142 自責で炭鉱鳥
ハッチ 無印・3
ウッド 3
ヘルトゥス 無印
一日置きに〈第5層〉でゴーレム狩りをしていた俺たちと、長年ダンジョン探索をしてきた〈絶対正義の力〉2パーティーによる連合は、これまで然したる苦労もせず、〈第5層〉までを順調に探索を進めていた。
ただ道中、やはりというか何というか…ボロボロになって撤退するパーティーや、ギルドカードの回収もされず放置された死体をかなり見かけることとなった。
「~~~ッ!」
そしてまた…〈坑道〉のような音の響くフィールドで、「魔物を呼び寄せないようなるべく静かに行動する」という基本を守る余裕のないパーティーが近付いて来る。
…チャ、ガチャ、ガチャ
「おいっ、しっかりしろ!」
「すぐに教会だからな!だから死ぬな!!」
「2人とも、急いで!」
負傷したらしき男一人を男二人がかりで運び、負傷者に呼び掛ける二人を急かす女の4人パーティーだ。
メンバーに女を含み全員が年若く、装備する防具に金属が多く使われていることから、《光の騎士団》に所属していたパーティーだと思われる。
「…ありゃ、もう死んでるだろ。」
運ばれる負傷者を見て、ビルダーさんはそう断じた。
「ああ…、首が逝っちまってる。」
ビルダーさんに同意するハッチさんの指摘を受け、負傷者の胸から上を良く観察すると…確かに頭が不自然に揺さぶられていた。
ヘルメットが肩に引っ掛かって頭が支えられていることで、仲間がやられて動転した彼らには判断が難しかったようだ。
仲間を見捨てない精神は立派だが、このままでは共倒れになることだろう。
「っ、ねえ…あそこ!」
俺たちが脇に避けて向かって来るパーティーを見ていると、男たちを急かしていた女が俺たちに気付く。
「あ?…って、うぉ!?」
俺たちに気を取られ、仲間の死体を運ぶ片割れがバランスを崩す。
「馬鹿っ、気を付けろ!」
何とか死体を落とさぬように担ぎ直したもう片方の男が相方を罵倒し、顔をこちらに向ける。
そしてビルダーさん一行を目にし眉をひそめ、俺たちの方に視線を流すと目を見開いた。
「あんた…、「聖母」かっ!?」
「何っ!?じゃあこいつは助かるんだな!?」
「ええ、きっとそう!」
アデリナがいると見るや否や、勝手なことを言ってこちらに駆け寄って来る3人。
「お前らちょっと待て!
そいつらは何も了承しちゃいないぞ?」
近付いて来るパーティーに「待った」をかけるのは、連合のリーダー的存在のビルダーさんだ。
「はぁ?了承もくそもあるかよ!」
「そうだ!こいつを見捨てるっていうのかよ!?」
確かに…冒険者は全てが自己責任ではあるが、助け合いというのも馬鹿にならない。
しかしそれはあくまでも助ける側の善意によるものであって、「助けて当然」「助けないのは悪」といった態度はいただけない。
(あの時の俺も“こんなん”だったのか?)
思い出すのは友を喪った日、俺が力と〈ハイポーション〉を求めてこの街に来るきっかけとなった出来事だった。
立場が逆となった今、俺はアデリナに『死者蘇生』を使うように頼むべきなのだろうか?
「見捨てるも何も…、そいつもう死んでるぜ?」
ビルダーさんに食って掛かる男2人に、ハッチさんが事実をぶちまける。
「馬鹿言うな!そんなわけ……。」
「…嘘だろ?」
ここに至りようやく現実を目の当たりにし、呆然とする男2人。
しかしそれでも尚、諦めきれない者がいた。
「『蘇生』使えるんでしょ!?私たち見てたんだから!」
元《光の騎士団》だっただけあって、あの時アデリナが俺に『死者蘇生』を使ったところを目撃していたらしい。
…魔力を消費させることになるが、やはりアデリナに頼むべきなのだろう。
そう判断した俺がアデリナに『死者蘇生』を頼もうとしたところ、俺はビルダーさんの次の発言で思い違いをしていたことに気付かされることとなった。
「残念だが『蘇生』は死者には効果が無い。
…魔法の無駄撃ちで、俺たちの回復手段を減らすのは止めて貰おう。」
(っ…!?)
確かにアデリナが『死者蘇生』を使えることは、俺たち〈白の大樹〉の秘密だ。
しかし俺に『死者蘇生』が使われた際近くにはビルダーさんがいた筈で、ビルダーさんが俺が一度死んだことに気付かない筈が無い。
つまりビルダーさんは、彼らの仲間を見捨てるという判断をしたわけなのだ。
「コソッ…。」
ビルダーさんの決断に動揺した俺に、ハッチさんがすかさず耳打ちをしてくる。
「(今お前、ビルダーのこと非情だって思っただろ?)」
そんなことは無い…筈。
ただ…救いを求めたことがある身として、救える手段があるのに救わないことに据わりが悪いだけで…。
「(奴らの仲間が死んだのは、自業自得ってやつだ。…ほら、奴らの目元を良く見な。)」
(隈…。)
ダンジョンの〈第6層〉以降が解禁されたのは昨日の昼間。
そこから俺たちは探索の準備を行い、休息を取ってダンジョンアタックに望んでいる。
一方の彼らは準備が特に不足しているようには見えないが、俺たちの連合に先行していたことを考えると、俺たちが休息している間にダンジョンアタックを開始したということだろう。
寝不足で集中力を欠いたことにより、〈ゴーレム〉の一撃をモロに食らったのが死因なのだろう。
「クソッ、何でこうも上手く行かない!?」
「…ヒューバートだ、あいつが帰って来たから…!」
「そうよ!〈荷運び〉のくせに〈悪魔〉を『使役』なんかするから!」
仲間がどうあっても助からないと知り、それでも俺たちに何らかの文句を言うかと思えば、俺の予想を超えて生還者のヒューバートに恨みを叫び始めた男女3人。
(一体何だってんだよ!?)
責任転化にしても異様に思える様子に、俺は呆れや嫌悪より恐怖を覚えた。
「ちっ…。
これ以上関わってられるか、…行くぞ。」
そしてそれは俺だけでなかったのだろう。
少し苛ついたビルダーさんの号令で、俺たちの連合はその場から離れるのだった。
「~~ッ!」
「~~~ッ!」
…しばらくの間俺たちの背後からは、怨嗟の叫びが聞こえていた。
連合一同(こいつらヤバ…、関わらんとこ。)
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