138 帰還者ヒューバート ※別視点あり
視点の温度差をお楽しみ下さい
感想100件記念に前倒し投稿です。
行方不明だったヒューバートの帰還。
それにより冒険者ギルドは俄に慌ただしくなり、街全体にも少なからず波紋をもたらした。
そしてヒューバートの帰還がもたらした波紋は、俺たちにも影響を与えた。
「アデリナ、大丈夫か?」
「はい…、ご迷惑をおかけしてムグッ」
青白い顔のアデリナの口に指を当て、俺は謝罪の言葉を遮る。
昨日ヒューバートの帰還に居合わせてから一晩が経ったが、その時のアデリナは倒れなかったのが不思議なくらいに蒼白となっていた。
寝不足もあるのだろうが今も具合が悪そうにしており、これ以上に気を病んでいては治るものも治らない。
「〈楔の絆〉の壊滅は事故だから気にするな」と言ったところで、アデリナが自責を感じなくなることは無いのだろう。
なまじ、『死者蘇生』を使えてしまうから、アデリナは「〈楔の絆〉を見捨てた」と頑なに感じるのだろう。
…俺のそれと同列に語るのもあれだが、トラウマは得てしてそういうものなのだ。
俺たちに出来ることなど、気持ちを穏やかに寄り添うくらいなもの。
しかし、当のアデリナは気にしてしまっているが、トラウマは誰かが寄り添うだけでもかなり和らぐことを俺は体感した。
実際、マリ姉やニーニャが付いていた時などは、短時間ではあるが穏やかに眠っていたらしい。
やはり同性というのが良いのだろう。
…俺、最近は本当に役に立たんな?
ま、まあ別に?俺はマリ姉たちに万が一が無いように守れれば良いし?
いざという時以外はドンと構えてろって親父も言ってた!(※言ってない)
俺の焦りなど知ったことかと、〈白の大樹〉の休息日の時間は穏やかに流れていったのであった。
─ 冒険者ギルド視点 ─
ラストが自分の役割が無いことに焦っていた頃、冒険者ギルドは休息日でも何でもなく、表向きには通常通りに運営されていた。
しかしその裏では、数ヶ月遅れで帰還したヒューバートに対して、ラビリンス支部ギルドマスター直々の事情聴取が行われていた。
「…さて、ヒューバート君。
君が生還したことは大変喜ばしいことなのだが、この数ヶ月どうやって生存していたのか…。
是非とも聞かせて欲しい。」
細身で眼鏡を掛けたお堅い役人といった印象の侯爵家出身のギルドマスターは、少しの情報も見逃さないといった鋭い視線を昨日生還したばかりの青年に向ける。
言葉に反して好意的ではない視線を向けられたヒューバートだったが、成人したばかりとはいえダンジョン内で生き延びる内に胆力も鍛えられたようで、
「えっと…“冒険者の秘密”っていうのは」
「今回の件に関しては、話して貰わなければならない。」
「…ですよねぇ。」
個人主義の冒険者にとって、自分のスキルや狩場の情報は重要な財産。
魔物の生態などある程度の情報共有はされるわけだが、「冒険者の秘密」と言われたら“通常であれば”それ以上の詮索はギルドマスターさえ…むしろギルドマスターだからこそ詮索するわけにはいかない。
本来ギルドが保証するべき冒険者の秘密をギルドマスターが暴こうとする暴挙に対し、ヒューバートは「一応、言ってみただけ」というように苦笑いするのみで済ませる。
「済まないとは思うが、今回は事が大きくなり過ぎた。」
そう弁明するギルドマスターの脳裏に浮かぶのは、おおよそ聖職者に相応しいとは思えない司祭の嫌らしい笑みだった。
教会が情報を制限した上で代表パーティーの失敗を報じたことで、冒険者ギルドの信用は失墜しギルドマスターは随分と苦労することとなった。
ギルドの信用自体は最近になって回復してきたものの、失点はなかったことにはならない。
そこで教会への意趣返しを兼ね、非戦闘員であるヒューバートがダンジョンで生き延びられた理由を詳らかにする。
そうすることで、ダンジョン探索の活性化を促し深層の攻略を以て失点を取り返す…というのがギルドマスターの魂胆であった。
「その節は迷惑を…。」
然り気無く騒ぎの責任の一端を押し付けられたことに、果たしてヒューバートは気付いたのか。
「う~ん…別に話しても良いですけど、信じて貰えますかねぇ…。」
少し悩んだ末、ヒューバートは特に含むこともなく呟いた。
そしてヒューバートのその呟きを、ギルドマスターは貴族的な意味合いで聞き咎めた。
「ほぅ?…ならばどれ程荒唐無稽な話か、実に興味がある。」
ここでヒューバートを咎め立ててヘソを曲げられるだけ損だと考えたギルドマスターは、体面を取り繕いヒューバートに話を促す。
「あっ!見た方が早いと思うんで修練場行きましょう。」
ギルドマスターの限界は近い。
…………………。
…………。
…。
場所を移して、ギルドの修練場。
中央にはヒューバートが無手で立ち、その後方の隅には監視するような厳しい視線のギルドマスター…と偶然ギルドに居合わせ好奇心のまま付いてきた野次馬冒険者達。
「じゃ、いきますね?
『臣下呼出』、召喚ッ“〈悪魔〉”!」
カッ!
「何用だ?仮初の我が王よ。」
修練場が阿鼻叫喚の渦となるまで、後数秒。
ヒューバート「あれ?僕何かしちゃいましたw」
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