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農家のデブ三男、兄に実家を追い出されて街で冒険者始めたらモテ始めました!?  作者: FURU
4章  迷宮都市と越冬

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155 種が変われば、価値観変わる

Tips:〈クレク連邦国〉

 アルペジオ大陸の東半分を占める〈死の砂漠〉に点在する都市により成る連邦国家。

 王政が主な世界において珍しい、各都市の代表による合議制国家である。

 〈死の砂漠〉全体を国土として主張しているが、実質的な支配領域は各都市の周囲数キロまでで、他は空白地帯。

 〈死の砂漠〉に埋まる古代遺跡の盗掘者達を祖とするためか「欲しい物はあるところから得る」という国民性であり、交易の中継により栄えている。

 商業ギルドの本部がおかれている。

 

 尊大な振舞いだとか人外だとか色々思いはしたものの、自身が粗雑な冒険者である俺は相手に礼儀などというものを求めるつもりは無い。

 そもそも相手は人より遥か上の存在であって、礼を尽くすとしたらこちら側になるだろう。


 そんな中で用件を先に聞いて貰えるのであれば、俺たちに否やは無い。

 というわけで、ここまでの道中にマザーらにも話した俺たちの目的を─


「は~い、それなら~わたしから伝えるわ~。」


「『む…そうか、ほれ。』」


ギュ…


 俺が口を開く前にマザーが進み出て、ショゴ…ちゃんが差し出した手を握る。


「………。」

「………『ほぅ、大体理解した。』」


 マザーとショゴ…ちゃんが握手して数秒、ショゴ…ちゃんが頷き手を放す。

 マザーの口調では俺が説明するよりも時間がかかると思ったが、今の数秒の接触で情報のやり取りをしたとでもいうのか!?


「『漂着物…末裔たちの言う遺物(アーティファクト)だったか?、確か…まだ処分してない物が幾つかあったな?』」


 漂着物と言ったり処分と言ったり、人が「遺物」として必死に求める物がまるでゴミ扱いだ。

 確かに、伝説の品々(アイテム)を生成出来る人型スライムらには無用なのだろうが…。


「ミミちゃん達が~、持ってた筈~?」


「『成る程。』」


 マザーの証言を聞き、頷くショゴ…ちゃん。


グニャ…!

「うおっ!?」


 するといきなり目の前の景色が何ヵ所か歪み、俺は驚いてその場から跳び退る。

 そういった素振りはなかったものの、歪みの原因はショゴ…ちゃん以外にあり得ない!

 

「おいっ!どういう…」


 「いきなり何のつもりか!?」と詰問しようとした俺は、下手人(ショゴちゃん)の方を向き別の意味で驚く。

 俺が顔を上げた視線の先…先ほど歪みが生じた場所に、なんと宝箱が鎮座していたのだ!


「今のは…、…『転送(テレポート)』?」


 ほら。

 すーぐそうやって、息するみたいに超上級魔法使う。


 「人ってこんな魔法使うのにも苦労するんだ~♡」ってか?

 その通りだよっ、種族差考えろメスライム!


「………、『平静』。」


「…サンキュー、アデリナ。」


 内心で荒ぶる俺に、アデリナの優しさ(神請魔法)が身に染みる…。

 …アデリナがちょっと呆れているのは気のせいだ、絶対。

 

「開けないの?」


 おっと、こんなことをしている場合では無い。

 物体の異なる座標への同時『転送』の難易度について考察しているマリ姉は置いといて、宝箱の中身が気になるらしいニーニャ。

 平静を装ってはいるが、僅かに開いた瞳孔やいつもより早めに揺れる尻尾が、ニーニャの“ワクワク”を示していた。


「『その必要は無い、…“吐き出せ”。』」


カパッ!

「ペッ!」

ベシャッ!

…パタン


 この間僅か3秒の出来事だった。


「………、〈箱魔物(ミミック)〉…?」


カパカパ♪


 お前(〈箱魔物〉)には聞いていない!


…………、パタン…。


 …なんか罪悪感が。

 てか、ムダに感情表現豊かだな!?


「『うむ。

 其れらは〈回収者〉、漂着物の回収・処理を任せている。』」


 遺物がゴミなら、〈ミミック〉はハウスキーパーといったところか。

 …もしかして、仕事を任せているということは〈ミミック〉も“同胞”だったりするのだろうか?


「『転送』は生き物には使えない筈…、“箱”魔物だから?」


 マリ姉も俺とは別に、現れた〈ミミック〉のことで頭が一杯のようだ。


「ご主人…、はい…。」


 先ほどとはうってかわり、露骨にテンションの低くなったニーニャが、俺に何かを渡してきた。


ヌチョ…

「ホァアッ!?」


 思ってもいなかったヌトヌトとした感触に、俺は受け取った物を思わず投げ捨てる。


ペチョッ!


「何だ、…〈ポーション〉?」


 投げ捨てた物を恐々と確認すると、粘液にまみれた中身の入ったポーション瓶が転がっていた。

 …ニーニャのテンションがダダ下がりになるわけだ。


 見た感じ瓶の中身は濃い緑色…つまりほぼ確実に〈ハイポーション〉なのだが、あれだけ求めていたアイテムであっても魔物の唾塗れはちょっと…。


「あら~、古いやつを回収してくれていたの~?

 良い子、良い子~。」

ナデナデ


 …そう言えば、帝国には何代か前の皇帝が帝位争いで献上した〈ハイポーション〉が保管されているらしいと聞いたことがある。

 するとその〈ハイポーション〉は、少なくとも数十年は宝物庫の肥やしなわけなのだが…。


 ま…まぁ、魔法薬は腐らないということで。

 俺たちの誰かが飲むわけでも無いし?


 というわけで1つ目?…1体目は、新鮮な〈ハイポーション〉を得た俺たち的にはハズレ。


シュワシュワ…


 仮に取っておきたくとも、もう消化されてしまっているのだが。


「…そうか、『召喚』だったら辻褄が合うわ!」


 あー…言われてみれば、〈ハイポーション〉を瓶ごと消化してた。

 他が色々とあり過ぎで違和感がなかったが、それは〈スライム〉の特徴だった。


「〈ミミック〉は、いわば外格のある〈スライム〉というわけだったのね!」


 巨人の遺骸に入り込んで動かしていたのだから、宝箱に入って動くことなど〈スライム〉に取っては造作も無いことなのだろう。

 悩みの種だった同時『転送』のネタついでに、長年不明だった〈ミミック〉の正体が判明したことで興奮気味であるが、マリ姉の気分が晴れたようで何より。


 1体目の中身は、事実上ハズレ。

 残る〈ミミック〉は9体。

 

 せめて何か1つは有用な遺物が欲しいものだ。

 


 

 

次回、いよいよ〈???〉の入手か!?



いつも読んでいただきありがとうございます。


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