪めてしまっても良いものなのか?
(だけど…、それでも…!)
「頼むアデリナ、ビルダーさんを…蘇生してくれ。」
命を救われた恩があるというだけでなく、ビルダーさんは今後の冒険者ギルド〈ラビリンス〉支部に必要な存在だ。
…というのもやはり建前にしかならず、結局のところ知り合いを見捨てるのが嫌なだけなのだ。
(もし…万が一、アデリナの言う通りになったら…)
そんなことにはならないと、俺はアデリナと都合良く今だけは神々を強く信じている。
それでも、最悪が起こってしまった場合には、俺がビルダーさんを終わらせることを覚悟する。
「…分かりました。
─────────────…」
ポゥ…
一瞬躊躇うも頷き、『死者蘇生』の詠唱を始めるアデリナ。
早口というわけでもないのにその詠唱は言葉として聞き取れず、地面から沸き上がる光の粒が神秘を感じさせる。
「────────」
「ご主人、荷物が…!?」
「ん?…おおっ!?」
後ろからニーニャに声を掛けられ、振り向いた途端に目に入った光に驚く俺。
どうやら、背負い袋の中から光が漏れているらしい。
ゴソゴソ
何が光っているのかと、背負い袋を下ろして中身を漁る。
「こ、これは…!?」
光っていたのは俺の記憶が正しければ、咄嗟に回収していたビルダーさんの形見の靴だった。
「────────」
今回は幸いにもこうして死亡した場所で『死者蘇生』を行える状況だったが、敵が自分たちより強く逃走する場合、その場で蘇生を試みることなど不可能だ。
しかも今回の場合は一定時間で死体が吸収されてしまうダンジョン内だ。
後で安全地帯で蘇生を試すにしても、元となる肉体の一部は必要だと俺は思ったのだ。
「───────」
パシュ
「あっ…!」
アデリナの詠唱が進み、持っていたビルダーさんの形見が光の粒に変わり、俺の手から飛んで行く。
チカッ…チカッ…
俺の手から飛んで行った光の粒は、血溜まりのあった場所にいつの間にか出来上がっていた、人間サイズの光の繭に吸い込まれるように同化した。
「────────」
チカッ…、チカッ、チカッ
呆然として光の繭を見ていると、地面から沸き上がっていた光の粒が止まり、代わりに光の繭の明滅が早まっていく。
「────────」
チカッ、チカチカチカチカ
明滅の早さが極まり、もはや常に強く光っている状態の繭。
それは魔法に疎い俺にも、『死者蘇生』の完遂が間近であることを示す。
そして…
「────『死者蘇生』ッ!」
カッ!!
唯一聞き取れたアデリナの言葉と同時、光の繭が弾ける。
そのことを察していた俺たちは目を潰されぬよう、各々がしっかりと対策済みだ。
(ビルダーさんっ…!)
これだけ眩く光っていて、失敗などあり得ない。
しかし蘇生されたビルダーさんの状態を確認するまでは、決して安心するわけにはいかない。
未だ止まぬ光の中、俺は焦れる心を抑え目を伏せることしか出来ない。
スゥ…
そして実際には一秒にも満たないであろう閃光が、ようやくと思えるタイミングで収まる。
「ビ」
「「きゃあああっ!?」」
(マリ姉!?アデリナ!?)
ガバッ
突如響いた二人の悲鳴に、俺は慌てて顔を上げる。
「っ…!?」
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