13 狩り〈初心者の森〉
時は進み、そして戻る
2024.12.13
森に出現する魔物が抜けていたので追加しました。
─ 一ヶ月と数日後 ─
俺が冒険者登録をしてから約一ヶ月が経った。
あれから色々…少々人に言うのが恥ずかしいことがあったりもしたが、農民からのスタートと思えば順調と言える生活を送ってきた。
ギィ…
一ヶ月前は半ば諦めの境地で開いた扉も、今では…
「あ、ラストさん!
お帰りなさい、ご無事で何よりです。」
チュートリアルの一ヶ月間ですっかり馴染みとなった受付嬢のリタが、カウンターから身を乗り出して手を振ってくる。
「ああ、ただいま。
…ちょっと焦った瞬間があったがな。」
爛漫な笑顔のリタに帰還の挨拶を返す。
チュートリアル期間の専属は既に解除されているが、それ以降も変わらない依頼出発時の「いってらっしゃい」と帰還時の「お帰りなさい」が、俺に擬似的な家を感じさせる。
「ちっ、ビビりオーク野郎がよ。」
リタと俺のやり取りを見た、チュートリアルスキップ(←ここ重要)の冒険者が、俺の黒歴史を当て擦ってくる。
(まあ、チビりオークよりはマシだな。)
人の噂も三十五日…だっけか?
思っていたより早く消えた不名誉な渾名に安堵する。
そう…あれは2日目の薬草採集、3日目~5日目の街内依頼、6、7日目の常設依頼をこなした後のことだった。
7日目のブルーキノコの採集中に、偶然小振りなウリボアを倒すことができ、6,000ゴールドを手にした俺は、翌日の8日目を久々の休息日にあてて過ごした。
─ 冒険者生活9日目 ─
休息日の翌日、疲れのとれた俺は意気揚々と冒険者ギルドへと向かった。
「今日の依頼を頼む。」
「あ、ラストさん!
コホン…承知しました、少々お待ち下さい。」
専属受付嬢のリタが嬉しそうに俺の名前を呼ぶが、隣の受付嬢に睨まれ態度を改めてしまう。
俺に待つように言ったリタは席を立ち、受付カウンターの奥へと行ってしまった。
「…用が済んだら退きな。」
いつの間にか後ろに来ていた冒険者の男が俺にそう言うが、待てと言われたから待っているのであって、仮に俺が退いたとしても受付は不在だ。
「てめぇ…、生まれたてのウリボア狩れたからって調
子乗ってんじゃねぇよ!」
首を傾げたまま退かない俺に、突然怒鳴り始めた男が掴みかかって来た!
「おっと!?」
ガンッ!
「~~っ!?」
俺が咄嗟に横に避けると、空振った男がカウンターにぶつかった。
(うわぁ…、今のは痛い。)
男の悶絶具合から、鳩尾にでもカウンターの角が入ったのだろうか?
「かひゅ…てめ、よくも…!」
俺を睨む男だが、いきなりキレて勝手にぶつかっただけだろうに…。
「何をしている?」
もう一度俺に飛びかかろうとした自爆男だが、聞こえた声にビクリとして止まる。
「ギ、ギルマス…。」
「おう俺だ。
…で、もう一度聞くぞ?
『何をしている?』」
一度目は静止を兼ねていたのか、二度目のそれは最早尋問だった。
「イエ、ナンデモナイデス…。」
ドスの効いた声でギルマスに凄まれた自爆男はカタコトでそう呟くと、ギクシャクとした動きでギルドの外へと逃げて行った。
「………。
よしラスト、今回の依頼はだな─」
「「「「「………。」」」」」
静まりかえったギルド内、何事も無かったかのように話を進めるギルマス。
この時の俺を含めた冒険者達の内心は一致していたことだろう。
(ギルマスは怒らせないようにしよう…。)
… … … … … … …。
… … … …。
…。
ザッ…、ザッ…、ザッ
「森歩きは慣れてきたか?」
今回のチュートリアルで狩る魔物を探して〈初心者の森〉を歩いていると、前を行くギルマスに訊ねられた。
「森の歩き方は知っている。
それより話をしていいのか?」
村でも山の恵みを求めて森歩きはしていた。
その時は山に住む魔物を刺激しないように、静かにするのが鉄則であった。
「この森だと奥にさえ行かなければ、むしろ話をしていた方が寄って来ないのさ。」
この〈初心者の森〉に生息する魔物は、歯鼠、角兎、ゴブリン、の魔物最弱四天王三種に、ウルフ、幼魔猪、オーク、大牙鬼らしい。
この中で今歩いている〈浅層〉に出現するのは歯鼠、角兎、ゴブリン、ウルフ、ウリボア、稀にオークだ。
そして冒険者が頻繁に出入りする〈浅層〉は“森だが人の領域”であり、余程飢えていなければウルフも人を避ける。
何処へ行っても狩られる側である歯鼠や角兎は言わずもがな。
「〈浅層〉で狩りをするなら静かにしろ。」
それが〈初心者の森〉に入る者が一番に教えられることだとギルマスは言った。
何故狩人や冒険者以外もかと言うと、この森にも村の山同様に、森の恵みを求める街の人が〈浅層〉にまでなら入るからだ。
つまり「騒がしくしていれば魔物は寄って来ない」ということで、比較的安全に採集が出来るのだ。
「だが“奴ら”は例外でな。
まあ、避けないわけではないんだが獣型の魔物と比べると鈍くてな…。」
それが比較的と言われる理由。
最弱の一種とあって単体であれば、刃物を持った大人なら問題は無い。
例え複数や子供が遭遇しても、逃げるだけなら簡単。
それでも毎年何人かは“奴ら”に不意を突かれて犠牲になる。
「だから“奴ら”の討伐は常設依頼になっていて、発見したら討伐をギルドで推進しているってわけだな。」
街で暮らしていても、人は森の恵み無しに生活を営むには難しい。
特にどの森にも生えている薬草でも、畑で栽培することは現在不可能らしい。
そういったものを安全に採集出来るというのは、思っているより重要なようだ。
「ラスト、あれを見ろ!」
今回やることの重要性を認識したところで、前を歩いていたギルマスが立ち止まり、何かを指し示した。
法被を着た男「ええぇえ~~っ!?」
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




