154 (人)外なるモノ
Tips :『呪術』
人ならざるモノに人が授けられた『魔法』と異なり、人…取り分け人間が独自に発展させた技術。
ある程度体系化された『魔法』と異なり、人の意思で世界に干渉する『呪術』は一子相伝の秘技であり、『呪術』を扱える家系の者はシャーマンと呼ばれる。
意思…大概は感情に因って行使される『呪術』は、陽に因るものが“まじない”、陰に因るものが“のろい”と分けられるが、根本的には同じ『呪術』である。
陰の感情に因って行使される『呪い』は〈悪魔〉や〈ヴァンパイア〉の使うスキル『刻呪』に通ずるが、人一人の行使する『呪術』の効果は“有って無い”ようなものである。
世界に干渉するには、人の身は矮小過ぎるのだ。
しかし侮ること無かれ。
感情というものは時として、神の力にも匹敵する現象を起こすのだから。
理解力を遥かに超えた情報の暴力により軽く発狂した俺だったが、アデリナの『平静』により無事に正気を取り戻した。
そしてその間のマザーらと言えば…
「チュッチュッ…ぷはぁっ、やっぱり美味し~♪」
「チュ…チュルッ、はふぅ…。」
アルちゃんから直飲みで〈神酒〉を堪能していた。
いや…確かに“そこ”なら二つあるし、人から見ても違和感は少ない。
だが、エリちゃんは「ギリッ…、ギリセーフ」だとしても、グラマラス体型のマザーはもう“そういうプレイ”にしか見えなくて…ちょっと引く。
シュウゥ…
「………マザー…、そろそろ次…。」
〈神酒〉を飲んでも変わらない様子だったエリちゃんが、未だにアルちゃんに擦り寄っているマザーを窘める。
「あら~…?ちょっと待って~貰えるかしら~…。」
一応意識ははっきりしているようで、マザーは名残惜しそうにしながらもアルちゃんから離れる。
シュワシュワ…
「………ん、じゃ行きましょ~。」
酔ってフニャフニャの状態から、急にシャキッとして(マザー比)先導を再開するマザー。
エリちゃんもそうだったのだが、体内の酒精を急速分解したのだろう。
(二日酔い知らずの身体とは…、羨ましい。)
「ポンちゃんとラヴァちゃんはどうする~?」
「…止めといた方が良い…、死んじゃう。」
「それもそうね~。」
何だか「死ぬ」とか聞こえたが、どうやら自重してくれるようで一安心だ。
「ピンちゃんは?」
「………ピンクも無し…、時間がかかる…。」
「あ~…、同胞だものね~…。」
どうやら致死性ではないものの、今訪ねるには適さない種の人型スライムも居そうだ。
…ひょっとしてその種って、〈セイなるダンジョン〉に潜むと有名なやつでは?
(出来れば、土産として生成物を小瓶にでも貰えたりしないだろうか…?)
… … … … … … …。
… … … …。
…。
森を奥へ奥へと進んで行き、木漏れ日溢れる爽やかな森は、いつの間にか薄暗く重苦しい雰囲気へと変貌していた。
ヒュオオォ…
ダンジョン内の不思議空間らしく吹き込む風など無い筈なのだが、呻き声のような風鳴りが聞こえる。
本当に風鳴りかは、…考えない方が良さそうだ。
「うぅ…、何かぞわぞわする雰囲気ね…。」
そう言って腕を擦るマリ姉の腕には鳥肌が立っており、ニーニャは尻尾を僅かに膨らませ、アデリナは創世教のシンボルを握り締めていた。
俺たち全員が何かしら良くないモノを感じている一方、マザーやエリちゃんも何かに引き寄せられているように無言で歩みを進めている。
ズッ…
「何だ!?」
ババッ!
何かを潜り抜けたような感覚に、一気に警戒態勢をとる俺たち。
「ふぅ~…、ショゴちゃんの結界は相変わらずね~。
あっ、そんな警戒しなくても大丈夫~。」
調子の緩くなったマザーに言われ、警戒を解きながら気付く。
マザーの言う「結界」とやらを潜り抜けた今、先程まで感じていた忌避感が消失していたのだ。
「…こんな強力な人避けの『結界』、ここに一体何があるというの…?」
やはりこういったことに詳しいマリ姉が、結界の効果を看破し、その目的を考察し始める。
(見た感じ普通の…いや、スライムの森だが…)
俺がパッと見た感じでは、不気味に変貌する前の爽やかな森のようにしか見えないのだが…。
(いや…スライムが、居ない…?)
ここはスライムの森と言うに相応しく、結界内に入るまではあちらこちらに色とりどりのスライムを見かけたものだが…
ズンッ…
「『ようこそ同胞に連なる者と伴侶達。』」
「がぁッ!?」
「「うっ!?」」
「っ…!?」
結界内外の差異に気付いたと同時、凄まじいというのも生温い圧力と頭に直接響く声。
マザーに言われたからというわけではないが、結界内の調査に気が向いていた俺たちは、圧し潰されそうになるプレッシャーに膝を突く。
(ぐぅっ、何が…っ!?)
一先ず俺より辛そうにしている3人を守るべく、せめて状況の把握をしようと顔を上げた俺は魂を掴まれたような感覚に襲われた。
「『ほぅ…、動けるのか。
力は稀薄となっていても、戦士の血族なだけはあるようだ。』」
その面白そうな声音とは裏腹に俺を無表情で見下ろすのは、夜空が凝縮され人型となったような存在だった。
この存在もスライムなのか、体内に無数に煌めく光が鳩尾に向かって渦を描きながらゆっくりと動く。
「ショゴちゃ~ん…、それしまって~…。」
「『水の…まぁ、良い。
…確認だ、許せ。』」
フワン…
泣きの入ったマザーに呆れた声音を出すものの、「ショゴちゃん」なる存在は『平静』を行使した際の効果光にも似た、緑の光のベールを纏う。
(お…?)
途端に物体に作用する程に強烈なプレッシャーが、威厳を感じる程度にまで治まる。
「っ…プハァッ!……はぁ…はぁ…。」
圧力から解放され、荒く息を吐く3人。
もしマザーが泣きを入れなかったら…、と思うとゾッとする。
しかし、こちらのことなどお構い無しに目の前の存在は告げる。
「『改めて歓迎しよう、戦士の末裔と伴侶達。
早速だが…、“まずは”其方の用件を聞かせて貰うとしよう。』」
そうあることが当たり前のような尊大な振舞いを見せられた俺は、マザーやエリちゃんがまだ人に近い存在だったのだ…ということを実感したのであった。
名前が出た人型スライムには一応Aiイラストがあります…が、ピンちゃんだけはカラーリング的にアウトなので自主規制。スマヌ…。 > orz
シル、アル、ポン、ラヴァ、ショゴは希望があれば〈みてみん〉にupするかも?
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